• 『天然生活web』で人気のエッセイスト・広瀬裕子さんの新刊『60歳からあたらしい私』(扶桑社)より、60代を迎える心の整え方や暮らしの見直しについて綴った一編をご紹介します。20年ぶりに東京に戻り、あらたな住まいで暮らしを再出発した広瀬さん。変化を受け止めながら、自分らしく生きるための選択を重ねていきます。今回は、本書のなかから「火のない暮らし」を紹介します。

    火のない暮らし

    画像: 火のない暮らし

    お茶を──と、引越し当日キッチンに立った際、そこで初めてIH仕様ということに気づきました。

    さて、困りました。使っている調理道具は、IH対応をしていない物ばかりです。

    30年近く使いつづけている物がほとんどで、いまのようにIHが普及していない頃に買い求めた物でした。

    ごはんを炊くための圧力鍋、パスタをゆでるたっぷりの鍋。ひとり用に適したミルクパン。その他、鉄製のフライパン、中華鍋、土鍋、すべてがIH不可の物でした。

    「料理は火で」と思ってきたわたしが、戸惑ったのは言うまでもありません。

    うーんとなりましたが、翌日には考えを切り替えました。

    いい機会です。調理器具すべてを見直すことにしたのです。

    それだけではなく、食そのもの、料理方法、買い物などについてもこれをきっかけにコンパクトにしていくことを決めました。

    IH使用可能の鍋とフライパンに買い替える。使うものはできるだけ少なく。

    そう考えた結果、パスタをゆでる20センチの鍋、ひとり分のお味噌汁やスープを作る時の12センチの物。深めのフライパン。その3点にしました。

    ごはんを炊いていた圧力鍋の代わりには、ほとんど使っていなかった炊飯器を使うことにし、IHでも使用可能な鋳物の鍋は残すことにしました。

    大きく変わったのは、数だけでなく、形状です。あたらしい鍋は、取っ手の取り外しが可能な物を選びました。思いがけない買い替えでしたが、結果、鍋の数が減り、収納もすっきりしました。

    IHでの料理は、最初、戸惑いますね。加熱時間がそれまでのガスと変わりました。

    はじめは、その加減がわからず、物足りないこともありました。でも、いい点もあります。火の不注意に対し心配が減りました。料理中の衣服への着火、鍋のかけ忘れ、何より掃除が簡単です。

    20代の終わり、ひとりで暮らしはじめた時、最初に買ったのは鉄のフライパンでした。

    朝、このフライパンで目玉焼きを作り、トーストしたパンとミルクティーは、わたしの定番です。

    今回、このフライパンだけは使えませんが手元に残しました。

    また火にかける時がくるかもしれない。そんな気がしています。

    本記事は、『60歳からあたらしい私」(扶桑社)からの抜粋です。

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    『60歳からあたらしい私』(著・広瀬裕子/扶桑社)

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    “60歳はあたらしいスタートラインを引き直す時”

    『天然生活』『天然生活web』で人気のエッセイスト広瀬裕子さんの新刊が発売になります。50歳、55歳と年齢をテーマに執筆してきた著者が、60歳を迎えるまでの日々に考え、選択し、アップロードしている暮らしの知恵を1編ずつ丁寧に書き下ろしました。「抗うことなく、あきらめることなく、自分に合った選択をしていく。気持ちのこと、身体のこと、家族のこと。いままでのことを振り返りながら、60代のために新しいスタートラインを『引き直したい』と思うようになりました」と広瀬さんは語ります。60歳はあたらしいスタートラインととらえ、これからの生活小さな暮らし、グレイヘア、家族の看取りなどをていねいに一編一編綴ったエッセイ集です。



    <撮影/加藤新作>

    広瀬裕子(ひろせ・ゆうこ)
    エッセイスト、設計事務所岡昇平共同代表、other: 代表、空間デザイン・ディレクター。東京、葉山、鎌倉、香川を経て、2023年から再び東京在住。現在は設計事務所の共同代表としてホテルや店舗、レストランなどの空間設計のディレクションにも携わる。近著に『50歳からはじまる、新しい暮らし』『55歳、大人のまんなか』(PHP研究所)他多数。インスタグラム:@yukohirose19



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