• 日本には心惹かれる器をつくる作家が大勢います。作家と私たちの暮らしをそっとつないでくれるのが器屋さんです。大阪市阿倍野区にある「暮らし用品」は、作家の感性が生きた普段使いの器を揃える器屋さん。店主の米田紀子さんに、お薦めの作家をこっそり教えてもらいました。

    どうせなら夢中になれるものを仕事に

    昭和初期に建てられた長屋が多く残る大阪市阿倍野区。その長屋を改築した、風情あふれる店内に器を並べるのが、今回ご紹介する器屋さん「暮らし用品」です。店主の米田紀子さんは、京都の美大出身というだけあって、セレクトのよさはさすがのひとこと。でも、「私は美術ではものにはならなかったんです」と米田さんは話します。

    卒業後はあてもなく上京。そこからWebデザインを勉強し、IT系のベンチャー企業に就職すると、長時間の残業や休日出勤が当たり前の日々。まさにハードワークをこなしていたそうですが、その後どうして器屋さんになったのでしょうか。

    画像: 壁や床のみ新しくし、柱など残せるものは残して改築した店内は、趣ある佇まい

    壁や床のみ新しくし、柱など残せるものは残して改築した店内は、趣ある佇まい

    画像: シンプルながら表情豊かな器が並びます。上段の蕎麦猪口は、左ふたつが藤吉憲典さん、右ふたつが須藤拓也さんのもの

    シンプルながら表情豊かな器が並びます。上段の蕎麦猪口は、左ふたつが藤吉憲典さん、右ふたつが須藤拓也さんのもの

    「激務に耐えられるほどの体力があったのは、自分でも驚きでした(笑)。しばらくそんな風に働いていると、大阪に引っ越しをした両親から、私も大阪に来ないかと誘われたんです。そこで大阪行きを決めたのですが、そのときはもう35歳近く。人生の分岐点と感じ、この先どうしていこうかと思いを巡らせたときに、“これだけ仕事で頑張れる体力があるなら、なにか自分でやったらおもしろいかもしれない”と思い立ったんです」

    画像: 古い長屋を改築して、2012年に実店舗をオープン。展示会は年に5回ほど開催しています

    古い長屋を改築して、2012年に実店舗をオープン。展示会は年に5回ほど開催しています

    画像: 味わい深いお皿は、右から田谷直子さん、小山乃文彦さん、村木雄児さん、森本仁さんの作品

    味わい深いお皿は、右から田谷直子さん、小山乃文彦さん、村木雄児さん、森本仁さんの作品

    なにをやろうか考えた際に、まっさきに思いついたのは、器屋さん。ひとり暮らしを始めた学生時代に器を買うようになり、上京した後も、多忙な仕事の合間を縫って器屋巡りをしたり、クラフトフェアや陶器市に出かけたり。東京にいた最後の3年間は、週末の度に器を見て回るほど、のめり込んでいたそう。

    お店で取り扱っている作家さんは、15年以上前のそんな“器漬け”の日々に知った方たちも多いそうで、どっしりした土物からカラフルな絵付けまで、多彩な器が目を楽しませてくれます。

    自分の感覚を大切につくられたものを

    そんな米田さんに、いち押しの作家さんのアイテムをご紹介いただきました。

    まずは、福岡県福津市で作陶する、藤吉憲典(ふじよし・けんすけ)さんの器です。

    画像: なずなの絵柄がかわいい「染錦なずな文 五寸皿」(右)。左の「染錦なずな文 玉縁小皿」は、少し深さがあり、小鉢としても使えます

    なずなの絵柄がかわいい「染錦なずな文 五寸皿」(右)。左の「染錦なずな文 玉縁小皿」は、少し深さがあり、小鉢としても使えます

    「藤吉さんはベテランの作家さんなのですが、かつて東京でグラフィックデザイナーをされていて、弟子入りなどされずに佐賀有田の複数の窯元で和食器デザイン・ 商品開発を担当しながら技術を習得して陶芸家になられた、珍しい経歴の方です。

    江戸時代の古伊万里、鍋島、柿右衛門といった肥前磁器を師と仰ぎ、名品を見ながら独学で学んだそうですが、成形も絵付けも質の高さが感じられて。絵付けは古典を写したものと、オリジナルもされていて、どちらも素晴らしいですね。

    この『染錦なずな文』はオリジナルで、とても人気があります。かわいいだけでなく、キリッとしたかっこよさもあり、女性だけでなく男性の方にもよく選んでいただいていますね。 日々の暮らしのなかで目にする自然をモチーフに、チューリップ柄など、ほかの方はされないような絵柄を描かれるのも、藤吉さんの魅力です」

