人と人がつながる、京都のいまを届けます
ぽっかりと時がとまったようだった、2020年春。
私が暮らす京都にはすっかり観光客がいなくなって、葵祭も祇園祭も時代祭も行事とりやめ……。こんなことが生きているあいだにあるなんて思ってもみませんでした。
予定がふっとんでいく中、よくひとり散歩しました。ちょっと道を外れて歩いてみたら、桜が咲いていたり、土筆を見つけたり、そばにはたくさんの気づきがありました。
子どものころから散歩コースだった稲荷山を歩いて巡ると、外国人に人気だった伏見稲荷大社ががらんと。
「お山の神様、何があったんやろって、びっくりしてはるやろなあ……」と、あまりの静けさに、泣きそうになりました。
先が見えず、仕事にも生活にも不安を覚えた春でしたが、それでもだんだんと、自分にできることをやろう、京都のために、暮らしのために、自分にもできることがあるはずだ。そんな思いが湧いてきました。
気持ちが切り替えられたのは、京都の街が小さくて、がんばっている人の顔が見えるからかもしれません。
苦境に立たされる中でも、
「どうせやるなら、名物になるようなテイクアウトを作ろう」
「せっかく配達するなら、いろんな作り手で集まって注文を受けよう」
「オンラインストアを始めるなら、ほかにはないものを扱おう」……
ちゃんと自分の中に軸をもってチャレンジし、わくわくさせてくれる、店主たち、作り手たちがいます。つづけるために頑張る人たちに、どれほど励まされたかしれません。
思いがけない状況の中、お店をはじめた人もいます。大変な中の船出、けれど培ってきた経験を生かし、自分の世界をつくっているお店にはちゃんとファンがついていて。ああ、よかったなあと嬉しくなるのです。
人と人がつながり、大切に思うもののために、支え合う。
同じ土地に根ざし、ともに生きる感覚が、京都にはある。
街が続いていくために、それこそが大事なことだと思うのです。
2021年春、新しい風が吹くように
『天然生活』本誌にて、取材にうかがう先々で感じたことも、そうでした。
石見銀山のお膝元、大森に暮らす松場奈緒子さん、
高知で畑仕事をしながら暮らす、早川ユミさん、
神戸・六甲 で「MORIS」を営む森脇今日子さん……
みなさん、まわりとのつながりを大事にし、土地に根ざして暮らしていて。そこには分かち合い、助け合う、すこやかな循環がありました。
オンラインでなんでもできる時代、どんどんそうなっていくだろうけれど。
だからこそ、人と人とのつながりはいっそう大事になる。いろんな情報が入ってくるからこそ、自分自身の中にちゃんと軸を持ち、確かなつながりをつくっていきたい。
そんなふうに思う、2021年の春です。
天然生活webにて、これから京都に根をはって暮らす人に、お話をうかがいます。心の中に新しい風が吹き込むような、そんな連載になりますように。 これからどうぞよろしくお願いします。
宮下亜紀(みやした・あき)
京都に暮らす、編集者、ライター。出版社にて女性誌や情報誌を編集したのち、生まれ育った京都を拠点に活動。『はじめまして京都』(共著、PIE BOOKS)ほか、『本と体』(高山なおみ著)、『イノダアキオさんのコーヒーがおいしい理由』(イノダコーヒ三条店初代店長 猪田彰郎著)、『絵本といっしょにまっすぐまっすぐ』(メリーゴーランド京都店長 鈴木潤著、共にアノニマ・スタジオ)など、京都暮らしから芽生えた書籍や雑誌を手がける。
https://www.instagram.com/miyanlife/