(『天然生活』2022年10月号掲載)
ごみを減らすアプローチから食や暮らしを見つめ直す
徳島県にある人口1,400人あまりの上勝町。深い山々に囲まれたこの小さな町は、2003年に「ゼロ・ウェイスト」(廃棄物を減らす活動)を日本で初めて宣言した自治体として知られています。
町にごみ収集車はありません。生ごみはコンポストなどを使って各家庭で処理し、それ以外のごみは町内の資源回収拠点「ごみステーション」に住民が運んで細かく分別します。その数、なんと45項目。
「ていねいに分別することで、ごみの処理費を安く抑えたり、資源として高く売れるようになるんです」
そう教えてくれたのは、上勝町で生まれ育った東輝実さんです。
ゼロ・ウェイストを目指す「カフェ・ポールスター」を営みながら、世界中の人に向けた滞在型教育プログラム「イノウ」に取り組む東さん。生活ごみを減らすうえで、食と台所の見直しはキーポイントになるといいます。
「食材は食べ切れる分だけ買う、野菜は皮ごと食べ、だし汁に使った食材はふりかけにするといったホールフードの意識を持つ、ラップはなるべく使わないなど、小さな積み重ねが重要です。私たちが日々やっているのも、こうした基本的なことばかり。どこに住んでいても、ごみは必ず減らせます」
ゼロ・ウェイストを通して暮らしのあり方を考える
上勝町の台所で「おなじみ」というものがあります。それは洗濯用のピンチハンガーに吊るされた、プラスチックごみ。
住民はより確実な資源化のために「洗って乾かす」を徹底しているのです。こうした町ぐるみの取り組みにより上勝町は、2018年にリサイクル率80%を達成。その一方で、「ゼロ・ウェイストの町なのにこんなにプラスチックごみを出すの?」と驚かれることもあると、東さん。
「何を優先するか。これに尽きると思います。上勝町は周りの自然を守るために『ごみの焼却と埋め立て処分ゼロ』を優先し、リサイクルの推進を選びました。でもリサイクルするにもエネルギーを使うし、ごみを洗った排水で川が汚れる可能性もある。絶対的な正解はないからこそ、幅広い視点でよりよい道を探り続けたいですね」
東さんが主宰するイノウは、ゼロ・ウェイストを知識としてではなく、生活を通して学んでほしいという気持ちでスタート。上勝式のごみの出し方はもちろん、地元の人に伝統料理を教わったり農作業を手伝ったり、参加者は町の暮らしをさまざま体験します。
ステンレスストローやセラミックのコーヒーフィルター、コンポスト「キエーロ」はゼロ・ウェイストの体験ツール。「このキエーロはドイツの参加者の手づくりです」
「イノウという言葉は『家に帰ろう』という上勝の方言であり、『INOW(アイノウ)』で『私を知る』という意味もかけています。どんな暮らしからどんなごみが出て、どうすれば減るか。自分にとっての豊かさや大事にしたい価値観は何か。そんなことを考えるきっかけになったらいいなと思っています」
〈撮影/飯貝拓司 取材・文/熊坂麻美〉
東 輝実(あずま・てるみ)
大学で環境問題を総合的に学んだ後、上勝町に帰郷。ゼロ・ウェイスト政策を担当した亡き母の思いを継いで、2013年に「カフェ・ポールスター」をオープン。現在は滞在型教育プログラム「INOW」をはじめ、ウェブマガジン『上勝暮らしカル』などでリアルな暮らしを発信。昨年から町役場のタウン計画にも携わっている。
https://inowkamikatsu.com/