(『天然生活』 2023年10月号掲載)
受け取った幸せはどんどん周りに受け渡し
任されることになった「かぞくのアトリエ」。
20年間子育てをしてきたなかで感じていた孤独や心配を解消するアイデアを詰め込んだ、母と子の幸せな「居場所」です。
お母さんたちがつながり、情報を共有し合い、子育てのヒントを見つけられる場所。
「自分が先輩たちにしてもらってきたことを返していく......。いま『ペイフォワード』とか『ギフトエコノミー』という言葉を耳にしますが、そんな心境。心地よい環境を整え、支え合う人間関係をつくり、よい循環を巻き起こせたらいいですね」
才能あふれるクリエーターとの交流も多く、彼らからエネルギーをもらっているという尾見さん。受け取って、みんなに渡していく、それこそが幸せの習慣です。
みんなの幸せ
手の長いおじさんプロジェクト
児童養護施設や里親の下を離れ、独り立ちを始める18歳の子どもたちへ作家ものの器を贈るプロジェクトも運営。
制作過程でできてしまう小傷のついた器や、販売余剰品などを作家からの提供を受けて、プレゼントしています。
「独り立ちの応援に温かみのある器で寄り添いたい。そして、本物の器で食の豊かさを伝えたいんです」
自分の幸せ
自分だけの時間を確保する
21歳で出産した長女ももう31歳。一番下の息子も24歳になって独立し、「やっとごはんの心配をしなくていい」日々に。
「20年以上、起きているときは、常にだれかのための時間で、家ではずっと台所に立ちっぱなしだったので、いまひとりの自由な時間が本当に楽しい」
仕事でもひとりで考える時間の確保がとても大切です。
みんなの幸せ
手を動かす楽しさ。豊かさをシェアする
「景丘の家」の1階には、いろりとかまどをしつらえ、こども食堂もここで定期開催。
「貧困や孤食がフォーカスされがちですが、ここでは『地域で子どもを育てよう』というスタンス。子どもたちはお料理大好き。でもなかなか家庭では忙しくて一緒につくる時間がもてないから、みんなでつくりながら、食体験を豊かにしていきたい」
自分の幸せ
SNSとは適度な距離を置く
便利なSNSだけれど、必要最低限しか使わないようにしています。
「宣伝のツールとして大切で、上手に活用したいと思うけれど、なるべく縛られないようにしたく、プライベートではあまりみないようにしています」
触れて、感じて、目をみて話して......と実際の世界で心を動かすことに、限られた時間は使いたいのです。
幸せをくれるもの
大好きなアーティストが生み出したものはすべて宝物。写真はこばやしゆふさんからもらったウサギ形のコースター。
「毛糸を送ったら、こんなかわいくなって返ってきました」
大切にしている言葉
「ふだん口にすることはないですが、忘れないように、心で思うようにしています。愛と感謝。近しい人にとくに忘れがち。ついイライラしたときなどこの言葉を思い浮かべます」
<撮影/山川修一・山田耕司 構成・文/鈴木麻子>
尾見紀佐子(おみ・きさこ)
「マザーディクショナリー」代表。東京・渋谷区にある「景丘の家」など3つの施設を運営。そのほか、坂井より子さんやアーティスト・こばやしゆふさんのマネジメントをする。毎秋開催されるクリエーターの合同展示会&マーケット「TRACING THE ROOTS(トレーシング ザ ルーツ)」のプロデュースも。https://motherdictionary.com/
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです