(『天然生活』2015年7月号掲載)
未来のだれかに届けたい、わが家の味
料理って、食べたらおしまい。それが、ちょっともったいないなーって
マキさんが料理ノートをつけるようになって、早7年。始まりは、息子のつむぎくんが生まれて、しばらくしてからのことでした。
「料理って、食べたらおしまい。消えていってしまうものですよね。それが、ちょっともったいないなーって思って」
家族に評判だったレシピ、食卓の定番にしたい料理、季節ごとの保存食……。食卓に日々、ささやかな喜びや笑い、幸せを運んでくれるひと皿を、ノートに書き留め、形あるものとして残しておくようになりました。
使うノートは「モレスキン」。かつて、ゴッホやピカソがスケッチに使い、ヘミングウェイがアイデアを書き留めていたという、素敵な逸話をもつノートです。上質な紙、しっかりとした表紙、ノートを留めるゴムバンド……。普通のノートにはない、特別感があるのです。
料理ノートは、未来のだれかへあてた手紙のようなもの
「仕事で提案したレシピは、データとしてパソコンにたくさん保存されているんです。書籍として残っているものもたくさんありますし。そうじゃなくて、わざわざ書き出してストックするのは、自分のためというよりは、自分ではない第三者を意識しているからだと思います。だから、だれが見てもわかるように、きれいな字で、素材の切り方や火の入れ方など、ちょっとしたコツも書くように心がけています」
贈る相手は、つむぎくんか、そのお嫁さんになる人か、はたまた、もっと別のだれかか?
自分がいなくなったあとにも、自分の味の記憶が残り、その味が食卓に並ぶことがあればこんなに素敵なことはない、と話します。マキさんの料理ノートは、未来のだれかへあてた手紙のようなものなのです。
料理ノートのくり返しレシピ
ずっと同じ味、時を経て変わった味。家族や友人に評判の料理を料理ノートから選抜してもらいました。
定番から揚げ
しっとりふわふわな食感の秘密は漬けだれのヨーグルトにあり。試行錯誤の末に生まれた、自慢のレシピです。
材料(2人分)
- とりもも肉(皮なし) 300g
- 卵 1個
- 薄力粉 大さじ2
- 片栗粉 大さじ4
- 揚げ油 適量
- しょうが(すりおろし) 2片分
- ヨーグルト 大さじ3
- しょうゆ 大さじ1
- 酒 大さじ1
つくり方
- とり肉はひと口大に切ってボウルに入れ、Aを加えてもみ込み、30分以上おく。
- 1に卵と薄力粉を加えて混ぜ、片栗粉をまぶし、170℃の油で揚げる。
- 薄く色づいたら180℃に上げ、きつね色になるまで揚げる
memo
いろいろなレシピを試してきたのですが、いまのベストは、これ。ヨーグルトのたれに漬け込むことで、お肉がしっとりやわらかくなります。おろししょうがも、アクセントに。
五色なます
シャキシャキの歯ごたえと、しょうがやごまの香りが絶品。
材料
- 大根 5㎝分
- きゅうり 1本
- にんじん 1/2本
- キクラゲ(乾燥) 2枚
- 新しょうが 2片
- 白炒りごま 大さじ2と1/2
- A
- てんさい糖 小さじ1
- 酢 大さじ2
- 塩 小さじ1/2
つくり方
- 大根、きゅうり、にんじんは約3㎜厚の短冊切りにし、新しょうがはせん切りにする。
- 1に塩(分量外)を加えて軽くもみ、10分ほどおき、出てきた水分をきつくしぼる。キクラゲは水でもどして、沸騰した湯で約5分ゆでて細切りにする。
- すり鉢に白炒りごまを入れてすり、Aと2を加えてあえる。
memo
なますは、お正月のイメージですが、わが家ではオールシーズン、スタンバイ。祖母のレシピメモにあったものを自分なりにアレンジしました。野菜をたくさんいただけます。
いかの香草サラダ
ナンプラーのコクに、レモンのさわやかさがマッチ。
材料
- やりいか 2杯
- 香菜 1束
- 紫玉ねぎ 1/2個
- くるみ(ローストしたもの) 6粒
- 白ワイン 大さじ2
- オリーブオイル 大さじ1
- A
- ナンプラー 大さじ1
- レモン汁 大さじ1
- しょうが、にんにく(みじん切り) 各1/2片
つくり方
- いかは腸と皮を取り除き、1㎝幅の筒切りにする。
- 紫玉ねぎは薄切りにし、水に5分さらして水けをよくきる。香菜は、ざく切りにする。
- 沸騰した湯に白ワインを入れ、1を入れ、約1分半ゆでてざるにあげ、熱いうちにAを加えてあえる。
- 3に2と粗くくだいたくるみを合わせてオリーブオイルをかける。
memo
大好きな素材ばかりを組み合わせたレシピ。人が集まるときによくつくる、わが家のおもてなし料理の定番。いかは、皮をむくと仕上がりの美しさが違います。
<料理・スタイリング/ワタナベマキ 撮影/公文美和 構成・文/鈴木麻子(fika)>
ワタナベマキ
グラフィックデザイナーを経て料理家に。複雑じゃないのに、とびきりおいしく、ちょっとしゃれていて。そんな料理が絶大な支持を得ている。著書に『そうざいサラダ』(主婦と生活社)、『整える、調える。』(KADOKAWA)などが。
※トップの写真について
マキさんの料理ノート
あとで書き直しができるように、ノートはすべて鉛筆書き。余裕のあるときは写真を添付して。外出時に持ち歩いて、ちょっとしたあき時間に書き留めることもしばしば
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです