(別冊天然生活『暮らしのまんなか』vol.38掲載)
得たものを次世代に残せる暮らし方を
長野県の森の中、細長い道を進んでいくと、三角屋根のシンプルな家が見えてきます。宇南山さんが、長年住み慣れた東京の下町を離れ、この土地を入手したのは4年前のことでした。
理想としたのは、エネルギーの負担が少ない暮らし。
「東京で、シングルマザーとしてひとりで子育てをしながら、がむしゃらに働いていたんですけど、自分のエネルギーをむだ遣いしている気がしてならなかったんです。子どもに残してあげられるものを考えたら、もう少し違う生き方があるんじゃないかなあと、ずっと思っていました」
と語ってくれました。
エネルギーが循環する工夫
10年ほど前に息子さんと北海道・知床のある家を訪ねたときのこと。
「家のまんなかに焼却炉を兼ねた大きなコンロがあって、前日のごみなどを焼却する熱で食事をつくるんです。その熱は床をめぐる銅管を通って、部屋を温めながらお風呂の湯船の上にある給湯タンクにためられます。もう、衝撃を受けましたね」
そこで、新居を建てるにあたってもエネルギーのことを徹底的に考えたそう。
太陽光発電のパネルを取り付けたり、生活排水はバイオジオフィルターという植物などの力できれいにして池にため、それを畑に使ったり。
さらに、室内はラジエータの中に水を循環させる「PS」というシステムで、温度管理をしているそう。
毎日の営みが自然の一部だと感じられる
居住スペースは、庭に面したワンルームのみ。夜はカーテンで部屋の一部を仕切り、布団を敷いて寝るので、「食べる」「寝る」「くつろぐ」がひと部屋で完結します。
仕事をするのは、住居と店舗のまんなかにある渡り廊下のようなオープンスペースです。ソファに座って、風や光がめぐるなかでパソコンを広げます。
時にはパートナーの松岡智之さんとふたりでお茶を飲むことも。
「気持ちがいいから、ついついここに集まっちゃうんですよね」
〈撮影/山川修一 構成・文/一田憲子〉
宇南山加子(うなやま・ますこ)
照明メーカー勤務を経て、挿花家・谷匡子氏のアシスタントに。日用雑貨のプロダクトデザイン、店舗などの企画、ディレクションをするデザイン会社「SyuRo」を立ち上げる。2008 年から台東区に店舗を構える。2023 年に長野県に移住。長野店としてインテリアギャラリー「SAMNICON」をオープン。https://syuro.co.jp/
※ 記事中の情報は取材時のものです
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一田憲子さんが編集を手がける『暮らしのまんなか』vol.38。暮らしの実例12軒でお見せします。
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