• 日本には心惹かれる器をつくる作家が大勢います。作家と私たちの暮らしをそっとつないでくれるのが器屋さんです。横浜市神奈川区にある「ヨリフネ」は、料理が主役になる使い勝手のいい器を揃える器屋さん。店主の船寄真利さんに、お薦めの作家をこっそり教えてもらいました。

    誰もが実践できる、器づかいの提案を

    もとはガレージだったという無機質な空間に、海外や日本の古家具、アイアン素材の棚などを巧妙にあわせたインテリアが素敵な「ヨリフネ」。そこには、生活者に寄り添う使い勝手のよさと美を兼ね備えた器が並びます。店主の船寄真利さんは、以前は関西の百貨店で、バイヤーや販売員として勤務していたという経歴の持ち主です。

    画像: 最寄りは、東急東横線「反町」駅。風情ある小さな商店街を抜け、少し歩いた先にあります

    最寄りは、東急東横線「反町」駅。風情ある小さな商店街を抜け、少し歩いた先にあります

    画像: 手前から、稲吉善光さん、mushimegane booksさん、森谷和輝さんの作品

    手前から、稲吉善光さん、mushimegane booksさん、森谷和輝さんの作品

    画像: 快活な関西弁で話し、気さくなお人柄がお客さんにも親しまれている船寄さん

    快活な関西弁で話し、気さくなお人柄がお客さんにも親しまれている船寄さん

    関西から夫と横浜に引っ越してきた船寄さんは、夫の提案で器と雑貨、古本を扱うお店「APT#207」を、自宅の一階でスタート。「お店に憧れはありましたが、積極的にやりたかったというより、夫の自己実現に巻き込まれた感じです」と笑って話します。それでも、人を呼ぶためにイベントを企画するなど懸命に取り組むうちに、お店にのめり込んでいき、やがて独り立ちすることに。器をメインにした「ヨリフネ」を、2017年にスタートします。

    そんな船寄さんが器を好きになったのは、百貨店勤務時代から。

    「私、大の食いしん坊で。休みの日になると自転車でお店巡りをして、パンや総菜、ワインなんかを買いこみ、その日最初の食事にありつけるのがやっと夕方、そんな一日を過ごしていました。料理も好きで、お店のメニューの再現にもハマっていましたね。そうやって買い集めた食材や、手をかけた料理を盛るからには、お皿にもこだわりたいとなったんです」

    画像: 中央の黒のデザートボウルは大園篤志さん、右の花器は船串篤司さんのもの

    中央の黒のデザートボウルは大園篤志さん、右の花器は船串篤司さんのもの

    画像: 棚に並ぶのは、佐野元春さん、西山芳浩さん、大谷哲也さん、小林耶摩人さんらの作品

    棚に並ぶのは、佐野元春さん、西山芳浩さん、大谷哲也さん、小林耶摩人さんらの作品

    画像: 壁にかかるお皿は、ブローチ作家、小菅幸子さんによるもの

    壁にかかるお皿は、ブローチ作家、小菅幸子さんによるもの

    そうして自然と磨かれた、料理と器合わせのセンスには定評があり、雑誌やwebサイトで、器の指南についての取材を受けることの多い船寄さん。店のインスタグラムにも、作家の器に料理やお菓子を盛った写真が掲載されていて、器使いの妙味を楽しむことができます。「小さなお子さんがいらっしゃるのに大変ではありませんか?」とたずねると、そこにはこんな想いがあるのだとか。

    「百貨店で服の販売をしていたときに、もどかしい想いをよくしたんです。お客さまに着こなしを提案すると、『あなたはプロだからそれができるのよ』と返されることがあって。でも、日常で着こなせないと意味がないと感じていました。そこでいまは、手をかけないシンプルな料理でも、この器にこんな風に盛るとちょっと洒落て見える、そんな提案ができればと思っているんです」

