子どもがぼんやりしている間に、脳は成長していく
子どもの脳が進化する上では、外から受ける刺激に加えて、より重要なものが「睡眠時間」だと語る黒川先生。では、なぜ子どもにとって睡眠が大切なのでしょうか?
「外部から刺激を受けた脳は、その入力(経験値)を咀嚼してセンスに変える必要があります。脳内を整理する間、外界からいったん脳を遮断します。それが、眠りの正体です。眠りは、身体を休めるのと同時に、脳の進化の時間でもあります。センスを作り出し、記憶を定着させる。
受験生がいるお母さんが邁進すべきは、いかに勉強させるかではなく、『短い持ち時間で、いかに効率よく寝させるか』だと私は思います」
そして、起きている間にも、脳が必要性を感じたら、「外界から脳を遮断し、脳を進化させる」モードに入ることがある。それが、はたから見たら、「ぼんやり」に見えるのだとか。
日頃、ぼうっとしている子ほどいい学校に行くという事実
創造力を司る器官である小脳は、8歳くらいまでにその基礎機能が完成されていきます。そのため、8歳までの男の子は、このぼんやり時間が頻繁に訪れるのだとか。
「私自身が子育てをしている際、保育園の先生たちも、口を揃えて同じことをおっしゃっていました。『散歩よ、と声をかけると、女の子は2歳児でもさっさと帽子をかぶって歩き出す。男の子は6歳児でも、運動靴を片方はいただけでぼうっとしているような子が必ずいる。
ところが、そんな子ほどいい学校に行ったりするから面白い』と。フリーズした時間、彼らの脳は活性化して、内なる世界観を充実させているのだと思います」
「ものがたり」を与えることで、忍耐力のある子に育つ
では、夢に向かって着実に努力を続けるようなタフな忍耐力は、どこで鍛えればいいのでしょうか。そのためには「ものがたり」のアシストが不可欠だと黒川先生は語ります。
「タフな忍耐力を身につけさせるために私の場合は、幾多の冒険ファンタジーを息子に与えました。本、映画、ゲームなどの世界で起こるものがたりは、苦しまずに脳に忍耐力をもたらし、使命感を誘発する、ありがたいアイテムです」
9歳から12歳の子どもには、「ものがたり」を与えよう
特に、ものがたりが必要なのは、9歳から12歳までの3年間。
「9歳の誕生日から12歳の誕生日は、脳のゴールデンエイジと呼ばれています。なぜなら、『頭の良さ』『運動神経の良さ』『芸術センス、コミュニケーションセンス、戦略センスなど、あらゆるセンスの良さ』の源である神経線維ネットワークが劇的に増えるときだからです。この期間に冒険ファンタジーは必須です」
脳の神経線維ネットワークは、眠っている間に、起きている間の経験をもとに作られるもの。したがって、人生のこの時期に大切なのは「体験」と「眠り」なのです。
「ただ、体験のほうは、日本に住む小学生の男の子の日常生活だけではたかが知れていますよね。しかし、ファンタジーの扉を開けたら、あらゆる不幸と挫折とそれを乗り越える知恵と勇気が、そこには満ち溢れています。つまり、読書は、『脳に与える体験』そのもの。読書をする子は、脳への入力が何倍にもなります。読書好きにすることは、息子の脳育ての大事な定石なのです」
息子を本好きにさせるには、絵本による刷り込みを!
とはいえ、息子に本を好きにさせるためには、一朝一夕ではままなりません。黒川先生いわく「もしも、息子を読書好きにさせたいのならば、できれば赤ちゃんのときに絵本に出逢わせることが重要」とのこと。
「本を読むという行為は、結構面倒くさくて、かったるいもの。読書好きの人だって、読み始めが億劫で、しばし苦痛になることがあるくらいです。しかし、本は面白いと本能的に信じているから、読み進められるのです。読書好きになるためには、人生の早い時期に、脳に『本を読むのは面白い』という刷り込みをしておくことが大切です」
「本は面白い」という刷り込みこそが、絵本の役割。ページをめくると、思いもよらない世界が広がることを知らせて、「本の面白さ」を潜在意識に埋め込むことで、本好きな息子が育つのだとか。
「絵本の読み聞かせは、おとなの想像する何百倍も、子どもたちの脳を刺激するエンターテインメントです。本を楽しむことの原点であり、コミュニケーションの基礎力にも関与します」
自分で音読できるようになるまでは、「読み聞かせ」を
8歳の言語機能完成期を過ぎれば、文字を見ただけで、子どもは読み聞かせをしてもらわなくても、音読をしなくても、文字情報から、直接リアルを作り出す能力が完成します。
「逆に言えば、それまでは、読書にリアルが足りません。小学校低学年では、国語の時間に音読をさせますが、あれは脳科学上、かなり大事なカリキュラムなのです」
では、言語機能完成期となる8歳になったなら、読み聞かせはやめてもいいのかというと、そういうわけでもないようです。
「できることなら、自分で音読できるようになるまでは、子どもに読み聞かせをしてあげてほしいと思います。8歳前後になってくると、子どもが自然に音読を疎ましがるようになります。それが『読書リアル力』が完成した合図です」
ちなみに、赤ちゃんの脳にいい絵本とはどんなものなのでしょうか。それは、擬音語が多いものだと、黒川先生は語ります。
「絵が簡単で『にこにこ』『ざぶざぶ』『ぎゅっ』などの、発音して楽しい短いことばが添えられている絵本は、読み聞かせにぴったりです。実は、『ことばの感性=語感』は、発音の体感が作り出します。たとえば、母鳥がひよこを抱きしめる絵に添えられた『ぎゅっ』ということばを母親が発音してやると、赤ちゃんは抱きしめられたかのように感じるはずです」
こうした黒川伊保子先生が語る、才能あふれる息子の育て方については、『イラストですぐわかる!息子のトリセツ』(黒川伊保子=著 扶桑社)に詳しくつづられています。
黒川伊保子さん
脳科学・人工知能(AI)研究者。1959年、長野県生まれ。奈良女子大学理学部物理学科卒業後、コンピュータ・メーカーにてAI開発に従事。2003年より株式会社感性リサーチ代表取締役社長。語感の数値化に成功し、大塚製薬「SoyJoy」など、多くの商品名の感性分析を行う。また男女の脳の「とっさの使い方」の違いを発見し、その研究成果を元にベストセラー『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』(共に講談社)、『娘のトリセツ』(小学館)を発表。他に『母脳』『英雄の書』(ポプラ社)、『恋愛脳』『成熟脳』『家族脳』(いずれも新潮文庫)などの著書がある。
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