仕事を通して、器をより深く好きに
東急東横線学芸大学駅から歩くこと7分、三宿通り沿いに建つ「MIGO LABO(ミゴラボ)」が、今回の目的地です。作家ものの器と海外の手仕事の生活雑貨を並べるセレクトショップで、5坪ほどの店内には、心躍る素敵な器や雑貨がひしめき合っています。そんな「MIGO LABO」の店主、石黒美穂子さんは、実は長年、雑誌やwebなどで活躍するフォトグラファーでもあります。
どうして石黒さんは、お店を始めることになったのでしょうか?
「独身時代から自宅で友人たちに手料理をふるまう食事会をよくやっていて、その頃から器は大好きでした。でも、当時は作家さんの器を買い集めるというわけではなく、ショップなどで気に入ったものがあれば購入するという感じで。
一方、私の職業はカメラマンで、音楽や旅といったジャンルを中心に仕事をしていたんですが、次第にライフスタイル系の仕事の依頼が増えてきたんです。仕事を通じて、生活道具にじっくり触れるうちに、器への興味が深まっていきました」
次第に、ギャラリーに足を運び、作家ものの器を買い集めるようになった石黒さん。作家さんと触れ合う機会を持ったりと、より深く器の世界を知るようになるなかで、作品をほかの人にも紹介したいと考えるようになりました。そうして2016年、「住んでいる人の顔がわかるような、生活圏内がいいかなと考えて」と、自宅から徒歩で通えるこの地に、お店を構えます。
「お店をやった経験はまるでなく、いちから手探りの状態でした。開店から少しずつお店の雰囲気をつくってきた感じです」と話す石黒さんですが、そのもの選びには定評があり、女性を中心に高い支持を得るお店となっています。
多彩な作風を、ひとつの食卓で楽しんで
そんな石黒さんに、いち押しの作家さんのアイテムをご紹介いただきました。
まずは、京都府京丹波町で作陶する、谷口晃啓(たにぐち・あきひろ)さんのすり鉢です。
「谷口さんのすり鉢は、自宅でずっと前から使っているんですが、使い勝手がとてもよくて。すり鉢というと、昔ながらの大きくてどっしりしたものを思い浮かべると思いますが、これは小ぶりでシュッとしたデザイン。なので、これで和え物をつくったら、器としてそのまま食卓にだすことができて便利ですね。小さいサイズのものは、納豆を練るのに使ったり、子どものお弁当づくりにも重宝しています。
谷口さんというと、真っ白なぽってりした質感の白磁の器をつくっていらっしゃるイメージかと思います。このすり鉢も白磁ですが、ニュアンスのあるほんの少しグレー味を帯びた色合いで、こちらもとても素敵ですね。こちらと似た色味のコーヒーメーカーなどもつくられています。谷口さんは、すごく人当たりのいいやさしい方。そんなお人柄が器にもでているように感じます」
お次は、岐阜県瑞浪市で作陶する、伊藤 豊(いとう・ゆたか)さんの器です。
「このスープカップは、ろくろで成形した後、表面を削り模様をひとつ一つ手作業で入れています。伊藤さんは、しのぎや彫りの入った作品を多くつくっていらっしゃるんですが、こちらのしのぎは独特で、花の模様をしています。お揃いのお皿もあるので カップの下に敷いて、セット使いも楽しめますよ。
土ものならではのざらりとした感触があって、温かみを感じさせてくれますね。フォルムもシンプルで使い勝手がよく、和洋中問わず何にでも使えます。器をかなり収集しているような方にはもちろん、敷居の高くない雰囲気なので、器に興味を持ち始めたばかりという方にも、気に入っていただけると思います」
最後は、栃木県益子町で作陶する、廣川 温(ひろかわ・あつ)さんの器です。
「廣川さんは耐熱の器をおもにつくられていて、こういった茶色の釉薬をかけた、温か味のある表情をしています。こちらはしのぎ入りですが、しのぎのないタイプもあって、どちらも人気です。手触りもいいですし、どんな料理をのせてもすごくおいしそうに見せてくれるんですよね。
耐熱陶器は調理道具でもあるので、原料づくりをしっかりしないと、加熱に耐えられず割れたりするそうなんですが、廣川さんはそこに強いこだわりを持っていて、すごく丈夫につくられています。
空焚きもできるので、直火でちょっと温めてから油をひき、ウインナーをさっと炒めるなんてこともできます。お肉や野菜なら、炒めてからオーブンに入れれば最後の仕上げが楽ですね。グラタンやステーキもできますよ。廣川さんは片手鍋や土鍋などの調理道具もつくっていらっしゃるんですが、なかでも『ごはん鍋』が人気で、すぐに売り切れてしまうほどです。
煮込み料理やポトフ、おでんなんかをつくってそのまま食卓にだせば、“おおーっ”と盛り上がりますよ。ほかには焼き芋なんかもおいしくつくれます」
石黒さんは、作家さんを選ぶとき、どんなことを大切にされているのでしょうか?
「まずは、自分が使いたいと思うもので、使いやすくて盛りつけしやすいもの。また、価格帯があまり高すぎず、手にとりやすいものですね。
それと、作風があまり偏らないように作家さんを選んでいます。というのも、私自身いろいろなタイプの器が好きで、揃えてコーディネートというより、違うものを並べて楽しむという。うちは3人家族なんですが、テイストの違う作家の器に、それぞれのおかずを盛りつけたりしています。逆にそのほうが上手くバランスがとれるように感じて」
石黒さんが器を手にとりながら説明してくれる際、「この耐熱器は、うちではお豆腐一丁入れて湯豆腐とか、よくやります」「パスタの盛り皿にもいいですよ」といった言葉がよく飛び出します。料理が好きで器が好きで、そんなシンプルな使い手としての目線をとても大切にしているように感じました。
そして、もちろん、カメラマンとして長年育んできている“物を見る力”も「MIGOLABO」の強み。見た目も素敵で、手軽に買えて、使って満足できる、そんな暮らしを彩る特別な器を、ぜひ手にとってみてください。
※紹介した商品は、お店に在庫がなくなっている場合もございますので、ご了承ください。
<撮影/林 紘輝 取材・文/諸根文奈>
MIGO LABO(ミゴラボ)
03-6303-3281
13:00~19:00
不定休 ※営業日時はSNSにてお知らせしています。
東京都目黒区五本木2-42-1
最寄り駅:東急東横線「学芸大学駅」から徒歩約7分
https://www.migolabo.com/
https://www.instagram.com/migolabo/
◆伊藤豊さん・岡田崇人さんの二人展を開催予定(2022年6月)
◆谷口晃啓さんの個展を開催予定(2022年9月)
◆廣川温さんの個展を開催予定(2022年11月または12月)