非行化のサインは、小学2年生くらいから現れる
子どもが非行化することは、保護者や教育に携わる現場の先生方にとっては、最も避けたい出来事の一つです。これらの非行化には何かサインはあるのでしょうか。
「子どもの非行化には様々な要因がありますが、だいたい小学2年生くらいから少しずつそのサインが見え始めます。そのサインとは、『勉強についていけない』『遅刻が多い』『宿題をしてこない』『じっと座っていられない』『友達に手をあげる』といったものです」
しかし、実はこれらの背景を探ってみると、本人にだけに非行化の原因があることは、極めて少ないのだとか。
「非行化の背景には、家庭内の問題、知的なハンディや発達障害もしくはそれらのグレーゾーンといった課題があることも多いです。しかし、周囲からは“この子は手がかかる、どうしようもない子だ”と思われ、問題児として扱われてしまいがち。結果、その背景に目が向けられず、気付かれないままに時間が過ぎていくこともあります」
多くの子たちが戸惑ってしまう「中1ギャップ」とは
もし、これらのサインが小学校で見逃されてしまったまま中学生になると、今後の対応はますます困難になっていくのだと、宮口先生は警鐘を鳴らします。
「小学校では何とか先生に支えられて卒業しても、中学校に入るとさらに状況が一変します。中学生になると、思春期にも入り、それだけでも不安定なのですが、小学校とは生活がガラリと変わります。
定期テスト、先輩・後輩、クラブ活動、異性との関係、体の変化、将来的な受験へのプレッシャーなど、それまでの環境と大きく変わり、子どもにとって大きなストレスがかかるのです。こうした様々な変化を“中1ギャップ”と呼ぶのですが、これに適応できない子どもも決して少なくありません」
だからこそ、この頃の子どもはとても不安定になりがち。大人たちによる見守りが、より一層必要になるのです。
学校に行かない、不良仲間とつるむといった非行化のサイン
「通常であれば、子どもは親に“依存しながら反発する”を繰り返しつつ、しっかり受け止められながら次第に安定していきます。でも、もし家庭が不安定であったりすると、子どもはそこでかなりのストレスを感じ始めます。結果、『学校に来なくなる』『不良仲間とつるむ』『夜間徘徊する』などのほか、場合によっては万引きや傷害事件を起こすなどの不良行為がみられることがあります」
宮口先生自身も、少年院などで数多くの非行少年たちと関わってきた経験から、「仮に非行に走ったとしても、本人だけが悪いと言い切れるケースはほとんどない」と語ります。
「元を辿たどれば、少年院に入る子たちは、みんな過去に家庭や学校でいろんなトラブルを持っていることが多いです。家庭が不安定だったり、障害に気が付かれなかったり、いじめにあったり。非行少年たちもかつては多くの挫折を経験してきたことは想像に難くなく、本人だけが悪いという場合は、ほとんどありません」
だからこそ、早期にそれらの兆候をキャッチして、対応するかが大切になってくるのです。
非行化のサインを見極める第一歩は、家庭の背景を認識すること
では、保護者や教師たちは、非行化のサインを見つけたら、どんな行動をとるべきでしょうか。
「一番は家庭の背景をしっかりと認識することです。保護者であれば、自分の家庭で子どもにストレスを与えていることはないかを考える。教職員であれば、保護者と話をするのが大切ですね。なお、この際は、子どもの問題点ばかりを伝えず、過剰に保護者を責めないことです。
そのなかで、『親が不在にしがち』『年の近い兄がなかなか家に帰ってこない』などなんらかの原因が見つかることも多いです」
また、周囲と連携をとることも、万が一の事態に対応するためには、重要になってくるとか。
「小中学生くらいの子どもが夜中に出歩くのは、法を犯す恐れがある『虞犯(ぐはん)行為』と呼ばれます。こうした行動が見られたときは、学校や児童相談所などに相談し、何かが起こる前に専門家に相談するという、同じ目的のために力を合わせる“協働”が重要になってくるのです」
早い段階で、児童相談所に相談するという手もあり
とはいえ、どんな事情を抱えていたとしても、いざ、不良行為にまで発展してしまえば、もはや家庭や学校だけでは済む話ではなくなります。警察に補導されることもあり得るし、万が一犯罪が絡めば逮捕されることも起こりえます。
「仮に、万引きなどの現場を発見された場合、その子どもの年齢によって対処も変わります。たとえば、13歳なら14歳未満の『触法少年』として扱われ、警察に通報されても逮捕はされず、まずは保護者に連絡がいきます。14歳以上20歳未満の場合は、『犯罪少年』という扱いになり、家庭裁判所の審判次第で、保護処分や不処分などの決定が下されます」
では、もしも我が子が非行に走ったと感じた場合、どこに助けを求めたらいいのでしょうか。その場合、ひとつの選択肢に上がるのが、児童相談所です。
「児童相談所は“虐待を対応する場所”とのイメージが強いですが、本来は子どものあらゆる問題を支援する役割があるので、発達相談や非行の相談なども受け付けています。
ただ、児童相談所に連絡しても、明らかな虐待で保護が必要な場合以外は、学校で見守っていくことになるケースが多いのです。実際、虐待通報があったとしても、施設に子どもが保護されるのは1割程度。残りの9割の子どもについては、地域の人々で支え合っていくしかないのです」
子どもの問題は、保護者や学校だけの問題ではなく、地域全体で関わっていく問題だということ。だからこそ、子どもの出すサインに少しでも早く気が付いて対処法を取ることが、周囲の大人たちに求められているのです。
「子どもの非行化」については、宮口幸治先生の新刊『困っている子を見逃すな マンガでわかる境界知能とグレーゾーンの子どもたち2』のなかで、より詳しく紹介しています。
宮口幸治(みやぐち・こうじ)
立命館大学産業社会学部教授。京都大学工学部を卒業後、建設コンサルタント会社に勤務。その後、神戸大学医学部を卒業し、児童精神科医として精神科病院や医療少年院、女子少年院などに勤務。医学博士、臨床心理士。2016年より現職。著書に、2020年度の新書部門ベストセラーとなった『ケーキの切れない非行少年たち』などがある。