一般の人から料理人まで、器選びのお手伝いを
「『男性がやってるお店かと思いました』って、よくお客さんにいわれるんです」と笑って話すのは、「玄道具店」の店主、玄 美和さん。それもそのはず、コンクリートむき出しの壁と天井に覆われ、薄暗い照明のもと、選び抜かれた古家具が並ぶ店内には、色濃いこだわりを感じます。また、アーティスティックな印象の器や、「玄道具店」というちょっと硬派な店名も、そのイメージをさらに後押し。
お店があるのは築50年の古いマンションで、10年ほど誰も住んでいなかった部屋を、ほとんど手を入れずに店舗にしました。「内見したときは、古くて汚いお化け屋敷みたいな状態でしたが、もともと骨董など古いものが好きだったので、その朽ち果てた姿に引き寄せられて」と玄さん。
昔は雑貨店などで働いていたといい、その頃から大の料理好きで器好き。友人や知人を招いては食事会を開き、陶器市や骨董市で手に入れた器に料理を盛って出すのが楽しみだったそう。
「そうやって食事会で家に呼んだ人のなかに、Web制作をされている方がいたんです。その方に器作家さんの話をしたら、『ウェブショップをやってみたら?』とすすめられて。あまり考えることなく、ウェブショップを始めていました。流れるままにという感じかもしれません」と話します。
ウェブショップが軌道にのり、作家たちから『実店舗は持たないの?』と聞かれることが増えると、店を構えることを決心。物件探しは難航したものの、“お化け屋敷のような一室”と出合えたことで一転しました。そして、そんな物件には、うれしいおまけが。偶然にも近くに、飲食店も仕入れをするような市場があり、オープンしてほどなく、市場への買い出しついでに、料理人さんがふらりと立ち寄ってくれたのだとか。
「それから、その方が別の料理人さんに、またその方が別の料理人さんにと、うちを紹介してくださり、輪が広がっていきました。お話を伺っていると、料理人さんが使いたいと思う器がわかるようになり、ご提案すると喜んでいただけるのがうれしくて。なので、私の趣味嗜好を打ち出したラインアップとは別に、飲食店向けの器にも力を入れています」
来年には、それをさらに充実させるために、ベテラン作家たちの初展示会を開催予定だそうで、そちらも楽しみです。
可能性を秘めた作家の器を
そんな玄さんに、いち押しの作家さんのアイテムをご紹介いただきました。
まずは、神奈川県相模原市で作陶する、オノエコウタさんの器です。
「オノエさんには毎年展示をしていただき、今年で5回目になります。作風が毎回ガラリと変わるので、どう変化するかいつも楽しみですね。今回ご紹介する器は、昨年から取り組まれている“押し型”という方法でつくられたもの。“押し型”では、石膏の型を何パーツかつくってひとつにまとめ、そこに少しずつ粘土を貼り付けて成形し、型を外して作品を取り出すのだとか。粘土を貼り付けて重なった部分が、マーブル模様のように見えています。
また、一度焼いた陶器やガラスを砕いたものを粘土に混ぜていらっしゃって。それで焼成すると、表面には陶器の粒々が現れ、さらにガラスが表面の小さな穴から溶け出して固まりガラス質に。そんな繊細な表情も素敵ですね。また、型から外した際にできるバリや粘土の隙間は、あえて整えすぎず、作品のテーマである“未完”の状態にし、使う人がそれぞれ完成形を想像できる余地を残しているそうです。そうすることで、器の奥行が増すんじゃないかと考えているとも仰っていました。
オノエさんは美大出身ですが、陶芸は独学で、以前はオブジェをおもに制作されていました。オノエさんの器は、シルエットが独創的でとてもきれい。たとえば、土器を思わせるプリミティブな作品でも、その印象をすっかり変えるほどの美しさがあります」
お次は、奈良県奈良市で作陶する、みやかわのぶひろさんの器です。
「みやかわさんは、仏像や寺院がお好きということで奈良に移り住まれたそうです。作品を多くはつくらず、納品も2年に一度と少ないのですが、いつも少数精鋭といった感じです。
