多彩なワークショップで、器を身近に
「片口ってフォルムも愛らしいですし、酒器として使えるだけでなく、お料理を盛っても、草花を生けてもいい。意外といろいろ使えるんです。大の日本酒好きの私にとっては欠かせない器ですね」と話すのは、「かたくち屋 ほとり」の店主、大屋みえさんです。
「かたくち屋 ほとり」が店を構えるのは、名古屋市の堀川のほとり。常設時は「かたくち屋」の名前で、片口をメインにぐい呑みやお皿、マグなどをラインアップ。一方、作家の展示会やイベント期間中は、「ほとり」の名に変え、片口に限らず多彩な器を並べます。
「結婚する際にお世話になった家具屋さんから、『こういうのお好きだと思いますよ』と見せてもらったのが、信楽焼のごはん茶碗でした。とても素朴なお茶碗でしたが、漠然といいなぁと思って。それがきっかけで器に興味を持ち、その不思議な力に魅了されていきました」
新婚生活を奈良で送った大屋さんは、信楽焼の産地、滋賀にときおり出向いては、器を購入。その後、愛知に住まいを移すと、今度は瀬戸市に近かったことから、頻繁に瀬戸を訪れるようになりました。
「滋賀はどちらかというと窯元中心ですが、瀬戸は工房を構える作家さんが多くいる土地で。瀬戸には“やきもの長屋”という、長屋に貸し工房がいくつも集まる場所があるのですが、いつしかその併設のギャラリーや貸し工房に入り浸るようになったんです」
そこで、ギャラリー店主から話を聞いたり、作家と知り合って交流するうちに、自分で店を持とうと思い至った大屋さん。オンラインショップを運営した後、念願叶って名古屋の繁華街に小さな店をオープン、2021年にスペースにゆとりのある現在の場所へと移転しました。
展示会中に行われるワークショップも目玉のひとつで、苔玉やハーブティー、切り絵、中国茶、料理教室など、盛りだくさんな内容に驚きます。大抵、展示をする作家の器を用いた内容にしているのは、「やはり使っていただくと、よさがわかるから」と大屋さん。ぜひ気軽に参加してみてはいかがでしょうか。
暮らしに寄り添い、気品漂う器を
そんな大屋さんに、いち押しの作家さんのアイテムをご紹介いただきました。
まずは、富山県砺波市で制作する、小宮 崇(こみや・たかし)さんの器です。
「小宮さんは、吹きガラスの技法で制作する作家さんで、富山のガラス工房で長くスタッフとして働きながら作品づくりをされていましたが、2023年に独立されました。
この“白のうつわ”シリーズが定番で、内側は艶のあるガラス、外側はサンドブラスト加工により、マットでさらりとした質感です。グレーの色ガラスの上に白の色ガラスを重ねていますが、表の白からグレーがまだらに透けて見えて。そんな揺らぎのある表情が素敵です。
“白のうつわ”シリーズは、料理をのせると素敵な背景になり、料理がよく映えます。お料理教室の先生やシェフなど、プロの方にも人気が高いんですよ。
『ゴブレット bell』は、“白のうつわ”シリーズの端材を再利用してつくられた新作です。小宮さんのゴブレットは、ステムの部分がぽってりしていて可愛らしく、そんなところにも惹かれますね」
お次は、香川県東かがわ市で作陶する、上野剛児(うえの・つよし)さんの器です。
「上野さんは、焼締めを中心に作陶されていますが、最近では表情の豊かな粉引きを手掛けることも増えました。穴窯で焼成されますが、時間をかけて焚いたら、同じ日数をかけて冷ますというように、時間や手間を惜しみません。真摯に『いい器を』と思って制作されています。
穴窯は、焚く時々で仕上がりが異なるのですが、今回の窯は、艶のある質感に仕上がっていますね。
上野さんの作品は、丸みのある親しみやすい形が多いのですが、上野さんご自身も、物腰の柔らかい、心の温かい方。そんな上野さんを反映しているように思います」
最後は、愛知県西尾市で制作する、南 裕基(みなみ・ゆうき)さんの器です。
「南さんとの出会いは、クラフトフェアでした。すごい器を見つけると、『わぁ』ってつい口に出てしまうのですが、そのときもそうで(笑)。南さんの片口は、木工ではあまりない形。この黒漆の『片口』がそれで、口の部分がすっと立ち上がったフォルムに、すごく惹かれました。
さかずきは、お猪口などに比べて、お酒が空気に触れる面が大きく、お酒によっては味わいがまろやかになるんです。でも、酔っぱらうと、テーブルに置くときにひっくり返しがちで。この馬上杯は、騎馬民族が馬上で酒を酌み交わすために考案したものですが、高台部分が長くて置きやすい。お酒好きで、探されている方も多いんです。
南さんの作品は、厚みのあるものが多いのですが、不思議とエレガントさも兼ね備えていて。そんなところに独特のセンスを感じます」
大屋さんは、作家さんを選ぶとき、どんなことを大切にされているのでしょうか。
「私が惹かれるのは、寄り添ってくれるようなやさしさだったり愛嬌があり、なおかつ品がある、そういう作風ですね。というのは、私にとって、器はどちらかというとリラックスするときに使いたいものだから。たとえば、薄いつくりの器も好きでお店でも多く揃えていますが、薄手といっても、緊張感を感じさせない丸みのある形のものを選んでいるように思います。
また、片口はお店にとって重要な器なので、基本的には、片口をつくるのがお好きな方、片口の制作に興味があるという方にお声がけさせていただいています」
お店では、展示会やイベント時に、カフェが登場するそうで、メニューは「プーアルブレンドティ(コーヒーに変わる日も)」「日本酒1合」「日本酒半合」の三つ。それぞれちょっとしたお菓子やおつまみがつきますが、「片口を使ってみてほしいから」と、お茶もお酒も片口で供されるのだとか。
実際に手で触れて使い、作家の器を近しく感じる仕掛けをちりばめた「かたくち屋 ほとり」。気取りのない、日常に寄り添う相棒を探しに、ぜひ訪れてみてください。
※紹介した商品は、お店に在庫がなくなっている場合もございますので、ご了承ください。
<撮影/大屋みえ 取材・文/諸根文奈>
かたくち屋 ほとり
052-204-4520
12:00~18:00
火・土休 ※企画展中は変更 ※臨時休業はSNSにてお知らせしています
愛知県名古屋市中区丸の内1-1-8 児玉ビルB1
最寄り駅:地下鉄「丸の内駅」より徒歩5分ほど
https://www.katakuchi.jp/
https://www.instagram.com/katakuchi/
◆小宮 崇さん(ガラス)の個展を開催予定(2月23日~3月4日)
◆上野剛児さん・田澤祐介さん(木工)の二人展を開催予定(4月13日~4月22日)