しょうぶ学園のものづくり
1973年、「しょうぶ学園」は知的障害者支援施設としてはじまりました。鹿児島の中心地から車で20分ほど、レストランやショップ、ギャラリーがある、開かれた場です。地域の人から遠方からの旅行者まで、広く親しまれています。ものづくりの工房は、4つ。布の工房、木の工房、土の工房、和紙・絵画造形の工房があります。工房の見学は、申し込み制。
建物のデザインもとてもユニークで、ぐるりと巡るのが楽しい。中庭にはロバやヤギがいます。案内してくださったのは、副統括施設長の福森順子さん。創業者である両親から施設を引き継いだ、夫である統括施設長、福森伸さんとともに、ここだけのものづくりをスタートさせました。
「もともと、ものづくりはしていましたが、いまのような工房ではなく、下請けの仕事をしていたんです。大島紬の織りや生垣づくりとか、地元産業などの下請けですね。でも、それだけでは、状況をより良くするのはむずかしい。
だったら、自分たちで一からものづくりをすればいいんじゃないか。かわいそうだから買う、というのではなくて、ここのだから買う。買いたいと思ってもらえる、いいものをつくりたい。
そう決心して、1985年アート&クラフトに舵を切りました。工房では、職員と施設利用者のコラボレーションで、ここだけの、ものづくりをしています。はじめは木工室だけ、利用者2名からの船出でした」
順子さんに案内していただいて、工房をひとつひとつ巡りました。
工房① 刺しゅうの作品が印象的な、布の工房
布の工房では、刺しゅうと、裂織を中心にオリジナルの作品をつくっています。おじゃましたのは午後、木のテーブルでみなさん、もくもくと作業中。長い人では10年、20年とつづけているそうです。
「nui project」として、才能を発掘し、独特の世界を作り出しているのが、刺しゅう。ひとりひとりが、自分のスタイルで手を動かしています。「大きな布に太い糸で刺しゅうする人、形を描いてそこを埋めていく人、布の好みもいろいろです」と、布の工房を担当する、職員さん。
「はじめは少しやり方を手ほどきしますが、好きなやり方が見えたら、その人に合うやり方でつづけてもらいます。
カラフルな糸や生地を用意してあるので、それぞれやるところがなくなったら、次に使うものを選びます。生地の裏表も関係なし。次は「これ」、これは「いや」って。好みは、ちょっとずつ変わっていきますね。
1日に5枚やる人もあれば、1枚に何カ月もかかる人もいて、ペースもそれぞれ。出来上がったものは、バッグやポーチなどといったクラフト作品にすることもあれば、「これはもうこの人にしかつくれない」というものは、作品として展覧会などに出品します」
いろんな色の糸でみっしりと刺しゅうされた、nui projectのシャツは、「シャツに刺しゅうしてみない?」と声をかけ、やってみたい気持ちになった人と、コラボで出来上がった作品。しょうぶ学園の展覧会などで、機会あればぜひ間近で見てほしい、エネルギーにあふれています。
工房② お皿やオブジェが生まれる、土の工房
土の工房は1990年にはじまりました。
小さなボタン、コップやお皿といった食器から、オブジェまで、さまざまな陶芸品をつくっています。
「きちっとできる人は、型を使ったり、絵付けをしたり。きちっとつくれない人は、自由にやってもらって、オブジェなど、アート作品にします。つくり方はそれそれですが、生み出すものは総じて、プリミティブなものになりますね」
白い絵皿は、京都のエースホテルで、ソープディッシュとして採用されて、おみやげとしても人気です。ふっと肩の力が抜ける、カッコつけない、たたずまい。ほしくなる気持ちがよくわかります。
工房③ 手すきの和紙と、絵画造形の工房
和紙づくりは1993年からはじまりました。楮(こうぞ)や雁皮(がんぴ)などを原料にして紙を漉き、その紙を使って、便箋やハガキといったステーショナリ、タペストリーなど、さまざまなものをつくり出しています。
和紙職人さながら、紙漉きは段取りよく、手慣れた手つきで。出来上がった和紙は、一枚一枚に味わいがあります。
和紙工房の隣にあるのが、絵画造形工房。ここは、床から壁、天井まで、ぐるりと自由にペイントされていて、つくり手のパワーが伝わってきます。ここで漉いた和紙はもとより、それぞれが自分に合う素材で、絵を描いたり、立体作品をつくったり。手描きのTシャツやバッグといったクラフト作品にも生かされます。
工房④ カトラリーや家具、漆まで手がける、木の工房
1988年に設立した木の工房では、専門スタッフのサポートによって、家具からカトラリー、ボタン、ブローチなどを手づくりしています。
「ボタンやブローチづくりに便利なのが、回転やすり機。木の箱に木端を入れて、くるくる回すと、中のペーパーサンドで磨かれる仕組み。トライアルで、簡単な作業からやってみて、その人に合っていれば、ステップアップして、できることを広げていきます」
2006年、居住棟を建て直した時には、建築業者の下請けとして、利用者のベッドを木の工房でつくったそうです。さらに、文化を受け継ぎたい思いから、ここで漆器づくりも。
いいものをつくりたい。すべての工房に、その思いが根ざしています。
後編では、しょうぶ学園にあるショップと、2019年に誕生したアムアの森について、お届けします。
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しょうぶ学園
ショップ&ギャラリーの営業日については、HPにて。しょうぶ学園、アムアの森の見学については、申し込みが必要です。ご希望の方は、お問い合わせください。
鹿児島県鹿児島市吉野町5066 ☎︎099-243-6639
〈取材・文/宮下亜紀 撮影/白木世志一〉