    同じ方向を向き、ともに歩ける作家の器を

    そんな船寄さんに、いち押しの作家さんのアイテムをご紹介いただきました。

    まずは、京都伏見で制作する、小林裕之・希(こばやし ひろし・のぞみ)さんの器です。

    画像: アンティークのような佇まいが魅了。右は「丸六角ボウル」、左は「六角ボウルS」

    アンティークのような佇まいが魅了。右は「丸六角ボウル」、左は「六角ボウルS」

    「小林裕之さんと希さんはご夫婦で、以前はそれぞれ別で制作をされていました。おふたりとも、道具というより“作品”的なものを手がけていらしたのですが、制作に行き詰まりを感じていたそうで。その折、骨董屋で見つけたアンティークのガラスの瓶、それはプロダクトとして工場でつくられたものの、規格外ではじかれてしまったようなものらしいのですが、その瓶にすごく惹かれ、お互い本当につくりたいのはこういうものだと気づいたのだとか。そこで、一緒に制作してみることにしたと話されていました。

    型吹きで制作をされていますが、型吹きとは鉄でつくった型に溶かしたガラスを吹きこむ方法。製法上、ガラスの表面に揺らいだような模様ができますが、おふたりの場合は、さらに作品のテイストに合わせて、“揺らぎ”を強くしたり弱くしたりと、器の景色をつくり出していて。型をわずかに温めることでそういった微調整ができるそうですが、そんな繊細なお仕事にも感銘を受けます。

    また、型吹きでは、四角形や多角形の器を大抵は皆さんつくられるのですが、おふたりは部分的に丸みをつけたりもされています。鉄板を叩いて型自体に丸みを持たせてからガラスを吹くのですが、柔らかなフォルムが素敵ですね。

    画像: 底に向かって、曲線を描くような形に

    底に向かって、曲線を描くような形に

    画像: こちらの「丸ボウル」は、鉄板をさらに叩いてほとんど丸の状態になった型に、ガラスを吹いたもの

    こちらの「丸ボウル」は、鉄板をさらに叩いてほとんど丸の状態になった型に、ガラスを吹いたもの

    おふたりの作品は薄手ですが丈夫で、使い勝手もよく考えられています。そんなところもいいですね」

    お次は、長野県伊那市で作陶する、宮田春花(みやた・はるか)さんの器です。

    画像: 宮田さんの作品は、土味を生かした野趣あふれる表情ながら、どこか女性らしさも併せ持ちます。こちらは「五寸鉢」

    宮田さんの作品は、土味を生かした野趣あふれる表情ながら、どこか女性らしさも併せ持ちます。こちらは「五寸鉢」

    「4年前の『灯しびとの集い』で会場をぐるぐる周っていたんですが、通る度に目に止まり惹きつけられたのが宮田さんの作品でした。まだお若いのですが、すごく渋味のある作品を手がけていて。ご自身で採った土を使うことも多く、土の具合により表情がまったく異なり、楽しいですね。陶芸は最初にデンマークで、それから京都で学んだそうです。

    画像: 伸び伸びとした形に愛着が増す「猪口」。小鉢として使っても

    伸び伸びとした形に愛着が増す「猪口」。小鉢として使っても

    宮田さんの器はプリミティブな印象で、あまり手をかけず、素材の味を引き出したような料理をこそ、引き立ててくれるんじゃないかと思います。私も年齢を重ねてそういう料理の贅沢さに気づいたのですが、宮田さんの器は、そんないまの私の価値観にとてもしっくりきて。

    手仕事の器は、つくり手の顔が見えて、つくる工程もある程度想像できる、そんなシンプルで原始的なところがいいなと思うのですが、宮田さんはさらに原始的でいらっしゃるというか。器の表情がそれぞれ違ううえに、同じ五寸鉢でも、飯碗みたいだったり平鉢みたいだったり形はさまざま。猪口も、高台に凹凸があったり。そんなおおらかさも魅力ですね」

