(『天然生活』2022年1月号掲載)
地域と人をつなぐ、パン屋ラムヤート
ラムヤートにはいつもだれかが訪れている。芸術家に菓子研究家、ミュージシャン。札幌から道内から、東京から全国から。
2年近く前に取材で訪れたとき、合間に今野満寿喜さんがごみ袋片手に向かいの水の駅まで歩いて行くのが目に入りました。
何気なく見ていると、駐車場のごみを拾い始めます。するとスマホ片手の観光客と思しき人が。
満寿喜さんは「どこかお探しですか?」とみずから声をかけ、周辺のお店をさらりと案内。
最後に「楽しんでくださいね」とも添えて。きっと本人は覚えてすらいない、ささやかな日常。
でも、なぜここにみんながひかれて集まるのか、その秘密が少しだけわかった気がした瞬間でした。
北海道・洞爺湖町に店を構える、パン屋ラムヤート。
15年前、湖を望む町の美しい景色とそのサイズ感にひかれて夫婦で移住してきましたが、意外にも、当初から「お店をやろう」と意気込んでいたわけではありません。
一軒一軒訪ね歩きまわりながらようやく見つけた住まいが、偶然にも昔は商店街だったところ。
そこで、「また商店街ができたら地域の方は喜ぶだろうなあ」とまずはパン屋を、それから引き寄せられるように少しずつ仲間が集まり、いまのような魅力的な個人店がそろう“商店街”となったのです。
「僕自身は、周囲の役に立たないなら自分の個性は不要だと思っていて」と満寿喜さん。たとえ自分を嫌いな人でも、満寿喜さんはその人を拒否しません。
「だって好きになった方が楽しいじゃないですか。たとえば嫌いな食べ物があったとして、早めに克服すればその先はいろいろな料理を楽しめます。得だと思うんです。自分の個性は周囲のおかげで形成されていると思っているからこそ、自分は周りのためにあるべきだと思っています」
そんな満寿喜さんを、妻の美環さんがそばでそっと支えています。
工夫
“けんけん”で行ける距離に心躍るお店を集めて
「移動が苦手」と話すふたり。
「ラムヤートからけんけんをして行けるぐらいの近所にいろいろなお店があったら、地域にとっても暮らしが豊かになる」と考え、感性が合いそうな人に声をかけながら、時間をかけてつくりあげた“商店街”には、コーヒー店に焼き菓子屋、日用品店が集います。

いまでこそ穏やかなにぎわいを見せる店の界隈だが、すべてはふたりでここから、ラムヤートから始まった

裏には「anan coffee(アナンコーヒー)」、その先には焼き菓子屋の「しまりすや」が

日用品店「toitaトイタ」は、通りを一本挟んで隣。冗談のように発したひと言でこの物件を借りられたと満寿喜さんは話すが、長年における彼のまっすぐな行動を地域の人が信頼したからこそ

会えば笑い声が絶えない商店街の仲間
自然と近隣に出店する人も現れ、満寿喜さんがまいた種が時を経て、のびのびと育っていました。

壁の絵は娘とその友達作。「こんなところに!」と、意外な場所で娘の落書きを見つけるのが、満寿喜さんの楽しみでも
<撮影/古瀬 桂 取材・文/遊馬里江>
今野満寿喜、美環(こんの・ますき、みわ)
北海道・洞爺湖町にある薪窯のパン屋・ラムヤートと、日用品店のtoitaオーナー。商品は仲間と立ち上げたオンラインショップFROm TOYA からも購入可能。https://fromtoya.shop-pro.jp/
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです

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