(『天然生活』2022年1月号掲載)
服づくりも、暮らしもここにあるもので
京都市内から車で2時間ほど、山間の小さな集落。美しい棚田が続き、足もとには野花。「冬場は1mほど雪が積もりますね」と、迎えてくれた居相大輝さん、愛さん。
自分たちで古い家を直し、畑仕事しながら、服をつくります。ここに暮らして8年、糸草(しぐさ)ちゃん、白揺(はゆ)ちゃんが生まれて、いまでは家族4人になりました。
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居相大輝さん、愛さん、長女・糸草ちゃん、次女・白揺ちゃん。糸草ちゃんのエプロンは泥染めで「一緒に染めた」のだそう
「子どもは毎日やることが変わる。“いまそこで寝るの?”って思いながら一緒に横になったり、楽器を鳴らしたり、子どもの流れに合わせて生活しています。以前はルーティンを決めていましたが、できなかったときストレスになるから、いまは決めないことを大事に。子どもにならって心地よく過ごし、そのときを生きる。子どもが扉を開いてくれます」
移住のきっかけは、東日本大震災。東京で消防士をしていた大輝さんは現地に派遣されました。
「任務にあたるその場では、言葉にならない状態でしたが、後になってふつふつと光景がよみがえってきて。自分のしたいことは何なのか考えるようになりました」
自分に問いかけて、たどり着いたのが、服。服を着ることが好きだった大輝さんは、体が喜ぶ、服をつくりたい。いつ何が起こるかわからないから、生きる力を身につけたい。
家をつくり、畑を耕し、服をつくる暮らしがしたい。
「土に近いところで、土を触りたかった」と、大輝さんはいいます。
専門学校で学んだことはなく、服づくりはほぼ独学。パターンは用いず立体裁断、あるいは平面で自由にカッティングして、思うままつくる衣服はすべて一点もの。
「服が似合うのはスタイルのいいモデルだけではない。年齢を重ねてきた体も美しいと思うから、だれにでもなじむ服をつくりたいという思いがあります。ゆったりとしていたり、ひもでゆるく縛ったり。服に体を合わせるのではなく、服が体に合わさっていくような」
静岡の遠州織、兵庫の播州織など産地をめぐり、人柄にひかれたつくり手から生地を仕入れる。染めは自然素材を使い、庭の川辺で。
「最初はミョウバンを媒染剤に使っていましたが、いまは田んぼの泥や灰を用いています。集落を流れる水だから、この地にあるものだけで染めて、土に還るように」
工夫
自然の恩恵を受け、可能な限り身のまわりのもので服をつくり、染める
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庭にある畑で野菜やハーブを育てる。ぶどう棚の下で、大輝さんは染めを。子どもたちもできることは一緒に
大輝さんが一着ずつ手づくりする、「iai」の衣服。染めも自分で。ぶどう棚の下の川べりで、集落で採取した自然素材を用いて。
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2014年に居相大輝さんがスタートさせた「iai」。デザイン、縫製、販売まで、みずから手がける
「染色家ではないので、きれいな色に染めることに重きを置いていなくて、この地で育まれたエネルギーを布に宿す気持ちで染めています」
草木の花や葉、根っこ、皮、鉱物、苔など、春夏秋冬そのときにめぐり合ったもので。
土に還るもので染めれば水もきれい。
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藍染めは庭に育つタデアイの葉を使用。藍甕(あいがめ)に生地をつけて染み込ませ、川の水で洗う
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川の水に配慮して、泥や灰など、土地のものを媒染剤に
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染めの原料は季節で替わり、このときは栗のイガや杉皮など
<撮影/辻本しんこ 取材・文/宮下亜紀>
居相大輝、愛(いあい・たいき、あい)
「iai」主宰。山村で暮らしながら衣服を生み出す。すべて一点もの、めぐり合わせも楽しみ。展示会、オンラインストアにて販売。 http://iaihanaiten.com/ インスタグラム@_____i_a_i/
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです