ラジオで読まれたのは66年前のひとつの詩
批判ばかり受けて育った子は非難ばかりします
敵意に満ちたなかで育った子は誰とでも戦います
ひやかしを受けて育った子ははにかみ屋になります
ねたみを受けて育った子は
いつも悪いことをしているような気持ちになります
心が寛大な人のなかで育った子はがまん強くなります
子どもたちはこうして生き方を学びます
励ましを受けて育った子は自信を持ちます
ほめられるなかで育った子はいつも感謝することを知ります
公明正大ななかで育った子は正義心を持ちます
思いやりのあるなかで育った子は信仰心を持ちます
人に認めてもらえるなかで育った子は自分を大事にします
仲間の愛のなかで育った子は世界に愛をみつけます
(「CHILDRENLEARN WHAT THEY LIVE」/ドロシー・ロー・ノルト)
いつの時代にも通じる子育ての気づき
この詩は家庭教育学者のドロシー・ロー・ノルトが1954年に発表したもの。日本では1990年に紹介され、ラジオや書籍、そして現在はSNSなどに掲載され、子育てに悩む母親たちを中心に注目を浴びています。
この詩はなぜ、時代をまたいで多くの母親たちの心に響くのでしょうか?
親の「無意識」が子どもに影響を与える
この詩の中に、“人に認めてもらえるなかで育った子は自分を大事にします”という一節があります。
「子どもを認める」なんて当たり前のように感じますが、無意識の中でできていないこともあるんです。
たとえば、勉強やスポーツ、習い事などにおいて、子どものために成功を祈った親は、子どもが成功しなかったとしても、自信を与えることができるといいます。しかし、子どもの成功を誰かに自慢したい、自分の夢を子どもに叶えてほしいなど、子どもの成功によって自分が満足したい、社会的地位を上げたいと無意識に思っている親は、子どもが成功してもしなくても、精神的に追いつめてしまうというのです。
そもそも後者の場合、親自身が劣等感に悩んでいるため、現実の子どもを認め、励ますことができません。
子を育てる親自身が、自分の心の葛藤を解決できてはじめて、我が子を認め、理解し、子どもの心理的問題の解決に協力できるのかもしれません。
子供は親とは別の人格をもった「別の人間」
1923年に発表され、聖書に次ぐ世界的ベストセラーとなった詩集『TheProphet(預言者)』のなかには、子どもについて書かれた次のような詩があります。
彼らはあなたと共にいるが、あなたに属しているのではない。
あなたの愛を与えることはできても、あなたの考えを与えることはできない。
子どもは自らの考えを持っているのだから。
あなたは彼からの肉体を家に住まわすことはあっても、
彼らの魂まで住まわすことはできない。
親は子どもを心配するからこそ、自分の考え方を押し付けてしまいがちです。
しかし、「こうなって欲しい」という自分の期待の方に気を奪われてしまうと、子ども自身が何を望んでいるのか見えなくなってしまいます。「どうしてこの子はできないの…」と悩んだときには、子どもは我が子であろうと別人格だということを改めて思い出してみてはどうでしょうか。
親にできるのは子どもの背中を押すことくらい
子育ての最終ゴールは「自分はこの人生で何をしようか」と、我が子が自分の意思で人生の目標を見い出し自立するそのとき。親が子どもにしてあげられることは、子どもを認め、望みを聞き、未知の世界に旅立とうとする我が子に、「怖くない、大丈夫、できる!」と励ましてあげることくらいなのかもしれません。
永遠に続くように思える子育ても、一生の時間で考えれば一瞬で過ぎていくかけがえのない時間です。子どもの「成功」や「自立」を邪魔する親となってしまわないよう、いまいちど、自分自身や親子の関係を見つめ直してみてはいかがでしょうか。
ドロシー・ロー・ノルトの詩から紐解く親子関係については、『子どもを伸ばす魔法の11カ条 アメリカインディアンの教え 令和新装版』(加藤諦三=著 ドロシー・ロー・ノルト=詩 扶桑社)に詳しくつづられています。
<原稿/河野加奈子 イラスト/長崎訓子>