• 2021年、京都・西陣にオープンした「ミュルミュール」。妹さんがお菓子をつくり、お姉さんが接客を担当。通販からスタートし、自宅での販売やイベント出店を経て、アトリエショップができました。営業日が限られ、場所は住宅地の中。「だから“行きにくいお店”って言われるんです。でも手づくりだから、これが精一杯」。並んでいるのはふたりが心から好きと思うお菓子だけ。何かにつけて自分たち流。それが、ここだけのおいしさになります。

    自分たちが好きなお菓子だけ

    画像: 黒くなるまで焦がす、タルトタタン

    黒くなるまで焦がす、タルトタタン

    京都・西陣の町家を改装してアトリエショップにする、「ミュルミュール」 。妹・斉藤直子さんがお菓子をつくり、姉・丸井優子さんが接客を担当し、姉妹ふたりで営みます。しっかりと黒くなるまで焦がしたタルトタタン、レモン味のミルクレープ、分厚く焼いたガレット、シフォンケーキ、フィナンシェ……、ここにあるのは、自分たちが好きなもの、おいしいと思うものだけ。

    「だから、ケーキ屋さんの定番のシュークリームも、ショートケーキもうちにはないんです」と、優子さん。おいしいものが大好きで、これ食べてみたいと思ったら、直子さんに「つくって!」とお願い。そんなふうにしてレパートリーが増えていきました。

    お店を始めるきっかけになったのは、タルトタタン。かつてふたりが好きだった、今はなきレストラン「タイムパラドクス」のタルトタタンがお手本です。

    姉「グラタンやムール貝をグリルする横で、カットしたタルトタタンを温めるんです。よく焦がしてあって、すごくおいしかったんです」

    妹「だから姉は、もっと焦がして、もっともっとって」

    画像: 少し温めるととろけるようにやわらかく

    少し温めるととろけるようにやわらかく

    そうして、琥珀色のタルトタタンが出来上がりました。1台に使う紅玉は10〜12個ほど。青森のりんご農家から20年にわたって取り寄せています。じっくりと煮詰めて、あふれ出す煮汁を移し出し、煮詰まったら戻し、その時々のりんごの水分量や味を見ながらつきっきりで。オーブンに入れている間も、向きを変えたり、煮汁を足したり、様子を見ては手をかけて、まわりが焦げて黒くなるまで焼きます。

    「まるで子どもを育てるみたいだなって、そばで妹を見ていて思います」と、優子さん。焦がしたまわりはドライフルーツのようにこっくりと濃厚。一方で、内側には果汁がたっぷりと蓄えられていて、とてもジューシー。温めてアイスを添えて食べるのも、優子さんはお気に入り。ちょっと温めると、りんごが透き通って、とろりととろけます。

    「しっかり焼くとりんごがねちっとして佃煮っぽくなるんですけど、低温でじっくり焼くことでフレッシュなおいしさを保っています。タルトタタンは、家庭でつくられてきた郷土菓子。つくり手によって味わいが違う、それが楽しいですよね」

    タルトタタンは紅玉のシーズンのみ、11月頃から春先まで。今年は3月でタルトタタンは終わり、また次のシーズンの楽しみに。毎年、食べずにはいられなくなる、待ちわびるファンがたくさんいます。

    数はつくれなくても、手を使って、自分の感覚で

    画像: シフォンケーキやマドレーヌ、フィナンシェなどがカウンターに並ぶ

    シフォンケーキやマドレーヌ、フィナンシェなどがカウンターに並ぶ

    お母さんが営む喫茶店が、直子さんのお菓子づくりの原点。高校生くらいからお菓子づくりをはじめ、製菓学校で学んで、喫茶店でケーキを出すようになりました。常連さんから「なおちゃんのケーキ」と呼ばれて、愛されています。

    その頃からつくり続けているのが「ミュルミュール」にもお目見えする、シフォンケーキ。きめ細かくしっとりとしていて、ふわりと口溶ける。直子さんの、お菓子づくりへの思いが伝わる、おいしさです。レシピを聞いても同じようにつくれないとお客さまから言われるそうです。

    「材料も、つくり方も、特別なことはしていないんです。しいて言えば、泡立てるときの感覚でしょうか。卵白8個を一度に泡立てるので、ハンドミキサーを使うようになりましたが、はじめは思うようにいかなくて、やっぱり手で感じる感覚が大事なんです。だから、機械に頼れなくて、たくさんの数はつくれないんです。お店やっていくのに、それではダメなんですけどね」と、直子さん。

    画像: ベイクドフロマージュ アールグレイ。ベルガモットが香る

    ベイクドフロマージュ アールグレイ。ベルガモットが香る

    基本的に営業日は、木・土曜。これまで販売してきた北白川の店でも金曜販売。気持ちを込めて、手をかけて、仕込んで、つくって、販売できるのは3日間。本当に自分たちがおいしいと思うものだけ届けたいから、それが精一杯。「“行きにくいお店”と言われるんです」と、優子さん。手の込んだおいしさに惹かれて、行きにくくとも、また行きたくなるのです。後半では、ひきつづきお菓子の話、続けることで広がっていったご縁のことをうかがいます。

    画像: 町家を改装して、白を基調にしたオープンキッチンに

    町家を改装して、白を基調にしたオープンキッチンに

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    le murmure ミュルミュール

    京都府京都市上京区挽木町518(寺之内通小川通下ル)
    木・土曜営業 11:30〜17:00(売り切れの場合は閉店)

    北白川の店

    京都府京都市左京区北白川東蔦町25-1
    金曜営業 11:00〜16:30(売り切れの場合は閉店)
    イベント出店などによる臨時休業あり、スケジュールはSNSでお知らせ。

    インスタグラム:@lemumure.cakes


    宮下亜紀(みやした・あき)

    京都に暮らす、編集者、ライター。出版社にて女性誌や情報誌を編集したのち、生まれ育った京都を拠点に活動。『はじめまして京都』(共著、PIE BOOKS)ほか、『本と体』(高山なおみ著)、『イノダアキオさんのコーヒーがおいしい理由』(イノダコーヒ三条店初代店長 猪田彰郎著)、『絵本といっしょにまっすぐまっすぐ』(メリーゴーランド京都店長 鈴木潤著、共にアノニマ・スタジオ)など、京都暮らしから芽生えた書籍や雑誌を手がける。インスタグラム:@miyanlife



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