    お次は、石川県金沢市で制作する、井上美樹(いのうえ・みき)さんのグラスです。

    画像: 左ふたつは、普段使いにぴったりのワイングラス「デイリーグラス S」。右のMサイズは、350mLの缶ビール1本分がまるっと注げる大きさ。もちろんお酒だけでなく、いろいろな飲み物に使えます

    左ふたつは、普段使いにぴったりのワイングラス「デイリーグラス S」。右のMサイズは、350mLの缶ビール1本分がまるっと注げる大きさ。もちろんお酒だけでなく、いろいろな飲み物に使えます

    「井上さんは、金沢市にある設備の整った公共のレンタルガラス工房で制作されていて、ガラスの柔らかな曲線を生かした作品をつくられています。

    『デイリーグラス』は、飲み口の部分が反っていて、口当たりがよくとても飲みやすいんです。グラス全体は薄めですが、飲み物を入れて持ったときに飲み物の重さでぐらつかないように、底に厚みを持たせているそうで、使い勝手のこともていねいに考えられていますね。井上さん自身、相手のことをいつも考えてくださる、とても素敵な女性です。

    井上さんの作品は、女性らしい柔らかさや、独特のゆらぎがあって、どの作品を見ても井上さんらしい形だなと感じて。透明のシンプルなガラス作品でも、しっかりと自分らしさを出してらっしゃるのが、すごいと思います」

    最後は、岡山県備前市で作陶する、森本仁 (もりもと・ひとし)さんの器です。

    画像: 素朴ななかに美しさが滲み出る「白花深皿」。白でも色移りしにくいので、気兼ねなく使えます

    素朴ななかに美しさが滲み出る「白花深皿」。白でも色移りしにくいので、気兼ねなく使えます

    「森本さんは、岡山の備前焼の産地で作陶されていて、お父様も備前焼の作家さんです。『白花』という名前は、森本さんが名づけたもので、備前の土を使い灯油窯で焼いたもの。薪窯を使うと備前焼のあの茶色い感じになり、灯油窯で焼くと、このような土のままに近い、白っぽい色になるそうです。

    単色で飾りのないとてもシンプルな器なのに、料理を盛ってみたいと強烈に思わせてくれるんです。形のよさがそう思わせてくれるのでしょうし、これだけ白く土そのものといった感じの陶器の器は珍しく、そんな潔さにも惹かれます。森本さんは茶道、煎茶道、中国茶を習われていたり、料理もとてもお上手。使い心地を試しながら、形を考えていらっしゃるので、実際とても使いやすいです。

    画像: こちらは備前焼の「備前隅切皿」。温か味がありつつもモダンな印象です

    こちらは備前焼の「備前隅切皿」。温か味がありつつもモダンな印象です

    森本さんの備前焼は、これまでの備前焼にはなかったようなフォルムをしています。現代の暮らしに合う自分たちも使いたくなるような器をつくりたいとの思いで備前焼の新たな可能性を切り開いてらっしゃいます」

    米田さんは、作家さんを選ぶとき、どんなことを大切にされているのでしょうか。

    「器を見たときに自分がどう感じるかを一番大切にしているんですが、ではどういうものに惹かれるか考えてみたところ、作家さんがその方らしい作品をつくっているかどうかというところに行きつくのかなと思います。

    作家さんご自身がしっくりくる感覚を、突き詰めていった結果できた作品であって、そういうものを見ると、筋が通っているというか、見掛けだけじゃなく中身も充実しているような、そんな感じが作品から伝わってくるように思います」

    「昔から誰かが手づくりしたものが、すごく好きでした」とも話す米田さん。美術を勉強した身だからこそ、より一層つくり手に近いところで、その想いを感受することができるのかもしれません。作家のまっすぐな気持ちが伝わる感性豊かな器を、どうぞ手に取ってみてください。

    ※紹介した商品は、お店に在庫がなくなっている場合もございますので、ご了承ください。

    <撮影/米田紀子 取材・文/諸根文奈>

    暮らし用品
    06-6628-2606
    11:00~18:00
    水・木・金休 ※臨時休業はSNSにてお知らせしています
    大阪府大阪市阿倍野区阪南町1-45-15
    最寄り駅:Osaka Metro御堂筋線「昭和町駅」から徒歩約3分
    http://www.kurashi-yohin.com/
    https://www.instagram.com/kurashi_yohin/
    ◆山崎さおりさんの「急須展」を開催予定(7月23日~8月2日)
    ◆「有田・唐津の作家展」を開催予定(9月予定)



    This article is a sponsored article by
    ''.