(『天然生活』2023年3月号掲載)
幸せに働くための4つのヒント
幸せに働く自分になるために、まずは次の4つのヒントを参考にして、自分の考え方や行動を見直してみましょう。
1 幸せを先送りしない
「幸せ」であるために大切なのは、「現在の自分」に集中すること。人はどうしても「過去はこうだったから」「未来のためにこうしなくては」と、現在の自分よりも、過去や未来の自分に目が向きがちです。
しかし、西村さんは「未来や過去に対して、私たちは無力です。私たちが変えられるのは、いまのこの瞬間だけ。まずは“いま”に自分のエネルギーを最大限注ぐようにしましょう」とアドバイス。
たとえば「将来が不安だから、いまは我慢しよう」という思考パターンは、幸せを未来に先送りしていることにほかなりません。いまが「苦しい」「つらい」「もやもやする」という状況では、幸せを先送りしたつもりでも、その幸せを手にすることは難しくなります。
「もちろん、将来への備えや準備をすることによる安心も必要です。ただ、将来への安心だけを優先してしまうと、それに縛られてしまうことに。いまを楽しみながら、未来のことも明るい気持ちで安心して考えられる。そんな働き方、生き方をしたいですね」
●Key Word●
大事なのは、いま、この瞬間、「うれしい・楽しい・幸せ」と感じられる働き方
2 一緒に冒険をする
「基本的に人というのは、いまいる居心地のよい場所(コンフォートゾーン)の内側にとどまっていたいと考えるもの。しかし勇気を出して、そこからぜひ一歩、外側へと足を踏み出してみてください。居心地のよい場所が、さらに広がっていくのがわかるでしょう。そんな冒険へのチャレンジは人生を豊かにしてくれます」
いまの安全な場所から飛び出して、失敗してしまったら? そんな不安を抱くかもしれませんが、「失敗したときは元のコンフォートゾーンにもどればいいだけ。失敗も楽しめばいいんです」。
たとえば、扶養を外れる収入の仕事にチャレンジしてみたら、収入アップはもちろん、やりがいやスキルも習得して大きな自信を得られた。もしくは、会社のプロジェクトで思い切って発言してみるのもありです。そんな自分なりの冒険をしてみてはどうでしょうか?
「冒険には仲間がいたほうがいい。他人のほうが自分を知っていることもあるし、仲間がいることで自分への気づきも深まります」
●Key Word●
自分の枠組みから一歩飛び出せば、安心できる場も広がる
3 自分の言葉で話す
自分が何気なく口にする言葉が、自分の心の奥にある気持ちや考えを本当に表しているのか。そんなふうに、日頃から自分の心と対峙する癖をつけるだけで、言葉の使い方はずいぶん変わってきます。
「文章表現インストラクターの山田ズーニーさんは、『考えるとは自分の腹の底につるべを降ろし、フィットする言葉を汲み上げること』と語っています。そうやって自分が口にする言葉を大切にすればするほど、“自分にとっての幸せ”がはっきりと見えてくるようになります」
自分の言葉で話せるようになるには、聞く訓練も必要です。
「内容を理解するだけなら、歌の歌詞だけを読むのと同じ。それは音楽ではありません。大切なのは、相手の表情や声のトーンなどをよく感じ取ること。歌詞やリズム、伴奏を含めてトータルで音楽としての歌を楽しむように、相手が発する言葉を全身から発するメッセージとして聞き取るようにしましょう」
●Key Word●
自分と深く対話し、感情にフィットする言葉で話す
4 やり方から考え直す
「目の前の仕事をただこなしているのは、もはや“仕事”ではなく単なる“作業”です」と西村さん。
仕事の意味や仲間の気持ち、そして自分がその仕事を通じてどう変化し、社会にどんな貢献ができているのか。そういうことを考えながら働くことで、初めて人生に幸せをもたらす「仕事」となります。
そうはいっても、忙しいと余裕がなくなり、自分が“感じていること”と“働く意味”がうまくつながらなくなり、作業に没頭するだけになってしまうことも。そんなときは、やり方を考え直すことで、状況を変えてみましょう。
「僕は多くの先達にインタビューしてきましたが、彼らはそれぞれ、自分なりの仕事のやり方を必ずもっていました。自分が納得できる仕事の結果に結びつくやり方を先につくっているんです」
それは達人だけができる、というわけではありません。事務作業でも、自分なりの工夫を取り入れることで、仕事への手ごたえが変わっていきます。そして、それがやりがいや喜びにつながるのです。
●Key Word●
自分なりのやり方を見つけるとやりがいも生まれる
20代から50代、世代別で変わる働くことへの意識
働くことへの意識や考え方は、年代によっても大きく違ってきます。
西村さんによると、20代は「働くことに不安」を感じている人が多くいるそう。変化の激しい社会で幸せな働き方を見つけられるのだろうか。そんな将来への不安を抱えながら働いています。
ある程度キャリアを積んだ30代は仕事に自信がつく一方で、人を管理する責任を担うように。そのため働くことが人間関係の悩みに直結しがちです。
40代になると、もっと自分自身のことを考えるようになり、「本当にやりたい仕事がこれなのだろうか? 」という迷いが出てきます。「人生を豊かにする働き方が、ほかにあるのでは? 」。
そんな自問自答がふっきれるのが50代です。子育てもひと段落し、改めて「やりたいこと(仕事)をやろう! 」と、働くことで得られる可能性に目が向いている人が多くいます。
子育て・介護は「する・される」精神から卒業
長い人生のなかで、働くことと子育てや介護の両立、もしくはどちらかを優先するために一方をあきらめるという悩みにぶつかる時期があります。
子育てがあるから、介護をしなくてはいけないから、やりたい仕事が思い切りできない……。そんなもんもんとした気持ちの奥底にあるのは、「犠牲者精神」だと西村さんは指摘します。
「“なにかをしてやっている”と思うと苦しくなりますが、視点を変えてみたら“する・される”から“お互いが与え合っている”関係に変わっていきます」
人間関係は相対的なものです。たとえば子育てでは、親自身も人として成長するもの。一方的にどちらかが与えるだけという関係は成立しません。
「育児や介護で心に余裕がなくなったら一度立ち止まって、人の手を借りるなどの仕組みを考えるのも方法です。お互いが一緒に成長できていると感じることで、育児や介護と、自分の望む働き方がうまくバランスがとれるようになる気がします」
<監修/西村佳哲 取材・文/工藤千秋 イラスト/山元かえ>
西村佳哲(にしむら・よしあき)
プランニング・ディレクター。働き方研究家。つくる・書く・教えるの3つの領域で働く。2014〜2022年に徳島県神山町に居住し、「まちを将来世代につなぐプロジェクト」第1期にかかわり、一般社団法人神山つなぐ公社の理事に就任。現在は東京在住。著書に『自分をいかして生きる』(ちくま文庫)ほか。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです