(『天然生活』2023年3月号掲載)
いろいろな働き方の選択肢を考える
「働く」ことと「幸せに生きる」ことは、決して切り離して考えられません。そして、幸せな人生を実現するための「さまざまな働き方」を選択できる時代にもなってきました。
在宅ワーク
向いている、向いていないを見極める
コロナ禍で一気に市民権を得たのが在宅ワークです。完全に出社しない、もしくは在宅ワークと出社を組み合わせた働き方が急速に普及してきています。在宅ワークは子育てや介護など家庭との両立もしやすく、とくに女性には働く選択肢を増やす効果がありそう。
「ただし、在宅ワークには向いている人・向かない人がいることも知っておくべきです」
家での作業は、仕事と家庭の境目があやふやで、集中力や効率が落ちてしまうというマイナスの一面もあります。
「在宅ワークでは、気持ちをうまく切り替えられるかが鍵。家の中でひとりで仕事をしていると効率が落ちるなら、コワーキングスペースやカフェなど、家とは違う仕事ができる場をいくつかもっておくといいですね」
コワーキングスペースを賢く使いこなす
月極で借りる、必要なときだけ利用するなど、さまざまな形態で気軽に使えるコワーキングスペース。周囲に働く人がいることで、仕事モードに入りやすいうえ、そこに集まるいろいろな職業の人たちとの新しい出会いも期待できます。
長野県上田市では、働くママ向けに託児所付きコワーキングスペースなども登場しています。
副業・兼業
やりたいことにチャレンジするチャンス
労働人口が減っていくなか、これから副業や兼業をする人はどんどん増えていくと予想されています。そうなってくると、本当に自分がやりたいことを副業・兼業で実現しやすくなるはず。
「これしかないと、ひとつの仕事にしがみつくよりも、複数の仕事をもつほうが人生の小柱を増やすことになって安心ですよね。そうすると、経済面でも精神面でも社会的自立がしやすくなります」
安定した収入は本業で、本当に自分が好きなこと、やっていてワクワクすることは副業で、というスタイルなら、経済的不安も感じずに、本当の自分の声に正直に生きる時間ももてます。
「人生の柱は多ければ多いほど、豊かに楽しく生きることができます」という西村さんの言葉に、背中を押してもらいましょう。
副業・兼業OKの会社が増えている
「多様な働き方を認めよう」という社会の動きに連動して、副業や兼業を認める会社が急速に増加。
なかには社員の副業や兼業、ボランティアといった本業以外の経験は「本業にもプラスになる」という考えから積極的に推奨する会社も。
会社員という立場をキープしたまま、副業・兼業で自分の引き出しや可能性を増やせるチャンスといえます。
田舎暮らし/2拠点
条件よりも縁や相性で考える
自然環境に恵まれた田舎に住まいを移したり、地方と都心を行ったり来たりする2拠点暮らしが人気を集めています。
「都会から地方の田舎に移るときは、住環境の便利さや行政サービスなどの条件に目が行きがちです。しかし、条件重視で場所を選ぶと、なにかあったときに『こんなはずではなかった』と後悔することにも。ひとくちに田舎といっても、場所によって人やコミュニティーの気質はまったく違うもの。条件よりも“なにか縁がある・相性がいい”といった自分の感覚で場所を選んだほうがいいですね」
また、地方は仕事がないというイメージがありますが、実は地方ほど人手不足が深刻。選ばなければ仕事はたくさんあります。
「どこでもニーズがある介護系の資格はあると心強いですね」
地方では価値を生み出すことが大事
地方は車社会。そのため、たとえば地方で店を開くときも、都会のように立地は絶対条件とならないケースがあります。
場所よりも、重要なのは、そこでなければ手に入らないサービスや商品という、独自の価値を提供できるかどうか。
それができれば、お客さんは車で遠くからでも、サービスや商品を買いに来てくれるはずです。
定年後・ボランティア
社会のニーズにこたえるやりがい
人生100年時代、定年後も気力体力ともに元気な時間が長く続きます。充実した老後の人生のために、定年後も働いて社会とのつながりをもちつづけたほうがいいでしょう。
「定年後の働き方は、お金が第一の目的ではないからこそ、それまで自分が培った経験やスキルを生かして、自分が心から楽しいと思えることに挑戦してほしいですね。それが、ほかの人や社会に役に立つことで、生きがいも感じられます。その点では、ボランティアは、自分と社会のニーズが互いにマッチしていて、定年後の働き方としてはぴったりです」
現役時代から、そういったボランティアに少しずつ参加して徐々に準備を進めておくと、よりスムーズに定年後の人生が有意義なものになりそうです。
主体的にボランティアにかかわる
ボランティアの内容はさまざまで、幅広い選択肢があります。お手伝い的な参加もありですが、せっかくなら主体的にかかわれる方法を探してみましょう。
たとえば、東京都美術館の「とびらプロジェクト」では「とびラー」と呼ばれるアート・コミュニケーターが、積極的に企画に参加。来館者との関係を深める役目を果たしています。
<監修/西村佳哲 取材・文/工藤千秋 イラスト/山元かえ>
西村佳哲(にしむら・よしあき)
プランニング・ディレクター。働き方研究家。つくる・書く・教えるの3つの領域で働く。2014〜2022年に徳島県神山町に居住し、「まちを将来世代につなぐプロジェクト」第1期にかかわり、一般社団法人神山つなぐ公社の理事に就任。現在は東京在住。著書に『自分をいかして生きる』(ちくま文庫)ほか。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです