• 日本には心惹かれる器をつくる作家が大勢います。作家と私たちの暮らしをそっとつないでくれるのが器屋さんです。福岡県早良区にある「うつわ屋フランジパニ」は、毎日の暮らしにやさしさを添える器を揃える器屋さん。店主の地蔵さん夫妻に、お薦めの作家をこっそり教えてもらいました。

    得意を生かして、仲よく切り盛り

    福岡市の中心地、天神にアクセスしやすく、住環境も整った福岡県早良区。そんな住宅エリアに、「うつわ屋フランジパニ」はあります。古民家のような雰囲気の店内には、アンティーク家具が置かれ、ほっこりとしたかわいい器から、渋めの器まで、温かみのある土物の器が並んでいます。

    店を営むのは、地蔵俊一郎さん、朋子さんご夫妻。唐津出身の朋子さんは、幼いときから祖父に連れられて、唐津焼を見に窯元などによく足を運んでいたという、年季の入った器好き。10歳の頃に買った唐津焼の器をいまも大切にし、お守りのようにお店に置いているそう。一方、俊一郎さんは「ずっと普通のサラリーマンで、正直、器に興味はなかった」と話します。

    画像: 奥の畳敷きの部屋にはシンプル&渋めの器を、フローリングにはかわいめの器を展示するのが決まりごと

    奥の畳敷きの部屋にはシンプル&渋めの器を、フローリングにはかわいめの器を展示するのが決まりごと

    画像: こちらは“渋め”で、滋賀県の作家、宇田康介さんのもの

    こちらは“渋め”で、滋賀県の作家、宇田康介さんのもの

    画像: こちらは“かわいめ”で、沖縄県の作家、よぎみちこさんのもの

    こちらは“かわいめ”で、沖縄県の作家、よぎみちこさんのもの

    「妻は若い頃から高価な陶器を買っていて、『そんな高いのを買うんだ!』と内心驚いてました。でも、結婚式の引き出物用にふたりで器を探したときに、当時はいまみたいに気軽に入れる器屋が少なくて、じゃあ、自分たちでやろうかという想いが芽生えて。それから数年経って、妻に器屋をやろうと持ち掛けられて店を始めたのですが、後から聞くと、興味の赴くまま転職を繰り返す私に、落ち着いてほしかったみたいです」

    そんな俊一郎さんが、器に惹かれるようになったのは、いざ器屋を始めることになり、作家の岡崎順子さんに会ってから。岡崎さんといえば、異質の経歴の持ち主で、主婦の感覚を大切にした心温まる器で人気の作家。作品を見て興味を惹かれ、本人に会いに行くと、「こんなにも欲がなく、ある種不器用で、素敵な人がまだ世の中にいたんだ」と驚いたのだとか。

    画像: 「素人でお店を始めたもんですから、幅を広げないようにと思って」と、ガラスや木工は置かず、土物だけを扱います

    「素人でお店を始めたもんですから、幅を広げないようにと思って」と、ガラスや木工は置かず、土物だけを扱います

    画像: 室内と違って、外観は洋風。自宅兼ショップとなっています

    室内と違って、外観は洋風。自宅兼ショップとなっています

    朋子さんが作家選びと器のディスプレイを、俊一郎さんが接客と作家さんとのやり取りを担当と、おもしろいことに役割はきっちり分担。長年器に慣れ親しんできた朋子さんと、元営業マンだったという俊一郎さんが、それぞれの得意分野を生かした形です。フランジパニは、2004年にオープンしてから15年以上続く人気店。そんな明確な線引きが功を奏しているようです。

    まるごと好きになれる人だけを

    そんな地蔵さん夫妻に、いち押しの作家さんのアイテムをご紹介してもらいました。
    まずは、福岡県糸島市で作陶する、岡崎順子(おかざきじゅんこ)さんの器です。

    画像: 定番の「バスケット」は、グラタン皿やスープカップなど、いろいろ使えて便利。「サラダをもりもり盛ると花かごのようでかわいいです」と俊一郎さん

    定番の「バスケット」は、グラタン皿やスープカップなど、いろいろ使えて便利。「サラダをもりもり盛ると花かごのようでかわいいです」と俊一郎さん

    「岡崎さんは、ほっこりとした作風なんですが、人柄も同じで、物腰が柔らかくやさしい方。経歴もとてもおもしろいんです。専業主婦時代に、趣味で陶芸教室に通っていたものの、教室はやめて、自力で陶芸を続けることに。働いてお金を貯めて窯を購入し、元鶏舎だった場所をひとりで工房につくり替えたそうです。途中で窯業学校の一年コースで学んだりもされましたが、どこかで修業することなく、独り立ちされて。

    だから作品の根っこには、主婦的な感覚があるようで、独特のかわいさがあるんですよね。この『バスケット』もそうですが、岡崎さんの器は厚手で丈夫。子育てしてると、器に気を使っている余裕がないということで、すごく頑丈につくっていますね。

