• 「買ったものを “買い物ノート” に記録し、40年以上になる」。取材の始まりは、読者ページに投稿された、一通のメールでした。「人は保護色の生き物」とは、だれの言葉だったでしょうか。よく身に着けている服、寝る前に読む本の題名……ふだん、そばにあるものを見れば、人となりが垣間見える気がします。さて、40年以上も綴られた買い物ノートには、どんな人となりが隠れているのでしょうか。今回は、20代〜30代に綴られた2冊のノート拝見します。
    (『天然生活』2012年10月号掲載)

    43年間、綴り続けた「買い物ノート」

    取材の始まりは、本誌の読者ページ「暮らしのおすそわけ」に投稿された、読者からの一通のメール。そこには、「買ったものを “買い物ノート” に記録し、40年以上になる」と書かれています。

    その年数に驚き、ノートを取り寄せてみると、現在6冊目になるノートには、ていねいに描かれたスケッチがぎっしり。1冊目から見てみたくて、持ち主である金谷操(かなやみさお)さんを訪ねました。

    「1冊目のノートなんて下手で、恥ずかしいわ」と買い物ノートを照れながら差し出す金谷さん。

    画像: 手に入れたばかりのバッグをスケッチする金谷さん。「ノートに記録し終えてはじめて自分のものになった気がするの」

    手に入れたばかりのバッグをスケッチする金谷さん。「ノートに記録し終えてはじめて自分のものになった気がするの」

    「ノートにつけるのは、服やアクセサリー、器などの趣味のもの。食品や消耗品は書きません。だって、つまらないでしょう。始めたきっかけは忘れたけれど、いつの間にか、何かを買ったらノートにつける習慣がついていたの。楽しみになっちゃったのね」

    そういって笑う金谷さんの手元には、先日、展示会で手に入れたという一点物のショルダーバッグが。

    一番新しいページを開き、0.18mmという極細のペンでスケッチしながら、細かいシワや影などを付け加えます。買った日付、名前、値段、場所を小さく書き込んだら、完成。

    この作業を、43年間。

    金谷さんの昔を振り返りつつ、「続いている理由」をちょっと探ってみましょうか。

    20代 「見るもの手に取るもの、すべてが新鮮」

    画像1: 買った記録と歩んだ43年。ものへの想いを育てる「買い物ノート」・20代、30代のノート

    エンジ色のなめらかな布張りが施されている、手のひらサイズの1冊目。1970~1977年

    1970年3月3日(21歳)

    画像: 1970年3月3日(21歳)

    記念すべき、買い物ノート1ページ目。当初は服や小物だけでなく、購入した本の題名も書いていた。サリンジャーに寺山修二。「時代を感じますよね。字もイラストも、いまとはまったくタッチが違っていて面白い。絵は昔から好きだったから、あまり深く考えずにイラストを添えるようになったんだと思います」

    1970年8月6日(21歳)

    画像: 1970年8月6日(21歳)

    1978年3月27日(29歳)

    画像: 1978年3月27日(29歳)

    当時おつきあいしていた彼(現在の夫)と次に会うときに着ていこうと、ベルコモンズのショップで購入したという、ニットのアンサンブル。「それなのに全然、連絡をくれなくて。とうとう一度も着ずじまい。姉に譲ってしまったから、これは幻の服。このページを開くと、いまでもムカッとした気持ちになるのよね。夫は、いいかげんに忘れたらって(笑)」

    20代 のころの買い物

    おしゃれすることがとにかく楽しかったという、20代。「昔から自然素材のものが好きでした。いまは綿や麻などがほとんどだけれど、当時はシルクが多かったですね」。買い物に行くときは基本的にひとり。それは今も昔も変わらないスタイル。

    まだあるもの

    画像: 家具は高くてもいいものを選び長く使う、という考えは20代から。神奈川・鎌倉の島屋でひと目惚れした椅子は、いまも現役

    家具は高くてもいいものを選び長く使う、という考えは20代から。神奈川・鎌倉の島屋でひと目惚れした椅子は、いまも現役

    30代 「失敗を繰り返した先に、好きなものがみえてくる」

    画像2: 買った記録と歩んだ43年。ものへの想いを育てる「買い物ノート」・20代、30代のノート

    当時の職場近くにあってよく通った、クレヨンハウスのシールが貼ってある2冊目。1978~1983年

    1981年2月21日(32歳)

    画像1: 1981年2月21日(32歳)

