<扶桑社ムック『小屋を建てる』より>
良質なパウダースノーで世界的に注目を集める、ウインタースポーツのメッカ、長野県の白馬村。この地に、小穴真弓さんは、「スキーを思い切り楽しみたい」という願いを抱き、週末の活動拠点となる「テント以上・別荘未満」の小屋をDIYで建て「HAT HUT」と名付けました。

HAT HUTの内部。つくり付けのデスクのそばには、椅子「イームズDCM」と、ラグを置いた。広くはないが天井が高いので圧迫感はない
小穴さんは、同じ長野県の安曇野市で、寺田和彦さんと共同でMIGRANTという建築設計事務所を主宰しています。これまでにも依頼を受けて小屋を設計したことはありましたが、自分のために、しかもDIYで建てたのは初めてのことでした。

左/子どものとき以来、またピアノを習い始めたという小穴さん。「この小屋で気兼ねなく、自分の好きな曲を思う存分弾けるのが楽しい」という。右/室内はコンパクトなので台は置かず、簡単な作業は床でしてしまうことも
DIYのきっかけは、松本市からクルマで1時間強の距離にある白馬村で、設計依頼のあったカフェ「MOUNTAIN HUT」の平屋を自分たちの手で建てたこと。基礎は専門業者に依頼したが、建物は自分たちで組んで完成させました。利用したのは、あらかじめ工場で使用する寸法にカットし、必要なホゾなどの加工を行った木材を搬入してもらうプレカットという方法でした。
その後、このカフェから至近距離にある土地を手に入れた小穴さんは、「同じように、6畳ほどの大きさの小屋を自分たちで建てることにしました」。
お気に入りが並ぶ特別な時間を過ごせる小屋

入って正面の窓は大きくとり、冬は雪景色、ほかの季節は緑の移り変わりを楽しめる。窓際に置かれた実用品がディスプレイのよう
完成した小屋の窓のそばやデスクには、小穴さんのお気に入りのものが並びます。動物をモチーフとした日用品、調理器具、照明器具など、色とりどり。
「本当にいいと思えるものを置きたくなりますね。好きなものに囲まれるのが小屋の楽しみのひとつだなと改めて気づきました」と小穴さん。

左/ピアノとデスクの間の袖壁には、友人にオーダーしてつくってもらったドライフラワーを吊るした。右/窓辺には、小穴さんと寺田さんの事務所で製作したオリジナルの照明器具を置いた
室内は一部にロフトを設け、その上に布団を敷いて就寝スペースを設けています。ウッドデッキから室内に入ると、まずロフト下のピアノを置いた空間を通りぬけ、つくり付けのデスクが置かれた天井までひとつながりの書斎スペースへとつながります。
ロフトへ上がる梯子はなく、つくりつけのデスクと、その横の度で壁に設けたステップに足をかけて登ります。どのスペースにも大きな窓が設けられていて、明るい光が射し込みます。自然豊かな景色も楽しむことができて、不思議と窮屈さは感じられません。

左/正面のガラス入り扉の高さは低めで、身をかがめて出入りする。軒の出もあり、両脇はスキー板を立て掛けておくのにちょうどいい。右/出入り口の扉に仕込まれたガラスは、「昭和型板ガラス」と呼ばれるレトロなもの
小屋は、これから本格的に使っていく予定とのこと。冬はスキーのあとに温泉に入り、小屋に戻ると鍋を仕込みながらピアノに興じます。

ロフトの下は天井高が低く、座って過ごすと落ち着く場所。小穴さんはここにアップライトのピアノを置いている
「夏は友人を呼んで、料理や焚き火を楽しみたいですね。隣にももう一軒、小屋をつくりたい」と小穴さんはもう次の小屋づくりを考えています。
「最小限の暮らしを楽しむ小屋ライフを発信していきたい。この『HAT HUT』をほしい人一緒につくることも考えています」という。

布団を敷いて就寝スペースにしたロフト。とんがりの三角屋根に沿った勾配天井で、スギ板張りで囲われる
DIYのしやすさを考えて到達したA字型フレーム

ロフトの三角窓を開ける寺田さん。A字型のフレーム頂部の棟には、既製品の金物を渡して納めている。雨や雪が伝って入っても、ポリカーボネートの波板で浸入を防ぐ
小穴さんがDIYしやすい形状を考えてたどり着いたのは、「A」字型のフレームを並べて空間をつくるかたちでした。
工場であらかじめ木材をカットしてもらい、現地の地面でA字型に組んでフレームとしてから、束石に渡した土台の上に立て起こす。そして、フレームの垂直を確認しながら、金物も併用して土台に固定していきました。

左/HAT HUTの平面図。右/HAT HUTの屋根兼壁の構造(図面/長岡伸行)
この方法の優れているところは、周りに特別な足場を組むことなく、数人の友人に手伝ってもらうことで小屋を立ち上げることがでるというところ。立ち上げたこのフレームに、屋根であり壁ともなる構造用合板を打ち付けることで、フレーム同士が一体化し強固な構造となりました。
合板の上にはアスファルトフェルトを敷き、その上にポリカーボネートの小波板を張りました。ここまででいったん防水の機能を確保して、さらにスギの野地板を細かくカットしながら縦に張って仕上げ、外観に表情をつけています。

屋根兼壁の防水を担うアスファルトフェルトは、下地の合板に巻き込んで留めた。きっちりとしすぎないのがポイントなのだとか
室内側は、板状の断熱材を入れたあとにスギの胴縁材を張って仕上げとしてします。
Aの字の正面と背面は、できるだけ窓を大きくとることに。
「外の自然を切り取った窓から、景色を眺めながら過ごしたい」という願いは、屋根に沿った間口いっぱいの三角形と台形の窓で実現しました。上部の三角形の窓は、換気や通風に役立っています。
小穴さんの小屋を見ると、小さく、三角形という決して空間的には効率的とはいえない形ながら、大きさを超えた居心地のよさと、そこで過ごす時間の楽しさという、小屋が持つ魅力が伝わってきます。
小屋をすべてDIYするのは難しいという方も、あらかじめ部材が切り揃えられているキットなら、70万円台から販売されています。
二拠点居住には、住居をもうひとつ持つコストが大きなハードルになります。でも、週末を過ごす住居の選択肢に小屋をDIYすることを加えると、ハードルを大きく下げることができるのです。
HAT HUTデータ
延床面積=約8.9m²
施工=DIY
製作日数=17日+4日(デッキ)
竣工=2022 年
基礎=コンクリート沓石
外部仕上げ[屋根・壁=野地板下見張り/建具=木製・シングルガラス窓]
内部仕上げ[天井・壁=胴縁材、一部珪藻土塗り/床=スギ破風板]
<撮影/高橋郁子 取材・文/加藤 純>
庭先に、自宅から離れた自然のなかに、菜園に小屋を建てる……。この本では、そんな楽しみを手に入れた方たちの小屋のある暮らしを紹介します。小屋の建て方、気になる太陽光発電、法規と税金のこと、DIYするのに知っておきたい建物の構造のことなども詳しく解説した、小屋の最新事情が分かる本です。