用意するもの:(右上から時計まわりに)雑巾、鉛筆、面直し用砥石、砥石と研ぎ台、砥石を水に漬けるための容器、新聞紙
STEP 1
まず砥石を水に浸します。砥石から気泡が出始め、出なくなったら砥石を研ぎ台にしっかりとはめ込みます。研ぎ台がない場合は、ぬれ雑巾を砥石の下に敷きましょう。
STEP 2
包丁を持ち、砥石に対して斜めに置きます。切刃(きれはと読み、表側の斜めになっている平面部分のこと)を砥石にぺたんと密着させます。
STEP 3
利き手でない方の指2本ほどを刃先の近くに添えて、研いでいきます。砥石の縦方向を、なでるように前後に動かしましょう。研ぎ始めから終わりまで、切刃を砥石に密着させたまま研ぎます。
Point1:研ぐときに力はあまり入れませんが、切刃を密着させ続けるのに多少の力が必要なので、その程度の力加減にしましょう。前後で力の入れ具合を変える必要はありません。研ぐ際は、添えている指が刃先や砥石に触れないように気をつけて。
Point2:研ぎ始めると砥石から黒い研ぎ汁が出てきますが、これは滑らかに研ぐ手伝いをするものなので、落とさないでください。途中で砥石が乾いてきたなと思ったら、手で水をぽたぽたとたらします。
STEP 4
何回か研いだら、研ぐ位置をずらします。研ぐ順番は決まっていませんが、あごの近く、刃中、切っ先(刃の先端)と研ぐ位置を変えて、刃全体を研いでいきます。包丁に添えた2本の指は、常に研ぐ部分の真ん中になるようにずらしていきましょう。
Point1:何回研げばいいかは包丁の素養や刃の状態で異なります。しっかり研げているかは、刃先にバリ(刃返り、まくれともいう)ができているかで判断します。バリについては次の手順で説明します。
Point2:砥石は縦方向の幅をいっぱいに使って中心を研いでください。砥石の端で研ぐと、研いでいる最中に包丁が砥石から外れて、けがをする恐れがあり危険です。
Point3:包丁には反りがあるため、切っ先と砥石の間には隙間ができます。切っ先を研ぐときは、包丁のおしりを持ち上げて砥石に密着させるようにします。
STEP 5
バリが出ているか確認します。バリとは刃先の金属が削れたものが、反対側にまくれてくるもので、手で触るとほんの少しの引っかかりを感じます。
ただし、和包丁は洋包丁に比べて削る体積が大きく、バリが出るまでに時間がかかります。バリを手で確認する前に、糸小刃(いとこばと読み、刃先についている1mmあるかないかの刃)がなくなっているか目視するといいでしょう。
というのは、バリが出るのは糸小刃が削れた後だから。包丁を軽く洗って研ぎ汁を落としてから、確認しましょう。その際、水を含ませたスポンジを使うと便利です。糸小刃が残っていればさらに研ぎ、なくなったらバリを手で確認します。
Point:バリは髪の毛1本分ほどあれば十分で、指で触れたときにジャリッとした感触があります。切っ先からあごまで、刃全体にバリが出ていることが大切です。
STEP 6
次に反対側も研ぎます。包丁を持ち、砥石に対して斜めに置きます。こちら側には切れ刃はついていないので、包丁を砥石にぺたんと当てて(角度は0度)で研いでいきます。
反対側の刃と同様に研ぐ部分をずらしながら刃全体を研いでいきますが、あごの近くはハンドル(包丁の持ち手)が砥石にあたりそうになるため、包丁を砥石に対して直角になるように置きます。バリが刃全体に出たら研ぎ終わりです。
STEP 7
最後に表側(切刃のある面)をもう一度少しだけ研ぎます。刃と砥石の間の角度を約40~45度にして、切っ先、刃中、あごの近くとずらしていき、それぞれ2、3回ずつ研ぎます。
Point1:この作業を行うのは、表裏と刃の両側を研いだ後では鋭すぎる刃がついていて、刃の強度が弱くなっているため。また、これは先ほど削りとった糸小刃をつけなおす作業でもあります。
