DIYと人との繋がりから生まれた、温かな空間
鹿児島市の中心駅「鹿児島中央駅」から徒歩10分ほど、大通りから1本入った落ち着いた場所に、ギャラリーショップ「アトリエ ユニ」はあります。モノトーンを基調に、装飾を抑えたミニマルな店内には、選び抜かれた器やアクセサリー、日用品がゆったりと並びます。
そんなお店を切り盛りするのは、昔からものづくりが好きだったと話す小辻育代さん。仕事を持つ傍ら、ワイヤーアートや雑貨を制作し、イベントで販売したり、お店に卸したりする日々を送っていたのだとか。
その後、実家の2階をアトリエに改装し、自身が制作した作品や仕入れた雑貨を販売するように。半年後には、ひとつの建物に生活雑貨のアトリエや小さな店舗が集まった“集合ショップ”へと場所を移します。そこで取り扱いを始めたのが、ガラス作家、津村里佳さんの作品でした。
「細々とですが物づくりをしていたので、参考がてらネットで手づくりの作品などを見ていたときに、津村さんのガラスドームや保存瓶が目に止まり、強く惹きつけられました。まずは個人的に買い求め、集合ショップの開業を機に、お店に作品を置かせていただくようになったんです」
それをきっかけに、作家へと、さらに器へと関心が広がっていったと話す小辻さん。「器をつくる過程や作品に触れるうち、器の奥深さに魅了されるようになって」と当時を振り返ります。
“集合ショップ”での運営がもともと期間限定だったため、期間が満了すると、お店を持つことを決めます。出合った物件は、なにもないがらんとした空間でしたが、改装を重ねて現在の形になりました。壁に漆喰を塗ったり、板でついたてや壁をつくったり、建物の解体現場からもらい受けた古い建具をはめ込んだりと、自身で手を加えた部分も多いそう。
ほかにも、知り合いに壁付けの棚を造作してもらったり、古家具を譲ってもらったりも。また、お店で、不定期で販売される人気の焼き菓子類は、昔からの知り合いや、お客さんとしてお店に来ていた方たちが手掛けているものなのだとか。自分の手を精一杯動かし、周りとの繋がりを大切につくりあげたお店は、人肌の温もりに満ちています。
なにか心に訴える特別感ある器を
そんな小辻さんに、いち押しの作家さんのアイテムをご紹介いただきました。
まずは、千葉県八千代市で制作する、津村里佳(つむら・りか)さんの器です。
「津村さんは、吹きガラスの技法で制作されており、ガラスドームや『ハナドキ』という花器をメインでつくられていて、どちらもとても人気が高いです。この『コザラ』は、店の10周年に行った企画展のテーマ“枯淡”に合わせて、新作としてお出しくださった器です。サイズ感がよく、お浸しなどの副菜のほか、ヨーグルトやデザート入れにもぴったりですね。
津村さんは、すりガラス加工の花器も制作されているのですが、加工を施す手前の状態が、まさにこういった色合いで、”古びた雰囲気が素敵”と常々思われていたのだとか。それで、それを作品にすることを思いつかれたそうなんです。少し曇った、古いガラスのようなニュアンスが素敵ですね。
作品を多彩に生むというより、数少ない定番を大切に長くつくり続けていらっしゃる津村さん。ご自身が、気に入っていたものが定番じゃなくなり、同じものが買い足せないと、がっかりした経験があるからだそうで、そういう姿勢にも魅力を感じます」
お次は、長崎県波佐見町で作陶する、都築 明(つづき・あきら)さんの器です。
「知り合いのお店が都築さんの作品の取り扱いをしていて、そこで作品と出合いました。銀彩も少しされていますが、こちらの深い青緑色の器をメインに制作されています。青緑といっても落ち着いた色味。光の加減で鮮やかさが増したり、黒っぽく見えたりと、色味がかなり変化します。
都築さんは、“料理を盛りつけて完成する器”を目指していらっしゃり、実際にどんな料理もすごく映えます。レストランなどから注文をいただくことも多いですね。ほかの器とも合わせやすいですし、適度な重さで、使い勝手もいいです。
春の展示会では、こちらの青緑の作品をたくさんお出しいただいたのですが、一色にも関わらず、色味や釉薬の表情がそれぞれ違い、その様子がとても素敵で、面白味を感じました。形も整っていて、重ねたときにぴったりと重なります。ご本人はとても真面目な方という印象で、そんな人となりが出ているようにも感じますね」
最後は、岐阜県多治見市で作陶する、三浦ナオコ(みうら・なおこ)さんの器です。
「三浦さんは、初めのうちは、白磁の器を中心に制作されていましたが、ここ数年は、今回ご紹介する土物をはじめ、白黒の掛け分けや染付などにも取り組まれています。古い焼き物がお好きで、作品づくりに反映されているので、どの器も古いものが持つような趣を感じられます。
『リム皿』と『八寸リム鉢』には、水色がかった釉薬がかけられ、柔らかな印象。シンプルなフォルムにも惹かれます。三浦さんは輪花や木瓜形など、形が特徴的な器も多くつくるのですが、私はシンプルなものを選びがちで。でも、それに気づいた三浦さんが喜んでくださっていたので、ご本人もシンプルなものこそ大切にされているのではないかと思います。
三浦さんの器は白のものが多いですが、白だけど白じゃない、奥深い白。私にとってはそこが一番の魅力です」
小辻さんは、作家さんを選ぶとき、どんなことを大切にされているのでしょうか。
「“全体的にシンプルなもの”というのは基本にありますが、感覚的に選んでいると思います。ただ、感覚的とはいっても、シンプルななかにも、表情とか質感だったりに、心に引っかかるような、特別なものを感じるかどうかを大切にしています。
使いやすさや、料理を載せたときの見え方などは、器選びにとって重要な要素だとは思うのですが、あまりそこにはこだわっていなくて。それより、器単体に魅力を感じるものが、私にとっては理想かなと」
「作家の器はけして安価ではありませんが、制作の背景や作家の世界観、手の跡やひとつひとつ違う表情など、量産品にはない付加価値のようなものがあります。それを、愛でたり使うことで、日々の小さな幸せの積み重ねにもなるのではと思います」とも話してくれた小辻さん。
そんな店主が選ぶ器は、毎日の食卓に情感をもたらす、見て楽しめる器たち。ぜひ傍らにおいてみてください。
※紹介した商品は、お店に在庫がなくなっている場合もございますので、ご了承ください。
<撮影/小辻育代 取材・文/諸根文奈>
アトリエ ユニ
099-206-0370
11:00~18:00
火~金休 ※展示会期中は無休
鹿児島県鹿児島市上之園町19-12 1F
最寄り駅:「鹿児島中央駅」より徒歩10分ほど
https://www.unie.biz/
https://www.instagram.com/atelierunie_ik/
◆ro-ji + Atelier saku Jewelry Exhibitionを開催予定(11月11日~11月20日)
◆眞砂眞砂子さんの個展を開催予定(12月9日~12月18日)
◆藤本羊子さんの個展を開催予定(2024年1月予定)