高松宮殿下記念世界文化賞は、日本美術協会によって1988年に創設されました。「私たち全人類の財産である芸術の創造者たちに感謝と敬意を捧げ、永遠に讃える」ことを基本理念に、「絵画」「彫刻」「建築」「音楽」「演劇・映像」の5分野で、世界的に顕著な業績をあげた芸術家を、国境や民族の壁を越えて、毎年、全世界から選考します。
2019年は、「演劇・映像」部門を受賞した歌舞伎俳優の坂東玉三郎さんのほか、世界各国から6名5組の受賞者が選定されました。
絵画部門
ウィリアム・ケントリッジさん
ウィリアム・ケントリッチさんの、南アフリカのアパルトヘイトなどの社会情勢を反映した、木炭の素描をコマ撮りしたアニメーションは「動くドローイング」と呼ばれ注目を集めています。木炭画を部分的に消しては描き加えていくという変化を一コマごとに撮影してつなげていくという作風は、素朴ですが、時間の重厚性や寓意に満ちています。
彫刻部門
モナ・ハトゥムさん
阻害された人間の苦しみや政治的抑圧といった社会矛盾を、パフォーマンス・アートやビデオ作品を通じて表現していましたが、その後、表現手段をインスタレーションなどに移行しました。その表現は、不安感や恐怖で、心に深い爪痕を残す一方でユーモアを含み、世界各地の現代美術展で次々と作品が取り上げられています。
建築部門
トッド・ウィリアムズさん、ビリー・ツィンさん
米ニューヨークを拠点に1977年から協働し、1986年にパートナーとなった建築家夫妻。デザインの動機となるのは建物に対する共感で、高層ビルや商業的なプロジェクトには興味を示さず、学校や美術館などを中心に手掛けています。素材や構造、光などを緻密に分析したその作品は、見る者の想像力をも喚起させ、“手造り感”のある、穏やかで心地良い空間を創り出しています。
音楽部門
アンネ=ゾフィー・ムターさん
13歳で大指揮者のヘルベルト・フォン・カラヤンに見いだされ、現代最高のヴァイオリニストのひとりとされ、「ヴァイオリンの女王」とも呼ばれています。慈善活動も積極的に行い、東日本大震災の被災者やシリア難民らを支援する公演も実施しました。音楽活動、慈善・教育活動の両面への高い水準の取り組みが世界各地で評価され、揺るぎない人気を獲得しています。
演劇・映像部門
坂東玉三郎さん
現代歌舞伎を代表する女形。その存在は海外のアーティストにもインスピレーションを与え、「世界の玉三郎」として活躍しています。世界的なチェリスト、ヨーヨー・マ、バレエ振付家のモーリス・ベジャール、ミハイル・バリシニコフやジョルジュ・ドンらともコラボレーションを行い、ポーランドの映画監督、アンジェイ・ワイダ演出の『ナスターシャ』では、舞台作品と映画版の双方に主演するなど、多くの画期的な作品に携わり、世界中の人々を魅了しています。海外公演も多く、演技者としてだけでなく、演出家、映画監督としても活躍しています。
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式典では、常陸宮殿下から各受賞者に顕彰メダルが授与され、感謝状と各部門1500万円の賞金が贈られました。