• 京都と東京にて料理教室を主宰する、料理家の小平泰子さん。ベースにあるのは、京都のおばんざい。旬の食材で手づくりすることが、子どものときから、暮らしのあたりまえでした。「だから、教えるなんて思いもよらなかったんですけど、それこそが知りたいと言ってもらって」、いまにつづいています。コロナ禍、教室に通えなくなった人たちのためにオンラインレッスンをスタート。長いお付き合いの、八百屋さんや白味噌屋さんから仕入れた京都の食材を詰め合わせて届け、すぐ実践できるように。生徒さんと、お店と、作り手とつながり、しっかりと地に足をつけて生きる。京都らしい根っこのある暮らしをうかがいました。

    季節を大事に、“神さん”と暮らす

    料理家・小平泰子さんの根っこにあるのは、おじいちゃん、おばあちゃんとの暮らし。子どものころ、京都の右京区で一緒に暮らしていたそうです。ひいおばあちゃんも、料理好きの、振る舞い上手。家族みんなが信心深く、歳時記を大事にしていました。

    「神さんにお供えしたり、季節の慣わしをしたり……、そういうことが暮らしの中のあたりまえだったんです。どんなものにも、神さんがいてはる、たましいがある、そう思います。日々、神さんと生きている、それが自然なんです」

    日常の中で身につき、習慣となっているから、「どんなに忙しくても、祀りごとや行事をないがしろにできないんです」と、小平さん。そばで見てきた、おじいちゃん、おばあちゃんの暮らしが、心の中に息づいています。食卓では旬の食材を楽しみ、白味噌も台所で仕込んでいたそう。その光景を、よく覚えているといいます。

    「大豆を蒸して、麹とお塩で、お味噌の歌を歌いながら仕込むんです。シンプルな材料から、お味噌が出来上がる。白くて美しくて、子ども心にも神々しく見えました」

    画像: 一年中使えて台所に欠かせない、お揚げさん。梅ジュースや梅干しづくりも毎年のこと

    一年中使えて台所に欠かせない、お揚げさん。梅ジュースや梅干しづくりも毎年のこと

    小平さんはとりわけおじいちゃんっ子。季節の楽しみもたくさん教えてもらったそうです。

    「その当時、ニッキ(シナモン)を薬局で買っていたんです。スコップですくって量りにかけて、薄紙に包んでもらって。そうして、おばあちゃんがつくってくれた蒸かし芋にふりかけて食べるんです、“ふりふりポテト”みたいに。美味しくてわくわくしました。

    雪が降り積もったら、きれいなところをすくってお砂糖をかけて食べたり、春先に笹の新芽を食べさせてもらったときは、自分がパンダになったみたいで嬉しくて。

    おじいちゃんにすれば、“これええやろう、やっちゃん”って感じだったんだと思うんですけど、季節の楽しみをたくさん教えてもらいました。いまよりもののない時代を生きてきた、祖父ですけど、身近なものにわくわくしていたんだろうなって思います」

    画像: 京都の定番、ちりめん山椒。しま村の白味噌を使ったこちらはその名も「色白さん」。「五感食楽」のオンラインショップで販売

    京都の定番、ちりめん山椒。しま村の白味噌を使ったこちらはその名も「色白さん」。「五感食楽」のオンラインショップで販売

    暮らしの中の豊かさに気づいた、コロナ禍

    暮らしの中で、自然を楽しみ、季節を愛おしんできた、小平さん。美味しいものが大好きなのも、祖父母譲り。ポテトサラダに実山椒を散らしたり、白味噌のお味噌汁にラディッシュを合わせてみたり、お番茶でパンナコッタを作ったり……。

    京都でなじみの食材を、ちょっと目先を変えた使い方で、新しい一品にする。遊びがあって、それでいて、品がある、小平さんの料理に、つながっている気がします。

    画像: 暮らしの中の豊かさに気づいた、コロナ禍
    画像: 旬の食材の色、食感、香り……すべてを大切に料理する

    旬の食材の色、食感、香り……すべてを大切に料理する

    「コロナ禍で、行動が制限されましたが、昔の暮らしに戻ったみたいだなって思いました。いままで以上にていねいに過ごせるようになって、身近なものにもっと目がいくようになった気がします。6月、一年の半分を無事に過ごして、水無月をいただいて、ああ豊かやなって、今年はなおさら思いました。豊かさってこういうことなんじゃないかなって、原点に戻ったようで、心が落ち着きました」

    季節の喜びを届けたい、そんな思いで主宰する料理教室。その名は、小平さんのテーマでもある「五感食楽」。

    「春は草木の息吹を祝福し、夏は涼を楽しみ、秋は実りに感謝し、冬は自然を敬い一年を締めくくる。季節の移ろいを五感で感じ、季節の食材を愛で、料理する」

    コロナ禍ではじめたオンラインレッスンでは、使用する食材も一部を除いて届けます。その際、仕入れる先は、日頃からお付き合いのある、京都の八百屋さん、白味噌屋さんなどのもの。京都のありのままの、日常が届くのが、楽しみ。小平さんとお店のあいだに、つながりがあってこそ。親密なお付き合いも、京都らしい。

    「『有次』の包丁、『しま村』の白味噌、錦市場『山市』の棒鱈……、どれもずっと使うものだから、必然的にお付き合いが長くなるんです。地元の人を大事にしっかりとつながるお店は、コロナ禍でも健在。そやから京都はすたれへん、大丈夫って思います」

    画像: 著書「旬を楽しむおとなの献立12ヶ月」(京阪神エルマガジン社)の表紙になった、いかとパクチーの焼きつくね

    著書「旬を楽しむおとなの献立12ヶ月」(京阪神エルマガジン社)の表紙になった、いかとパクチーの焼きつくね

    次回、後編はオンラインレッスンのお話しを! 私も体験してみましたので実感を交えながら。どうぞお楽しみに。

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    小平泰子(こひら・やすこ)
    料理家。京都・烏丸三条と、東京・日本橋にて料理教室主催。オンラインレッスンでは京都の食材を届けてレクチャー。オンラインショップではお惣菜や愛用の調味料などの販売も。著書『京都おかず菜時記』(京阪神エルマガジン社)など。
    インスタグラム:@yasukokohiragokan

    写真提供/小平泰子料理教室 五感食楽


    宮下亜紀(みやした・あき)
    京都に暮らす、編集者、ライター。出版社にて女性誌や情報誌を編集したのち、生まれ育った京都を拠点に活動。『はじめまして京都』(共著、PIE BOOKS)ほか、『本と体』(高山なおみ著)、『イノダアキオさんのコーヒーがおいしい理由』(イノダコーヒ三条店初代店長 猪田彰郎著)、『絵本といっしょにまっすぐまっすぐ』(メリーゴーランド京都店長 鈴木潤著、共にアノニマ・スタジオ)など、京都暮らしから芽生えた書籍や雑誌を手がける。
    インスタグラム:@miyanlife



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