もっと気軽に、暮らしのそばに草花を。
それが、フラワースタイリスト・平井かずみさんが提案する「日常花」。
花は、どんなものでもいいのです。フラワーショップで、心ひかれたものを1本だけ持ち帰るのもいいし、ベランダで育てているハーブを摘んで飾るのも素敵。
「本来、花と暮らすことには何のルールもないんですよ。よく、『家に花器がないから、お花を飾れないんです』とおっしゃる方がいるけれど、水を張れる器ならば、どんなものにもお花を生けていいんです」
そこで、天然生活2020年8月号では「いつもの器で愉しむ花しつらい」と題して、ガラスのコップ、片口、平皿など、平井さんが実際に愛用する器に季節の草花を生けていただきました。
7種ある器のうち、今回は、愛用の脚付きの器と平皿のお話です。
ではさっそく、平井さん愛用の器を見せていただきましょう。
凛とした印象になる、脚付きの器
「個性的な器ほど、初心者の方でも簡単に、素敵に生けられるんですよ」と平井さん。
花を雰囲気よく生けるのに、大切なのは“表情”。個性的な器には、自然と独特の表情が漂うため、「どのような花を生けても、こなれた印象に仕上がる」のだとか。
この器は、スウェーデンを代表するプロダクトデザイナーである、シグネ・ペーション・メリンさんのヴィンテージ作品。脚付きですっきりと立ち上がるようなデザインは、凛とした雰囲気が漂います。
清潔感がありながらやわらかさを併せ持つ独特な白は、どんな色合いの花でも、包み込むように受け止めてくれるそう。
「北欧雑貨のオンラインショップ『SPOONFUL』を営むおさだゆかりさんとイベントでご一緒したときに、一目ぼれして購入したものです。いつもはキャンドルホルダーとして使っていますが、花を生けてみたら、いつもとはひと味違う印象になりました。日常使いの器に花生けをすることは、器の新たな魅力を発見することにもつながるんですね」
平皿を使うなら、余白を生かして
どこかヨーロッパのアンティークを思わせる作風が魅力の、阿部太一さんの八角皿。
「陶芸家の阿部さんとの出会いは、とあるイベントで花器をつくっていただいたことがきっかけでした。ただそこにあるだけで、場の空気をふわりと変えてしまうほど存在感のある阿部さんの作品。個性があると同時に、どんなものも受け入れるしなやかさがあります」
日々の食卓にもよく登場するお皿ですが、今回は水辺にたゆたう紫陽花の風景を切り取るイメージで。
「目に入る面積の広い平皿は、余白を表現するのに適しています。紫陽花は、あえて器の端に生け、さらにのびのびとヤマツツジの枝をしつらえました。また、花生けの器というと“縦長のもの”とのイメージを抱きがちですが、深さのない平皿に生けてみれば、自然の姿そのままを部屋の中に写し取るような試みもできるのです」
花器に生けることも、むろん素敵なことですが、日々の器で花生けを楽しむことは、いままで気がつかなかった、器の新たな魅力を引き出すきっかけにもなります。
食卓にのぼる器を新鮮な気持ちで眺めてみれば、きっとさまざまな花生けのイメージが広がって、器がますます愛おしくなってくることでしょう。
<スタイリング/平井かずみ 撮影/宮濱祐美子 取材・文/福山雅美>
平井かずみ(ひらい・かずみ)
フラワースタイリスト。「ikanika」主宰。インテリアショップ勤務を経て、挿花家・谷匡子氏に師事。“しつらえる”という感覚を大切に、暮らしのなかに季節の草花を取り入れる「日常花」を提案。「cafeイカニカ」を拠点に、花の会やリース教室を全国各地で開催。雑誌や広告、イベントでのスタイリングや、ラジオやテレビなど多方面で幅広く活躍中。著書に『花のしつらい、暮らしの景色』『あなたの暮らしに似合う花』(ともに扶桑社)、『フラワースタイリング ブック』(河出書房新社)、『季節を束ねるブーケとリース』(主婦の友社)などがある。
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