• 物によくぶつかって、いつの間にかアザがたくさんできている。力加減がわからず、よくものを壊してしまう。こうした特徴を持っていると、周囲からは何かと「不器用な子」だと思われがちです。ただ、度を超した不器用さがみられる場合、「発達性協調運動症(developmental coordination disorder:以下DCD)」という疾患が原因しているのかもしれません。

    5~6%の子どもが該当! 発達性協調運動症とはどんなもの?

    画像: 5~6%の子どもが該当! 発達性協調運動症とはどんなもの?

    大人であっても、子どもであっても、細かい作業が苦手で、不器用な人はいるものです。

    でも、周囲の人と比べても、失敗がより多い場合は、「発達性協調運動症(developmental coordination disorder:以下DCD)」という疾患を持っている可能性が高いのだとか。では、発達性協調運動症(DCD)とはどんなものなのか、児童精神科医の宮口幸治先生に聞いてみました。

    「たとえば、皿を洗う行為は、皿が落ちないように一方の手で皿をつかみ、もう一方の手でスポンジを握って皿をこするという、2本の手が別々の動作を同時に行うといった運動がありますよね。こうした別々の動作をひとつにまとめる運動は、“協調運動”と呼ばれています。DCDは、この協調運動に問題があるため、全身を使ってボールを投げたり、両手を使ってボールをキャッチするような粗大運動(身体の大きな動きなど)や、はさみを使ったり手先で細かい作業をする微細運動(指先の動作など)に困難を来たすのです」

    ちなみに、DCDの子どもたちは、どのくらいの割合で存在するのかというと、5〜11歳の子どものうち、約5〜6%。およそ100人中6人ほど。1クラス30人前後としたら、その中に1~2人は存在すると考えれば、決して割合的に少ない数だとは言えません。

    モノにぶつかる、力加減ができない、姿勢が悪いといった、DCDの特徴

    では、DCDの疑いのある特徴とは、実際にはどんなものなのでしょうか。

    「特徴としては、『物によくぶつかる』『物をよく壊す』『力加減ができない』『姿勢が悪い』『じっと座っていられない』『左右がわからない』『ボールをうまく投げられない』などが挙げられます。なお、症状についても、手先の不器用さのほかに、体全体の使い方に影響することもあります。たとえば、小児の場合は、よくものを落としたり、組み立てが下手だったり。幼児の場合は、歩き方がぎこちなかったり、動作を覚えるのが遅かったり……という傾向を持つこともあります。運動やスポーツが苦手な子も多いですね」

    DCDが自尊心の低下やいじめの原因になることも

    画像: DCDが自尊心の低下やいじめの原因になることも

    日常生活に様々な影響を及ぼすDCD。ただ、本人の生活を困難にするだけではなく、「ほかの人のようにうまくできない」「なぜだかわからないけど失敗が多い」という経験を積み重ねることによる自尊心の低下や、周囲からのイジメの原因を招くこともあるようです。

    しかも、「不器用さ」は、大人になってからも続く可能性も。

    「かつては、DCDは成長につれて自然消滅するものだと考えられていました。でも、青年期に入っても、なお持続している例も多く報告されています。もし将来的に、身体を使った仕事に携わる場合には、その不器用さが様々な障壁となることも起こりえます」

    まずは姿勢を改善することが、DCD対策の第一歩

    画像: まずは姿勢を改善することが、DCD対策の第一歩

    大人になってまで、不器用さのせいで生きづらさを抱え込まないためには、どんな対策が考えられるのでしょうか。宮口先生が提唱するのが、様々な認知機能強化トレーニングです。そこで、宮口先生に、DCDの改善に効果的なトレーニングを教えてもらいました。

    「まず、大切なのは“姿勢”の改善です。次のテストをやってみてください。片足のつま先で立ち、両手を伸ばして広げ、両手の手のひらで、ボールを回してみましょう。実際にやってみると、『体の調整が難しい!』と思う人が多いと思います。この動きは、非常にバランスが大切で、態勢を保つには、下半身の姿勢を正しく保つこと。さらには、腕や手首の適切な角度を保つことが必要になってきます」