Point2:出刃包丁の研ぐ角度は約40~45度ですが、柳刃包丁の場合はもう少し鋭角に研ぐといいでしょう。
STEP 8
バリを取ります。新聞紙を平らなところに広げ、最後に研いだ角度で包丁を新聞紙にあて、なでるようにこすります。最後は峰側をすくい上げるように新聞紙から離すと、バリがよく取れます。何回かこすったら、反対側も同様に。バリが残っていないか、刃先を手で触って確かめます。**
Point1:最後に研いだのと同じ角度ですから、切刃の面は約40~45度、反対側は0度の角度でこすりましょう。バリを砥石でこすって落とすのは、刃先がつぶれてしまうのでNGです。
Point2:切っ先は刃の反りによって浮いているため、包丁のおしりを持ち上げて切っ先を新聞紙に密着させた状態で取ります。
STEP 9
しっかり研げているか、試し切りをします。スムーズに切れれば、研ぎ終わり。トマトを切ると分かりやすく、透けるくらいに薄くそげれば上手く研げている証拠です。
STEP 10
砥石のメンテナンスをします。研ぎ汁を洗い流し、鉛筆で砥石の面全体に印をつけてから、面直し用砥石で10秒ほどこすります。鉛筆の跡がきれいに消えたら完了です。
Point1:包丁を一丁研ぐと砥石は必ずへこむので、毎回メンテナンスしましょう。砥石はへこんだままでは、うまく研げません。とくに和包丁を研ぐ場合、切刃を研ぐことになるので、洋包丁の糸子刃と比べ研ぐ体積がはるかに大きくなり、砥石も消耗します。研いでいる途中でも砥石はへこみますので、すこし凹んだら必ず修正してください。これおこたると、せっかく研いでも丸刃になってしまい、努力が報われません。さらに、裏側も同様に凹んだ砥石で研ぐことになるので、きちんと刃をつけることができません。
Point2:包丁研ぎに慣れないうちは、砥石表面に鉛筆で印をつけるといい。最初に面直し用砥石で数回研いでみて、写真のように鉛筆跡が残っている部分がへこんでいる場所。鉛筆跡がなくなるまで面直し用砥石をかければ、砥石が平らに戻った目安になります。
鋼の出刃包丁を研ぐときの注意点
「鋼の出刃包丁の切刃には、途中で色みが変わる境があります。鋼の出刃包丁は、一般的に軟鉄と鋼の二枚構造をしていて、これはその二つの金属の境目。刃先に近いほうが鋼です。金属の硬さが違うため、切刃の面を研ぐと柔らかい軟鉄が先に削れ、鋼が残ってしまう。切刃が広がり、どんどん鋭角になるわけですね。
それを防ぐにはどうするかというと、表側を研ぐときは砥石に切れ刃を密着させて研ぐわけですが、刃先のほうに圧が強くかかるように、ハンドルを持つ手を少し刃先側にしぼるような感じで研ぎます」
余計な力を入れず、ゆっくりでもいいので、包丁と砥石の角度を保つように正確に作業すれば、どなたにでも包丁の切れ味を蘇らせることができます。ぜひ、料理をおいしく快適にするにも、包丁の切れ味は大切ですので、ぜひチャレンジしてみてください。
<撮影/林 紘輝 取材・文/諸根文奈>
林 泰彦(はやし・やすひこ)
貝印株式会社の資格制度である「マイスター 制度」の責任者であり、包丁シニアマイスターの資格を持つ。初代包丁マイスター。小学校2年生の時から包丁を研ぎ始め、包丁研ぎ歴約50年というキャリアの持ち主。国内はもとより海外でも包丁研ぎのセミナーやデモンストレーションに登壇し、包丁愛に満ちた熱のこもった講座が多くの人に人気を集めている。
諸根文奈(もろね・ふみな)
出版社にて、パンやスイーツ、ナチュラルフードなど多数のグルメガイドの編集に携わったのち、出産を機にフリーランスに転身。食べる人のことを思って丁寧に作られた、体にやさしくておいしい食べ物が大好き。特技は極狭キッチンでやりくりすること。