    最後は、兵庫県高砂市で作陶する、mushimegane books(ムシメガネ・ブックス)さんの器です。

    画像: 「フラットプレート」は、ニュアンスある色合いと、少しぽてっとした形が絶妙。盛り付けたものがよく映えます

    「フラットプレート」は、ニュアンスある色合いと、少しぽてっとした形が絶妙。盛り付けたものがよく映えます

    「mushimegane booksさんというのは、熊淵未紗さんという女性です。陶芸はほとんど独学だそうですが、その分、何かに囚われることなく自由に創作され、独自のものを生み出しているように感じます。その独自性を表すもののひとつが、毎年新シリーズが出る『poku(ポク)』という丸い石のような作品です。『ただ並べて飾っておいたり、精油をたらしてアロマストーンのように使ったり、お守りみたいにしたり、何に使ってもいいです』と話されて。そういう発想は、mushimegane booksさんならではじゃないかと思います。

    画像: コロンとしたフォルムが愛らしい「マグカップ」。持ち手の形状もユニーク

    コロンとしたフォルムが愛らしい「マグカップ」。持ち手の形状もユニーク

    『フラットプレート』は春らしいカラーで、フォルムや細やかな表情に彼女らしさが出ています。『マグカップ』も、持ち手の形が独特ですよね。実はこれまでは持ち手をつけるのが難しいからと、すごく小さな持ち手がついていたのですが、試行錯誤されて、これならつけられるということで、この形になったそうです。でもこの持ち手、真似したくても誰も真似できないのではと。独自の世界観を持っていて、そこが素敵でかっこいいですね。それゆえに、料理人の方に人気があったり、彼女の器を目当てにヨーロッパから訪れた外国人の方もいるほどです」

    船寄さんは、作家さんを選ぶとき、どんなことを大切にされているのでしょうか。

    「まずは使いやすいものです。『使いやすい』というのは、丈夫で簡単に欠けたりしないというのもありますが、お料理を盛ったときに映えるかですね。たとえば、同じような白いお皿でも、お野菜の色をはじいてしまったりと、いろいろあって。それはもちろん私の主観ですが、私が考える理想のライフスタイルに合った作風の方を選ばせていただいています。

    また、つくり手さんが精魂込めてつくったものだからこそ、いい販売の仕方でお客さまにお渡したいと考えています。ですので、“いい販売”に対する考え方が、お互い違うと難しいなと感じていて。価値観が似ていて、同じ方向を向いて一緒に歩めるつくり手さんと出会えたらと思っています。さらに、この人がつくるものならお客さまに自信をもって渡せる、そんな風に信頼できるかというのも大切にしています」

    画像: この日は、店の一角にmushimegane booksさんのコーナーがありました

    この日は、店の一角にmushimegane booksさんのコーナーがありました

    お店のHPには、船寄さんが自身で作家に行ったロングインタビューの記事がありますが、どれもとても読みごたえのある内容。「読んでくださる方はそれほど多くないかもしれませんが、作家や作品のことをお客さまに伝えるのに、まずは自分が深く知る必要があると思って」といいます。作家の器をいかにいい形で届けるか、毎日の生活で気軽に使ってもらうか、作家のことをより知ってもらうには――。そのために手を尽くし心を尽くす店主が選ぶ魅力あふれる器を、ぜひ手にとってみてください。

    ※紹介した商品は、お店に在庫がなくなっている場合もございますので、ご了承ください。

    画像: 同じ方向を向き、ともに歩ける作家の器を

    <撮影/星 亘 取材・文/諸根文奈>

    ヨリフネ
    045-321-5715
    12:00~17:00(常設)/18:00(展示)
    不定休 ※育児中のため、営業は展示会期間中と月に数日の常設のみ。営業日はSNSにてお知らせしています
    神奈川県横浜市神奈川区松本町3-22-2 ザ・ナカヤ101
    最寄り駅:東急東横線「反町駅」より徒歩5分ほど
    https://www.yorifune-magazine.com/
    https://www.instagram.com/yorifune___/
    ◆オカベマキコさん(ガラス)と雨氣さん(アクセサリー)の二人展を開催予定(6月10日~6月18日)
    ◆wica grocery(麦わら帽子)× détente(洋服) 販売会を開催予定(6月30日~7月9日)



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