    こうしたテストを通じて、子どもがバランスをうまく保てないようであれば、おそらく姿勢が安定していない可能性が大。姿勢をしっかり正し、体の土台を整えることを、まずは目指していきましょう。

    「姿勢の悪さは、筋肉の調整機能に問題がある可能性もあります。まずは、V字腹筋などを行って、適度な緊張をもった筋肉を作ることが効果的です。基本ができたら、次に実践してほしいのが指先のトレーニングです。例としては、はさみを使って新聞紙を切ってみるのもおすすめです。このとき、できるだけ長く、ひも状に切れるように意識するのもいいでしょう。そのほか、テニスボールを2個上下に積むというトレーニングも、指先の繊細さを強化するのには有効ですね」

    力の加減がわからない子どもたちは、ボディイメージが弱い

    画像: 力の加減がわからない子どもたちは、ボディイメージが弱い

    そして、次に注意したいのが、「他人を強くたたき過ぎてしまう」「力のコントロールができない」という傾向を持つ子どもたちです。自分では悪気がなくとも、周囲からは「乱暴な子」「暴力的」だと思われてしまう子どもたちに対して、宮口先生は「ボディイメージが弱い可能性が大」と続けます。

    「ボディイメージが弱いというのは、自動車に例えると、『アクセルをどのくらい踏めば、どのくらいスピードが出るか』がわからないような状態です。それがイメージできない子は、いつでもアクセルが全開になってしまうことも多く、つい、何事にも力を入れ過ぎてしまう傾向があります」

    なぜ、力の加減がわからないのか。その原因にあるのが「固有受容感覚」というセンサーの存在です。

    「この『固有受容感覚』とは、筋肉や関節を動かす時に感じるセンサーのようなもの。たとえば、Aさんに話しかけるために、肩を叩くとします。その際、『Aさんに話しかけたいけど、気が付いてないから、肩を叩いてみよう。力加減はこのくらいだ』とセンサーが働かくとで、普通は適度な力加減で収まります。でも、固有受容センサーをうまく運動へフィードバックできていない場合、他人への接触やものを扱うときに、つい強く力を込めてしまうのです」

    力を可視化することで、加減ができるようになる

    力加減のセンサーがうまく働かないがゆえに、つい、力が入り過ぎて、ものを壊したり、他人を強く叩きすぎたりする場合、どうしたらいいのでしょうか。宮口先生が対策としてまず提唱するのが「子どもに自分の全力を知ってもらうこと」です。

    「まず、効果的な手法のひとつが『壁押し』です。子どもに手のひらを壁に着けて、全力で押してもらい、その時の感覚を覚えておいてもらいます。その後、徐々に力を抜いてもらいましょう。この時、子どもには『力を抜いて』と言うのではなく、『さっきの全力を5段階の5としたら、2の力で教えてみて』と伝えてください。力加減を数値化することで、力を入れる強さを学ぶことができます。また、どうしても個人では調整しづらい場合は、作業療法士などの専門家の意見を仰ぐのもいいでしょう」

    「発達性協調運動症(developmental coordination disorder:以下DCD)」については、宮口幸治先生の新刊『困っている子を見逃すな マンガでわかる境界知能とグレーゾーンの子どもたち2』のなかで、より詳しく紹介しています。


    宮口幸治(みやぐち・こうじ)
    立命館大学産業社会学部教授。京都大学工学部を卒業後、建設コンサルタント会社に勤務。その後、神戸大学医学部を卒業し、児童精神科医として精神科病院や医療少年院、女子少年院などに勤務。医学博士、臨床心理士。2016年より現職。著書に、2020年度の新書部門ベストセラーとなった『ケーキの切れない非行少年たち』などがある。こうしたトレーニングを積み重ねていけば、身体的な不器用さは多少なりとも改善することができるはず。ぜひ、実践してみてください。



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