こだわりのアイテムに出合う、寛ぎの空間
自然が美しくほどよい田舎、札幌市からも新千歳空港からもアクセス良好な長沼町は、近年注目を集める場所でもあります。移住者に人気が高く、道外や道内から移り住んできた人々が、カフェなどを続々オープン。おしゃれな一棟貸しの宿も誕生するほどです。
そんな長沼町の商店街に2年前にオープンしたのが、セレクトショップの「Nay(ナイ)」。築40年の物件をリノベーションした店舗には、選び抜かれた作家ものの器や生活雑貨、ファッション小物が並びます。

「全部まっさらにきれいにするより、いい物は残したい」と床材は元のまま。ノスタルジックな空気を纏います

波や浜辺など、自然の情景をイメージソースに制作する、金沢の作家、藤丸枝里子さんの作品
もとは医療事務の仕事をしていたと話す、店主の山坂沢子さん。その後、ワーキングホリデーでオーストラリアに1年間滞在したことが、価値観に変化をもたらしたのだそう。
「これからどう生きたいか、何が自分にとって心地いいんだろうみたいなのを、深く考える期間になったんです。北海道に戻ったら、田舎暮らしをしたいと思ったり。帰国後は、医療事務の職に一旦戻りましたが、何かが違うと感じて。まずは、興味の持てる仕事に就こうと決めました」

日本の伝統的なものが好きな山坂さん。和を意識して設えたという真鍮製のカウンターは、経年変化も楽しみに
そこで、香りのものやボディケア製品を扱うショップの販売員として働き始めます。ただ、当時はコロナ禍の最中。家で楽しめるアイテムを求める人で、店はごった返していました。
「もっとゆっくり自由に見てもらえるお店がいいなと。毎日同じような接客にも違和感を覚えて。自分の好きなものだけを集めたお店をしてみたいと、漠然と考えるようになりました」
病気をして体調を崩したのをきっかけに退社し、札幌から長沼町へと移住します。「それなら、お店も長沼町でやりたい」と、32歳のときにお店のオープンに漕ぎ着けました。

ガラス窓や扉の黒い木枠は、神社から着想を得たという、天然塗料の柿渋で仕上げてあります

すべて小野象平さん作。中央と右上、右横の器は「白化粧シリーズ」。同シリーズと思えないほど、景色はさまざま
器のほかに並ぶのは、着心地のよさにこだわったインナーや靴下、ブランドやつくり手の想いが詰まったジュエリーやサングラスなど。どれも愛着を持って長く使えるアイテムばかりです。
店内は、片隅にビオトープの鉢を置いたり、枝ものを飾ったりと、自然を感じられる空間に。訪れた人がのんびり気ままにお買い物できる、思い描いた通りの場所になっています。

什器はすべて古家具。店中に、山坂さんの“好き”が詰まります
多彩な表情を見せる、味わい深い器を
そんな山坂さんに、いち押しの作家さんのアイテムをご紹介いただきました。
まずは、神奈川県鎌倉市で作陶する、栁川晶子(やながわ・あきこ)さんの器です。

長い時を経たような渋みを感じる栁川さんの器。こちらは「リム皿」と「マグカップ」
「栁川さんは、白と青の焼締の器をつくられていますが、1点ずつの表情がまったく異なるところがすごく好きです。顔料や化粧土を施して焼成しますが、同じ青でも色の出方や表情が多彩で、選ぶのが楽しくなります。
つくり方も面白くて。まずは、手捻りや型を用いて成形し、乾燥させた後、水にあえて浸して、自然に造形を委ねます。水の中で、土が少しずつ浸食されたり、逆に削られた土が再びボディに付着するそうで、“時間が凝縮した自然の姿”を表現されています。
焼締なのでずっしり感がありつつも、スマートな印象なのも気に入っています。この『リム皿』は、洋菓子をのせるととても素敵ですよ」
お次は、石川県小松市で作陶する、吉田太郎(よした・たろう)さんの器です。

