(『飾らない。76歳、坂井より子の今をたのしむ生き方』より)
作る喜びを感じるのは、みんながおいしいって食べてくれる時
人間は食べることで生きているでしょう。1日3回食事をすると、1年で1000回以上。そう考えると、おろそかにはできないですよ。
私にとって食が一番大事。
料理は主婦の重要な役割のひとつだと思います。家族のためになることだからきちんとやりたいし、やる以上は楽しみたい。そんな気持ちでずっと料理をしてきました。
作る喜びを感じるのは、みんながおいしいって食べてくれる時。それが何よりうれしいです。
料理って不思議でね、同じものでも、愛情を込めて作るのと嫌々作るのでは味が全然違う。おいしいものを食べさせてあげたいと思う気持ちが大きく影響するんです。
夫婦げんかした後の料理なんておいしくできるわけがないのよね。だから、まず大事にすべきは自分の気持ち。悩んだりイライラしたりは脇に置いて「いい加減」にしていれば、「良い加減」になりますよ。
下ごしらえも手を抜かずに時間をかけて行います。たとえば、もやしのひげ根を取るのもそう。ひげ根を取るだけでおいしさが全然違うんですよ。
それに、1本1本見て触るから、もやしにもいいものと悪いものがあるってわかるんです。長くてひげ根が少ないものと、折れていてひげ根が多いもの。
だからもやしはいつも決まったスーパーで買います。いいもやしとにんじん、ほうれん草でナムルを作ると、もう、ごちそうよ。
私が若い頃は今ほどお店もなかったから、食べたいと思えば自分で作るしかありませんでした。
でも献立を考えたり食材を使い回す工夫をしたりするのは苦じゃなかったので、やっぱり好きだったのかな。
家族はみんな食事を楽しみにしてくれているようなので、今も毎日、手抜きせずに作っています。
食べてくれる人がいて張り合いがあるから、作るのが嫌だなって気持ちにはほとんどなりません。
でも、もし自分ひとりならここまではやらないでしょうね。きっとお茶漬けや残りもので済ませちゃう。
だから家族のためでもあるけれど、巡り巡って自分の健康のためにもなっているんです。
坂井家定番のナムル
ひげ根を取ったもやし1袋、せん切りにしたにんじん1本、ほうれん草1わを別々にゆでたら、ほうれん草は水にさらし、水気を絞って食べやすい長さに切ります。
すりごま(または炒りごま)大さじ3、ごま油大さじ1と1/2、塩ひとつまみをボウルに入れて混ぜたものを3つ作り、それぞれの野菜を加えて和えたらでき上がり。
〈撮影/枦木功 取材・文/片田理恵〉
本記事は『飾らない。76歳、坂井より子の今をたのしむ生き方』(家の光協会)からの抜粋です
坂井より子(さかい・よりこ)
1946年生まれ。2人の子どもの母、3人の孫の祖母で、神奈川県葉山町に3世帯9人で暮らす。子育てが落ち着いた40代後半から15年ほど、自宅で料理教室を主宰。主婦歴50年の経験から生まれた暮らしの知恵、また人生を軽やかに生きるコツなどを独特のやさしい口調で語るその姿が、若い世代を含む幅広い年齢層に支持されている。近著『飾らない。76歳、坂井より子の今をたのしむ生き方』は、これまでの人生を深く綴った初めての本。
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自然体な暮らしと素敵な笑顔で、幅広い世代の女性から支持される坂井より子さん。専業主婦歴50年、「ふつうの主婦」だからこそ伝えられる、日々を前向きに暮らすための生き方、考え方をつづったエッセイです。
子どもたち家族と3世帯で暮らし、9人分の家族の食事を作る日々。その時々で「流れに任せて」「いいとこどり」で生きてきたと語るより子さん。一人の女性として、しなやかに、楽しく生きるヒントがたくさん詰まった1冊です。