    器のほかに、ほっこりとした顔の雛人形もつくっていて、そちらも大変人気です。『子どもだった頃、夜の暗がりに見える雛人形が怖すぎて。娘が生まれたとき、怖くない雛人形をつくろうと思った』と話されて、そんなエピソードにも和みます」

    お次は、東京都八王子市で作陶する、小谷田潤(こやたじゅん)さんの器です。

    画像: ラフなしのぎに温かみを感じる「しのぎ角ボウル」。「個展で飛ぶように売れる」という人気の作品

    ラフなしのぎに温かみを感じる「しのぎ角ボウル」。「個展で飛ぶように売れる」という人気の作品

    「小谷田さんのつくる作品は、長く時を経たような、まるで北欧アンティークのような印象があります。東京のお生まれで、お話するとさらっとした都会の方という印象を受ける方が多いと思うんですけど、中身は熱くて義理堅いところがあり、そのバランスがおもしろい。

    陶芸家ではなく、ほかのアーティストとの交流がほとんどなんですよね。エッセイストの石田千さんと個展で対談したり、企業とタイアップするなど、ほかの作家さんがされないような活動もされています。なので、作品もほかの方とは切り口が違うような感じがしますね。

    手触りとか、底から側面に立ち上がるところの角度とか、細かい部分にとてもこだわりを持っている方。この『しのぎ角ボウル』も、釉薬の質感や仕上げにすごく手間をかけているもんですから、独特の風合いを感じると思います」

    最後は、栃木県益子町で作陶する、及川静香(おいかわしずか)さんの器です。

    画像: 益子の土と釉薬を使い、土味を生かした器をつくる及川さん。手前から右回りに「オーバル皿」「しのぎカップ」「呉須飯碗」

    益子の土と釉薬を使い、土味を生かした器をつくる及川さん。手前から右回りに「オーバル皿」「しのぎカップ」「呉須飯碗」

    「お名前は静香ですが、男性の作家さんです。作品もどちらかというと、男性的な面と女性的な面を兼ね備えているので、女性作家と思って使っている方もいると思います。

    名前の通り、とても物静かな方で、作品についてあれこれ聞き出そうとしても、多くは語らず、『そんな風にいってもらって嬉しいです』といいながら微笑んでいらっしゃいます。でもそれ以上に、作品自体やものづくりの姿勢とかが饒舌に語りかけてくるというか、すごく力強いんですよね。

    工房に伺うたびに、棚の奥にしまい込んである作品を、『宝物が隠れているかも』と思って、引っ張り出して拝見させていただくんです。毎回それにすごい時間をかけてしまうんですが、嫌な顔ひとつされずに、私があれこれいうのにもつきあってくださって。

    そんな機会に見つけ出したのが、今回ご紹介する『呉須飯碗』です。呉須(染付など青い絵を描くときに使う顔料)を釉薬として使っているんですが、グラデーションが美しくて。及川さんというと、今回ご紹介した無地の『オーバル皿』が有名ですが、最近ではこういうタイプもされているんですよ」

    画像: お店では、個展を年に6回開催。隔年で催される、水玉模様の器だけを並べる企画展「水玉のうつわ展」も人気です

    お店では、個展を年に6回開催。隔年で催される、水玉模様の器だけを並べる企画展「水玉のうつわ展」も人気です

    地蔵さん夫妻は、作家さんを選ぶとき、どんなことを大切にされているのでしょうか。

    「せっかく夫婦でやる小さなお店なので、作品はもちろんですけども、人柄まで含めて全部好きな方だけを扱おうと決めていて。それと、ちょっとしたご褒美として買えるぐらいの価格でつくってくださる方。シンプルで長く使える作風の方というのを基準にしています」

    でも最終決定権は朋子さんにあるそうで、「この作家さんもいいんじゃないかなと思っても、却下される場合が(笑)」と俊一郎さん。そこは朋子さんが長年培ってきた直感で、決めるそうです。

    夫婦ふたりが応援する作家の作品は、気軽に買えて、長く愛用できる飽きのこない器たち。自分のために、誰かのために、贈りたい最愛の一枚を、どうぞ見つけてみてください。

    ※紹介した商品は、お店に在庫がなくなっている場合もございますので、ご了承ください。

    <撮影/地蔵俊一郎 取材・文/諸根文奈>

    うつわ屋フランジパニ
    092-821-1218
    10:00~19:00
    水休
    福岡県福岡市早良区南庄6丁目10-25
    最寄り駅:福岡市営地下鉄「室見駅」から徒歩約10分
    https://www.frapani.com/
    https://www.instagram.com/frapani/?hl=ja
    ◆小谷田潤さんの個展を開催予定(11月25日~11月30日)



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