空間ごと楽しめる、アートな器に出合う場所
岡崎市のシンボル、岡崎城は、徳川家康が誕生した城として有名なお城。そんな岡崎城から歩いて5分ほど、城下町を偲ばせる古い建物が点在するエリアに、今回ご紹介する器屋さん「MATOYA」はあります。
店に入ると目に入るのは、真っ白な壁と長方形に仕切られた壁つけの棚。「天井の照明は枠型にして、床にはマス目を入れて、空間づくりのしやすさを考慮しました」と話す的山さんは、現在32歳。若手の男性店主です。
的山さんがセレクトするのは、アート感のある器や個性あふれるオブジェなど。さぞかしアートやデザインに造詣が深いのだろうと思ったら、意外な答えがかえってきました。
「僕は専門的になにかを学んだわけではないんです。浅く広くいろんなものが好きで、デザインに建築、アート、洋服、雑貨と、ある意味雑食。僕が学生の頃に『アーキペラゴ』さんがオープンして、かっこいいなって。ほかにも、こだわりのある日本のセレクトショップに影響を受けました」
そして、“自分も何かお店をやりたい”と考えるように。日本ではまだ取り扱いのない物を探すため、ワーキングホリデーを利用し、トロントに1年半滞在します。仕事の合間を縫って、お気に入りのセレクトショップに通うと、店のオーナーと懇意になり、オーナーを介して陶芸家と知り合います。
「それまではあまり器に興味がなかったものの、作家さんから話を聞いたり、器を見るうちに強く惹かれるようになりました。器って使うものですが、同時に作家の表現の場でもあって、機能美と美術品のような美しさを両立させている。最初は、器のアートな側面に興味を持ったんです」
当初は、トロントの陶芸家やアーティストの作品を扱うお店として出発しましたが、いまでは国内作家の作品が多くを占めるように。というのは、帰国して周りを見ると、素晴らしい陶作家が大勢いるのに気づいたからだとか。なかでも比較的多いのは、若いつくり手のもので、「MATOYA」は、熱意あふれる若手作家との出合いの場にもなっています。
作家のこだわりが楽しめる、妙味あふれる器を
そんな的山さんに、いち押しの作家さんのアイテムをご紹介いただきました。
まずは、愛知県豊明市で作陶する、鮫島 陽(さめじま・みなみ)さんの器です。
「鮫島さんの旦那さんは、陶芸家の成田周平さん。ご夫婦で暮らしも大切にされながら作陶されています。鮫島さんは、『チェイェウ』という、朝鮮時代から祭りごとで使われ、ベトナムに伝わり広がった祭器(お祭りごとに使う道具)がお好きで、自分なりに解釈した器をよくつくられています。この『高台リム祭器』もそのひとつ。
“普段使いだけでなく、祭器なのでハレの日に盆にのせたり床の間で使ったりと、暮らしに合わせて楽しい使い方をしてもらいたい”という想いがあるそうです。
表面の模様は、炭化焼成によるもの。炭化焼成では、『さや』と呼ばれる箱に器を入れ、上からもみ殻を詰めて焼きます。もみ殻が燃えて器に模様をつくるのですが、そのグラデーションがすごくきれいで。しかも、鮫島さんは何度も焼くことで、理想の表情を突き詰めていく。その姿勢にも感銘を受けます」
お次は、愛知県瀬戸市で制作する、安藤里実(あんどう・さとみ)さんの器です。
「安藤さんは、社会人をされていたときに、仕事を通して、とあるガラス作家さんの作品に出合われ、作品に共感してガラスの道に進まれたそうです。
ガラスは、薄くて端正な形がかっこいいとされがちですが、安藤さんは違う視点をお持ちで、曲線の多い有機的なフォルムの作品をつくられています。というのは、安藤さんが惹かれるのは、ガラスの本来の特性というか、溶解炉で溶けたドロドロの状態のガラス。その表情を美しいと感じ、作品で表現されています。
この『プレート』は、安藤さんの作品のなかでは、比較的シンプルな形で使いやすいもの。でも、安藤さんならではの造形美があり、なにを入れても映えますね。安藤さんは吹きガラスで制作されますが、すごく華奢な方なのに、大きな作品もつくられていて。ガラスを吹く際、持ち上げるのが重くて大変ですが、そんなところにもガラスへの熱量を感じます」
最後は、愛知県瀬戸市で作陶する、波多野祐希(はたの・ゆうき)さんの器です。
「波多野さんは瀬戸市で制作する若手男性作家です。土をご自身で掘ることもありますし、鉱山から直接仕入れてお使いになることもあります。
作品はすべて原土を使いますが、表面に石の粒感がよく出ていて、味わい深いですね。それでいて、ていねいに磨き上げるので、触ってもゴツゴツした感じではなく、なめらかでしっとりしています。
この『カップ』は、型で成形したもの。よく見ると表面にうすくヒビ割れがありますが、これは型に粘土を貼り合わせたときのつなぎ目がヒビ割れたものです。もちろん消すこともできますが、あえて残されていて。型でつくられながらも、そんな手跡の残っている感じがいいですね」
的山さんは、作家さんを選ぶとき、どんなことを大切にされているのでしょうか。
「基本的には直感でいいなと思ったものを、セレクトしていますが、作家さんに会って、物づくりの背景や想い、制作方法などをお聞きし、そこに共鳴できるかというのが大きいです。というのも僕は、展示会の会場を、作家とともにつくり上げたいという思いが強く、感覚など多くを共有していないと、それは難しいと考えていて。
直感とはいいましたが、造形につくり手の“芯”を感じるものに惹かれるように思います。たとえば、フチだけ極端に薄くしたり、手跡を意図的に残したり。作家の並々ならぬこだわりを感じる部分に共感できるものですね」
店を訪れるのは、器好きをはじめ、アートやデザインに興味のある人たち。でもそれだけでなく、「新生活を始めるから器がほしくて」とシンプルに器を買い求める人だったり、なかには高校生が来店したりも。
「道を歩いているだけでは気づかない場所にあるので、インスタなどで見つけて来てくださいます。皆さん、おそるおそるといった感じで、扉を開けて入ってらっしゃって。でも緊張されると僕まで緊張してしまうので、フランクに話すように心がけています」
「どんな方がいらしても、うれしいですね」という的山さん。多ジャンルに興味を持つことで磨いてきた物を見る目と、瑞々しい感性で選びとるのは、食卓にひとつ置くだけで、まわりを輝かせる力を秘めた器たち。目で見て手で触れて、その魅力を楽しんでみてください。
※紹介した商品は、お店に在庫がなくなっている場合もございますので、ご了承ください。
<撮影/的山篤史 取材・文/諸根文奈>
MATOYA
11:00~18:00
水休 ※営業日はSNSにてお知らせしています
愛知県岡崎市松本町1丁目107松本ビル2階
最寄り駅:名鉄「東岡崎駅」より徒歩20分ほど
https://www.matoya.net/
https://www.instagram.com/mato_ya
◆村上祐仁さんの個展を開催予定(7月6日~7月14日)
◆小黒ちはるさん個展を開催予定(7月27日~8月4日)
◆SHOKKIの個展を開催予定(9月予定)