釉薬や造形の美しさに目を見張る、白のシリーズの「ボウル」
「吉田さんのつくる器は、磁器なんですがすごくマット。貝殻みたいな、なめらかでマットな質感がすごく好きで。そして、面白いのは、吉田さんのご実家は有名な九谷焼の窯元、錦山窯なのですが、それとはまったく違う独自の器を探求し、いまの作風になったんです。
釉薬を2000ピース以上もテストされ、採用しているのはたったの数種類。吉田さんの美意識と創造性を感じますね。白のシリーズは上品な色合いで、ピンクなのか白なのか、クリームなのかわからない絶妙な色合いも魅力的で。釉薬の滲みも、色味や出方が多彩で素敵です。
『ボウル』は、煮物など汁気のあるおかずを入れるのにもいいですね。飯碗として買っていかれた方もいらっしゃいます。見た感じ、とても美しく、使う際に緊張しそうですが、薄すぎず厚すぎずで、気軽に扱えます。そんなギャップもすごくいいなと」
最後は、高知県香美市で作陶する、小野象平(おの・しょうへい)さんの器です。

高知の緑豊かな山あいで作陶する小野さん。こちらは「白化粧八寸皿」
「まだお店を始める前、東京の器店で、『黒志野(くろしの)』というシリーズを見たのですが、すごく素敵でたちまち虜になりました。小野さんは自ら山で掘った原土を使って、作品づくりをされています。
小野さんの作品は、見た目だけでなく使い勝手もすごくよくて、『電子レンジや食洗機も大丈夫ですよ』と、小野さんは仰っています。『白化粧八寸皿』は、なにをのせてもしっくりきて。ちょっとしたものを真ん中にちょこんとのせても素敵ですし、パスタなんかも映えます。『リムボウル』という器も、『使い勝手がいい』と人気で、リピートされる方が多いですね。

横から見たところ。しっかり厚みがあり、丈夫で扱いやすい
土を自ら掘るだけでなく、釉薬も自作されています。『青灰釉』シリーズでは、木の灰を大量に入れた釉薬を使いますが、土の鉄分が灰の成分に反応して、青く発色するそうです。自然がもたらす反応によってできた色というので、面白いですね」

雑貨を求めて訪れたお客さんが、器に目が止まり購入していく、そんな光景が繰り広げられます
山坂さんは、作家さんを選ぶとき、どんなことを大切にされているのでしょうか。
「使い勝手や料理をのせたときの見え方というよりも、私の場合、色合いや質感、形などでで、直感的に選んでいます。直感的といっても、惹かれやすいのは、同じシリーズでも器ごとにまったく違う表情を持つ、そんな器ですね。
また、色合いや質感に奥行を感じるもの、時間の流れを感じさせてくれるものにも魅力を感じます。たとえば貫入が入った器が好きなんですが、経年変化がかなり見られますよね。私は色がつくのもまったく気にならなくて、ついたらついたでそれも味わいと思っています」

貫入が美しく入るお皿は、前出の藤丸枝里子さんの作品
「実は、私は料理をすごくするから、器が好きになったというわけではないんです。もともと雑貨が大好きで、東京や地方の雑貨店をよく巡っていたのですが、器も並んでることが多く、見ているうちにどんどん惹かれていきました」と話す山坂さん。
「正直、器については詳しくなくて。私より詳しいお客さんもいるぐらい」とも。それでも、雑貨を選んだり、古いものを愛でるなかで身についた“物を見る力”を自然と発揮されているよう。「Nay」には、器好きの心を鷲づかみにし、同時に、作家ものを手にとったことのない人にもダイレクトに魅力が伝わる、懐の深い器が揃います。
※紹介した商品は、お店に在庫がなくなっている場合もございますので、ご了承ください。
<撮影/山坂沢子 取材・文/諸根文奈>
Nay
10:00~17:00
月・火休 ※臨時休業はSNSにてお知らせしています
北海道夕張郡長沼町中央北1丁目2-4
車:札幌から約50分、新千歳空港から約30分
https://nay-103731.square.site/
https://www.instagram.com/nay_naganuma