充電期間に出合った物を最大限に生かして
1996年に中目黒の地にオープンした「ラ・ブランジェ・ナイーフ」は、かつてパン好きに愛された人気店。惜しまれつつも2007年に閉店しましたが、2015年に世田谷・若林で再スタートを切るというニュースは当時、パン好きの間で大変話題になりました。
しかも、ただ復活しただけでなく、店主の谷上正幸さんが「パンの味は、格段どころじゃなく変わりましたね」というほど、味に大きな変化が生まれます。
「中目黒で店をやっていた時は、小麦はカナダ産の外麦を使っていて、天然酵母といっても一部のパンにサワー種を使ったり、全粒粉でつくった天然酵母をストレートで同日に仕込んで同日に焼くという、当時一般的だった方法でつくっていました」
それがいまでは、小麦は国産小麦をメインで使い、ホップ種、レーズン種、サワー種の3種の自家製酵母でじっくりと発酵させてパンを焼くのだといいます。
店を閉じていた8年の間に、その腕を買われて、数々の重要なポストを任された正幸さん。神戸の4つ星ホテル 「ラ・スイート神戸ハーバーランド」に加え、京都「八百一本館」のベーカリーの立ち上げに携わった後は、ドミニク・サブロンさんに見込まれ、「ドミニク・サブロン」の日本国内シェフに就任。しかし、運営会社の事情で「ドミニク・サブロン」はあえなく日本撤退となってしまいました。
「でもその間に、学んだことがたくさんあった。ホップ種のつくり方を知ったのも神戸にいた頃で、研究施設でホップ種を起こしたりしていましたね。店の再開前は、北海道で手伝いをする機会もあり、それまであまり関心がなかった国産小麦のよさに気づくことにもなって」
ホップ種とは、ビールで知られるホップの実のほかに、麹、じゃがいも、りんご、砂糖などを混ぜてつくる天然酵母種。ホップ種を使うと、さっぱりしつつ、味わい深いパンになるといわれています。でも、レシピはあるといっても、ホップの状態を見極めて材料の分量を変える必要があり、種をつぐのにもすごく手間がかかるそう。
「神戸にいた頃、志賀勝栄さん(『シニフィアン・シニフィエ』のオーナーシェフであり、パン業界の重鎮)と絡むことが多くなって。一緒に酒を飲む仲ではあったんですが、志賀さんは別に教えてはくれないんで(笑)。ホップ種のつぎ方は、志賀さんの著書を見て真似しようとしたんですが、最初は全然理解できなかった」
それでも試行錯誤を重ね、現在のお店でホップ種を使い続けている正幸さん。「いまでも、ホップ種のことはイマイチよくわからない」といいますが、ホップ種で焼き上げたパンをいただいてみると、粉の滋味深く香り豊かな味わいです。
扱いが難しいといわれる国産小麦も、自身の力で克服。「国産小麦をひとりで扱ったことはほとんどなかったから、店を再開したときはぶっつけ本番みたいな感じでしたね。でも徐々に慣れたし、やり方もどんどん変えているから、だいぶ仕上がりがよくなってきました」
8年のブランクの間、よりよい材料や新たな酵母に出合い、それを高い経験値と熟練の技で、軽々と自分のものにしていった正幸さん。店再開後もどんどん進化していく味わい豊かなパンが、また新たなファンを増やしているようです。
<撮影/林 紘輝 取材・文/諸根文奈>
ラ・ブランジェ・ナイーフ
03-6320-9870(電話で取り置きも可能)
10:00~18:00
火・水休み
東京都世田谷区若林3-33-16-1F
最寄り駅:東急世田谷線「若林」
https://panya-naif.com/
https://www.instagram.com/la_boulangerie_naif/
https://naif.theshop.jp/(ネット通販)
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