    当時よく訪れていた東京・南青山のレストラン「シルバー・スプーン」。閉店のときに開催されたガレージセールで購入した、麻のヨークが付いたブラウス。下の写真で一緒に写っているのは、まだ小学生前の甥っ子。

    画像2: 1981年2月21日(32歳)

    1981年4月13日(32歳)

    画像1: 1981年4月13日(32歳)

    結婚パーティのときに選んだ、赤いワンピース。セーラーカラーでローウエストがちょっと珍しいタイプ。「赤い色の服は、このときくらい。地元でよくデートしたお気に入りのレストランで、50人くらいの友人たちを招いて開きました」

    画像2: 1981年4月13日(32歳)

    1982年1月8日(33歳)

    画像: 1982年1月8日(33歳)

    地元のデパートで買った、カシミヤの黒いセーター。「このころは、ちょうどコム・デ・ギャルソンなどが流行りだしていた時代。私も大人っぽいスタイルが好きで、これからは黒を着よう!なんて心に決めたりして(笑)。近所でジャズ喫茶の経営を始めたこともあり、店の景色にすんなりなじむ雰囲気を心がけていましたね」

    30代 のころの買い物

    結婚を機に仕事をやめ、夫が好きなジャズをかける喫茶店を始めて、編集の仕事も少しずつ再開……。30代終わりには家を建て替えてお姑さんと同居。生活スタイルの変化とともに洋服も変化した時代。

    まだあるもの

    画像: 当時、買ったミント缶は、ボビン糸の保管に重宝。着られなくなった服も、生地やボタンの状態で残しておく

    当時、買ったミント缶は、ボビン糸の保管に重宝。着られなくなった服も、生地やボタンの状態で残しておく

    「こんなノートをつけていれば、さぞかし買い物上手になるはずだって思うでしょ? でもね、なかなかそうはいかないの。いまでも、なんで、これ買ったんだろう、って後悔が幾度も。私って20代のころからちっとも学習してないなぁって、見返しては反省ばかりしてる」と金谷さん。

    昔も今も、好きだと思ったら手に入れずにはいられない直進型。失敗を繰り返しながらも、少しずつ自分の「本当に好きなもの」がみえてきたといいます。

    「ずっと手元に残っているのは、高くても質や素材のいいもの。安いから、って理由で買ったものは、やっぱり後悔していますね」

    金谷さんのノートの特徴は、ふたつあります。ひとつは、ボロボロになるまで着古した、○○さんに譲った、裾を少しリメイクした、ガレージセールで売った……と、その物の最後の行き先までがきちんと明記されていること。

    「寝るときに読むものがないときは、買い物ノートを読んでいます」と金谷さん。だからでしょうか、驚くほどの記憶力で、ひとつひとつの説明をしてくれるのです。

    それにしても、43年間、自分でもどうして買い物ノートをつけつづけているのかよくわからなかった、という金谷さん。あるとき、読んでいた本の中で、はっとするようなエピソードに出合います。

    「 “日記をつけることは人生を二度生きること。記録されたものを読み返すことでもう一度『その時』を生きる魅力が日記にはある” という部分を読んだとき、私の買い物ノートも同じかもしれないなぁって感じて。だって、単に服やバッグの絵が描かれているだけなのに、見返すと、買ったときのことや、その当時の自分、20代、30代、40代だったころを、くっきりと振り返ることができるんだもの」

    自分にとっての日記代わり。そう腑に落ちてからは、買い物ノートをつけるのがもっともっと楽しくなっていったのだとか。

    もうひとつの特徴は、買ったものに自分の感想をつけないこと。記すのは、ブランド名や金額、買ったお店などの事実のみ。

    「そのほうがイメージが膨らむの。感想が書いてあると、その言葉に思い出が縛られてしまう、限定されてしまう。それ以上の膨らみが出なくなってしまうでしょ」

    余計な情報がない分、その物を手に入れたときのうれしい気持ちが鮮やかによみがえってくるのだといいます。

    まるで、キャンディを口の中でころころと転がすように……。ノートを見返すたびに、40年という思い出をゆっくり味わい直しているかのような、金谷さんの現在がありました。

    買った記録と歩んだ43年。ものへの想いを育てる「買い物ノート」・40代、50代〜現在のノートへ ⇒

    <撮影/大森忠明 取材・文/道広哲子>

    金谷 操(かなや・みさお)
    20代は医療関係の雑誌編集を経験。結婚後はジャズ喫茶経営を経て、再び商業関係の機関誌編集に。現在は自宅の一角でフリーマーケットや手づくり展などを開催している。

    ※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです

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