• ワタナベマキさんの料理ノートを見せてもらいました。いつかだれかと、わが家の「おいしい」を共有できるように、そんな願いが込められています。今回は「元宝肉(ユアン パオ ロウ)」をご紹介いたします。
    (『天然生活』2015年7月号掲載)

    時代を超え、受け継がれた数百枚の料理カード

    「定番から揚げ」「五色なます」「いかの香草サラダ」 ワタナベマキさんの料理ノート。日々の「おいしい」を書き留めてより続き —

    おばあさまが残した料理カード

    マキさんのノートの存在に、少なからず影響を与えているものがありました。それが、マキさんの亡くなったおばあさまが残した料理カードです。

    「私が料理の仕事を始めてしばらくして、母から“これはあなたが持っていたほうがいいんじゃない”と譲られたものです」

    そういって持ってきてくれたのが、ぬか漬け容器くらいの大きさのプラスチックボックス3つ。ふたを開けると、きれいな字でレシピが書き込まれた料理カードがぎっしりと並んでいます。ひと箱にざっと100枚くらいのカードが入っているから、全部で300枚近く。

    ごはんもの、煮もの、スープ、クッキー、ケーキなどと、インデックスで分類されています。カードのところどころには、文字のにじみ、しょうゆのシミや油ハネがあって、このカードが、おばあさまの台所でたくさんの仕事を果たしてきたことがわかります。

    画像: 実家のお母さんから受け継いだ小皿。どんな料理にも映え、食卓で大活躍

    実家のお母さんから受け継いだ小皿。どんな料理にも映え、食卓で大活躍

    家族のために料理をつくりつづけることの豊かさを実感

    「初めて手にしたときは、感激しました。とにかくすごいレシピの数ですし、一枚一枚が本当にていねい。日々の積み重ねがあるからこそ、この膨大なレシピがあるんですよね」

    母方の祖母にあたるおばあさまは、もともと学校の先生。料理がとても上手で、自宅に近所の奥さん方を招いて料理教室をしていたのだそう。洋食や中華が得意で、おやつだって手づくり。

    訪ねるたびに盛大に振る舞われるごはんはバラエティに富んでいて本当においしかったと、振り返ります。

    画像: 料理をつくりながら後片づけも同時進行でこなす、手際のよさ。平日の夕飯の支度は、40分程度。その分、朝食をつくるときに、夜の下ごしらえをして調理の貯金をこまめに

    料理をつくりながら後片づけも同時進行でこなす、手際のよさ。平日の夕飯の支度は、40分程度。その分、朝食をつくるときに、夜の下ごしらえをして調理の貯金をこまめに

    「このカードが書かれたのは、いまから40〜50年前のこと? でも、全然、古めかしくない。当時にしてはとってもハイカラな料理が多いんです。そして、とにかく、工程に手間を惜しんでいない。いまはクイックなレシピがもてはやされがちですが、祖母の料理には手抜きが一切なし。このカードを見ると、料理へのモチベーションが上がります。そして、家族のために料理をつくりつづけることの豊かさを実感します」

    そんなカードだから、レシピづくりの参考にすることもしばしば。素材や味つけを自己流に変え、紹介することもあります。

    今回、教えてくれた幾つかの料理も、このカードのレシピをアレンジしたもの。マキさんが、家庭で何度もつくっている「くり返し料理」です。

    料理ノートのくり返しレシピ

    ずっと同じ味、時を経て変わった味。家族や友人に評判の料理を料理ノートから選抜してもらいました。

    元宝肉(ユアン パオ ロウ)

    画像: 元宝肉(ユアン パオ ロウ)

    奥行きのある味わいのポイントは、干ししいたけのふくよかな香りと、梅干しのきりっとした酸味。

    材料(4人分)

    • 豚肩ロース肉(かたまり) 500g
    • 干ししいたけ 4枚
    • 半熟ゆで卵 4個
    • 小松菜 1/2わ
    • 長ねぎ 1本
    • しょうが 1片
    • 塩 小さじ1/2
    • しょうゆ 大さじ1
    • ごま油 小さじ1
    • A
      • 梅干し 2個
      • 昆布 5㎝角1枚
      • 紹興酒 100ml
      • 中国黒酢 50ml

    *干ししいたけは400㎖のぬるま湯に1〜2時間つけてもどす。

    つくり方

    1. 豚肩ロースは常温にもどし、塩をすり込んでおく。干ししいたけは石づきを取り2等分する。もどし汁はとっておく。
    2. ごま油を入れた鍋を中火で熱し、皮つきのまま薄切りにしたしょうがを入れて炒める。
    3. 香りが立ったら豚肉を入れ表面を焼きつけ、ぶつ切りにした長ねぎ、A、干ししいたけともどし汁を入れて、あくを取りながら、ひと煮立ちさせる。
    4. 弱火にし約40分煮て、しょうゆを加えて、さらに20分煮る。
    5. 火を止め半熟ゆで卵を加え、そのまま粗熱を取る。
    6. 食べる直前に温め直し、豚肉は大きめのひと口大に、ゆで卵は半分に切り、ゆでた小松菜を添える。

    memo
    祖母の料理ノートから。豚肉をバラから肩ロースに替えたり、梅干しを入れたりと、元のレシピから、かなり変化していまにいたる料理。息子も大好きなひと皿です。

    <料理・スタイリング/ワタナベマキ 撮影/公文美和 構成・文/鈴木麻子(fika)>

    ワタナベマキ
    グラフィックデザイナーを経て料理家に。複雑じゃないのに、とびきりおいしく、ちょっとしゃれていて。そんな料理が絶大な支持を得ている。著書に『そうざいサラダ』(主婦と生活社)、『整える、調える。』(KADOKAWA)などがある。

    ※トップの写真について
    おばあちゃんの料理メモ
    青いペンでていねいに書かれたおばあさまのメモ。和洋中、お菓子と、レパートリーは多岐にわたり、マキさんが知らない、変わったレシピもたくさんあるのだとか

    ※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです

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