• 近所で楽しめるのがこけの魅力ですが、近所とは異なる環境に出かけることで、普段見ることのできないこけと出合うことができます。そんなこけとの新たな出合いをもとめて訪ねた東京奥多摩の御岳山。今回は、武蔵御嶽神社からロックガーデン入り口までで出合ったこけをご紹介します。

    武蔵御嶽神社

    集落の坂を登りきってお茶屋さんストリートを抜けたところに神社の入り口があります。330段もの石段を登れば本殿にたどり着き、そこが山頂です。

    画像: 御嶽神社は山岳信仰が盛んになった中世から、修験道の一大拠点として広く信仰を集めてきました

    御嶽神社は山岳信仰が盛んになった中世から、修験道の一大拠点として広く信仰を集めてきました

    社殿の近くには、色鮮やかなオレンジ色の石垣がありました。知らない人はカビかと思うかもしれませんが、これは藻類(そうるい)の仲間。藻類といえば、ワカメが代表するように水中にいるものと思われがちですが、陸上で生きる種類もいるのです。

    「スミレモ」という名の由来は謎です。色や形からしてスミレの姿とかけ離れていますし、スミレの香りがするという説も根拠はないようです。

    画像: オレンジ色が目をひくけど名前はスミレモ

    オレンジ色が目をひくけど名前はスミレモ

    山道へ

    本殿で手を合わせて清々しい気持ちになったところで、舗装道とはお別れ。土の道を進み、森の中へ。神社まではヒトの気配が濃い世界でしたが、ここから先は自然界の中へお邪魔する、という感覚です。石がゴロゴロしている山道となり、雨の後だとぬかるむ箇所もあるので、登山靴の方が安心です。

    画像: 山道の霧で霞む幻想的なスギの木

    山道の霧で霞む幻想的なスギの木

    画像: こけむしたスギの根もとは、びろうどのような触り心地

    こけむしたスギの根もとは、びろうどのような触り心地

    いったいどれだけ高いのか、見上げても梢が見えないくらい高いスギやヒノキが並ぶ中を進みます。木の幹には、青みを帯びた白っぽいこけ。苔庭や盆栽の根元は別として、街中では出合うことのないこけ、シラガゴケの仲間「ホソバオキナゴケ」です。このこけを見ると、あぁ山に来たんだなぁと実感します。

    オキナを漢字で書くと「翁」、おじいさんのこと。シラガゴケという名も、白髪からきているのでしょう。植物の色を一口に「みどり」といっても実際には様々な色があり、中でもシラガゴケの白っぽい色は独特だと思います。

    画像: 形も葉に厚みがあって特徴的なので、一度見て覚えてしまえば、また別の場所でも見つけやすいです

    形も葉に厚みがあって特徴的なので、一度見て覚えてしまえば、また別の場所でも見つけやすいです

    途中で道が分岐しており、左へ降りれば「七代の滝」がありますが、今回は真っ直ぐ進みました。坂を上がっていくうちに大きな岩「天狗岩」に遭遇します。御岳山は修験道の拠点だったと書きましたが、いかにも修験者が修行していそうな佇まいの岩です。

    画像: 天狗岩は鎖づたいに登れるようになっており、てっぺんには天狗様

    天狗岩は鎖づたいに登れるようになっており、てっぺんには天狗様

    じつは御岳山にはこれまでに10回近く訪れていましたが、ここまで書いてきたとおり、途中でこけの見どころがたくさんありすぎて、たいていは天狗岩近辺にさしかかったところで時間切れ。太陽が傾くとルーペも覗けないので、この辺りで引き返して下山する、の繰り返しでした。

    それでも過去に一度だけ、ロックガーデンの入り口の近くまで到達したことはあったのです。しかし、そこで大岩のこけを眺めているうちに日が暮れてしまい、それ以上奥には行けなかったのでした。

    画像: 今回もうっかり気になって見入ってしまった入り口付近のこけ。写真では大きく見えますが、花のように見える部分で1~2mm程度です

    今回もうっかり気になって見入ってしまった入り口付近のこけ。写真では大きく見えますが、花のように見える部分で1~2mm程度です

    この日は、「今回こそロックガーデンへ」と心に決めて来たので、道中で見たいこけがいても進み続け、ついに辿り着くことができました。しかも、私にしては記録的な速度で歩いてきたので、まだ明るい13時。これならロックガーデン散策が可能です。

    というわけで、次回はいよいよロックガーデンの中の様子をご案内します!

    <文/芝生かおり 撮影/吉田智彦 >

    芝生かおり(しぼう・かおり)
    東京生まれ、横浜市在住。こけを愛する会社員。趣味の登山で山へ通ううちに北八ヶ岳の森でこけと出会い、その多様性と美しさに魅了された。ほかの小さな生き物も気になりだし、地衣類、藻類、菌類、変形菌にも注目している。

    吉田智彦(よしだ・ともひこ)
    文筆家、写真家、絵描き。自然と旅が大好物で、北米の極北を流れるマッケンジー川やユーコン川をカヤックで下り、スペインのサンティアゴ巡礼路、チベットのカイラス山、日本の熊野古道などの巡礼路を歩く。近年は、山伏修行に参加。東日本大震災後、保養キャンプに参加する福島の母子を撮影し、写真をプレゼントする活動をはじめ、福島の現状と保養キャンプの役割を伝えるため、2018年から写真展『心はいつも子どもたちといっしょ』として各地で展示している。芝生かおりの夫で、ジャゴケと地衣類偏愛者。著書『信念 東浦奈良男〜一万日連続登山への挑戦〜』(山と渓谷社)、『熊野古道巡礼』(東方出版)など。


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