みやかわさんの作品は、釉薬が特徴的。この『ボウル』もそうですが、釉薬を施すのに、釉薬にくぐらせたり、柄杓でかけるのではなく、スポンジや布などを使って、点々と釉薬をのせていきます。しかも、何色かの釉薬を順番につけていき、最終的にグレーにしていて。だからこそ、色の濃淡に深みがあり、奥行のある表情をしているのだと思います。
また、表面がわずかに凹凸したニュアンスあるものになっていますよね。そんな凹凸を忘れさせるほど、全体のフォルムが規則正しく整っていて、うっとりするほど美しいです。
みやかわさんは、多治見の陶芸作家さんのもとで下積みをされたり、学校に通われて陶芸を学ばれましたが、その前はアパレル業界で何年か働いていたそうで。どの作品からも圧倒的なセンスのよさが滲み出ていますが、それはアパレル時代に培われたものなんじゃないかと思います」
最後は、山形県村山市で作陶する、矢萩誉大(やはぎ・たかひろ)さんの器です。
「うちでは、比較的最近お付き合いを始めた作家さんのひとりです。ネットで作品を拝見して強く惹かれ、連絡先を必死に調べて、すぐさま会いにいきました。銀彩も少し焼いていますが、おもにこういった白磁を手掛けていらっしゃいます。真っ白な磁器土に、黒の顔料で黒化粧を施した白磁は、山形の工房から見える雪景色をイメージしていると話されていました。
白磁というと透明釉がかかったツルツルした器を思い浮かべると思いますが、矢萩さんの白磁には、釉薬がかかっていません。正確にいうと、釉薬を筆でさっと部分的にかけて、そこだけガラス質にしていますが、それは装飾程度のもの。釉薬をかけない白磁は珍しく、ほかにされている方はあまりいらっしゃらないと思います。
薄いつくりで緊張感はありますが、磁器土でつくられているので、実際はとても丈夫。レストランでも使われているぐらいですので、安心して使っていただけます」
玄さんは、作家さんを選ぶとき、どんなことを大切にされているのでしょうか。
「作品に惹かれると、すぐさま作家さんに連絡をとったり、会いにいったり、衝動的に行動しちゃいますね。作品が好きであることが前提ですが、いまは意識的に、売れっ子ではなく、芽が出始めたばかりの方を選ぶようにしています。そういうつくり手を見つけるのが私にとっての醍醐味であり、心の底から好きなことなので。
作品で一番目がいくポイントは、造形の美しさです。今回ご紹介した作家3名の方にも通じるのですが、全体のバランスが素晴らしいからこそ、“表面が凸凹で不規則でも、すごく美しい”“朽ち果てたフォルムなのに完成されている”というような、確固たる造形美が生まれるのかなと思いますし、そういった作品に強く惹きつけられます」
「飾るだけでも絵になる、“使える美術品”のような器」、そんな風に器を表現されていた玄さん。料理を盛れば映える、置いておけばオブジェのように様になる、使っても飾っても、心を浮き立たせてくれる器を揃える「玄道具店」。ぜひ見て、触って、新しい作家との出会いを楽しんでみてください。
※紹介した商品は、お店に在庫がなくなっている場合もございますので、ご了承ください。
<撮影/玄 美和 取材・文/諸根文奈>
玄道具店
06-7171-1196
11:00〜18:00
火・水・水・木休 ※臨時休業はSNSにてお知らせしています
大阪市北区池田町17-8 マンション和幸1・1
最寄り駅:Osaka Metro・阪急電鉄「天神橋筋六丁目駅」から徒歩約4分、JR「天満駅」から徒歩約4分
https://gendouguten.com/
https://www.instagram.com/gendouguten_shop/
◆オノエコウタさんの個展を開催予定(7月8日~7月15日)
◆フルカワゲンゴさんの個展を開催予定(8月予定)
◆矢萩誉大さんと徒爾(木工)さんの二人展を開催予定(11月予定)