• 日本には心惹かれる器をつくる作家が大勢います。作家と私たちの暮らしをそっとつないでくれるのが器屋さんです。宮城県石巻市にある「観慶丸本店・KANKEIMARULAB.」は、素材の魅力を伝える器が揃う器屋さん。店主の須田正樹さんに、お薦めの作家をこっそり教えてもらいました。

    代々続く名店に生まれた、ワクワクが広がる空間

    「このお店は、妻の実家なんです。でも、継ぐ意思はなく、ずっと東京でフランス語の教員をしていました。ただ、震災で店舗が津波の被害を受けてしまい……。義父が店をたたもうとしていたので、“それなら、少しでも長く続けられるよう手助けしたい”と考えたんです」

    そう話すのは、宮城県石巻市の器店「観慶丸本店」の店主、須田正樹さんです。「観慶丸本店」は歴史ある店で、前身は江戸にコメを運ぶ千石船「観慶丸」の船頭だった須田幸助氏が、江戸末期に始めた「須田屋」という陶器店。須田さんは、9代目に当たります。

    画像: 「観慶丸本店」では、美濃焼、瀬戸焼、波佐見焼など、問屋から厳選して仕入れた器をメインに並べます

    「観慶丸本店」では、美濃焼、瀬戸焼、波佐見焼など、問屋から厳選して仕入れた器をメインに並べます

    継ぐにあたり、これまでと同じ産地の器を扱うだけでは、先行きが見えないと考えた須田さん。そこで、新たに立ち上げたのが、作家ものを扱うギャラリー「KANKEIMARULAB.(カンケイマルラボ)」でした。

    画像: 「カンケイマルラボ」は、展示会期間中のみ営業。花生けなどのワークショップも時折開催しています

    「カンケイマルラボ」は、展示会期間中のみ営業。花生けなどのワークショップも時折開催しています

    画像: 高知の山間で作陶する、小野哲平さんのプレート

    高知の山間で作陶する、小野哲平さんのプレート

    「店を継ぐ意思はなかった」と話す須田さんですが、もともとが器好き。東京にいた頃から、器屋を見てまわっていたといいます。「だから、作家ものを扱うという考えには自然に至りました。でも、売れる見込みはなくて、最初はおっかなびっくりでしたね」と笑います。

    画像: 「カンケイマルラボ」は、2014年にスタート。「観慶丸本店」の向かいのビルの1階にあります

    「カンケイマルラボ」は、2014年にスタート。「観慶丸本店」の向かいのビルの1階にあります

    画像: グループ展の様子。テーブルの上の酒器は、長谷川奈津さん、村木雄児さん作

    グループ展の様子。テーブルの上の酒器は、長谷川奈津さん、村木雄児さん作

    “おっかなっびっくり”始めたものの、いまでは作家ものはすっかり浸透しています。そのきっかけは、好評を博したオープニングイベント、「きほんの食卓展」でした。13組ほどの作家作品が一堂に会するグループ展で、作家選定は木工作家の三谷龍二さんが担当したのだとか。

    「妻が建築士で、東京にいた頃は、建築家の中村好文さんの設計事務所で働いていたんです。それで、中村さんを介し、三谷さんと知り合うことができて。三谷さんは、ギャラリーを構えるときにもアドバイスをくださったりと、心強い存在です」

    画像: 「きほんの食卓展」はその後、恒例イベントに。2025年の今年で、12回目を迎えました

    「きほんの食卓展」はその後、恒例イベントに。2025年の今年で、12回目を迎えました

    「カンケイマルラボ」では、作家に“在廊してもらうだけではもったいない”と、“お話しを聞く会”を設けているのだそう。「お客さんもじっくり質問できますし、作家さんも考えを整理してお話しいただけて。その後で、お食事会をすることもよくありますね」

    また、作家にミュージシャンの知り合いがいれば、ライブを企画することも。「“ここに来たら、面白いことがある”、そう思ってもらえる場所にできたら」と話す須田さん。そのためにスタッフとともに、日々奮闘しています。

    画像: 窓越しに見えるのは、カフェスペース。お茶やケーキなどを楽しめます

    窓越しに見えるのは、カフェスペース。お茶やケーキなどを楽しめます

    素材の魅力に気づかせてくれる器を

    そんな須田さんに、いち押しの作家さんのアイテムをご紹介いただきました。

    まずは、愛媛県砥部町で作陶する、池本惣一(いけもと・そういち)さんの器です。

    画像: 磁土を使いわけ、白とグレーの器をつくる池本さん。こちらの「鉢」はグレー。古陶器を思わせる古びた佇まいが魅力です

    磁土を使いわけ、白とグレーの器をつくる池本さん。こちらの「鉢」はグレー。古陶器を思わせる古びた佇まいが魅力です

    「ひとり問屋・日野明子さんと一緒に砥部をまわっているときに、『面白い作家さんがいるから、ぜひ紹介したい』といわれたんです。それで池本さんの工房に伺ったら、自ら購入したものすごく古い車を修理されていて(笑)。そんな感じで、一貫してなんでも自分でされる方。陶芸も独学です。

    画像: こちらは「飯碗」で、色は白。優美なフォルムに魅了されます

    こちらは「飯碗」で、色は白。優美なフォルムに魅了されます

    池本さんのお父様は、池本窯という窯を開かれた陶芸家。でも、陶芸をやる気になったのは、お父様が亡くなられた後と話されていました。そんな池本さんがお手本にしているのは、李朝の焼き物とお父様が残した器だそう。ですので、砥部焼といってもまるで違う作風で、砥部焼特有の“ぼってり感”はなく薄手、釉薬のかけ方も違います。

    池本さんは、ろくろも削りも、大変お上手。でも、ただ技術が高いだけでなく、造形センスが素晴らしくて。そこに一番惹かれますね」

    お次は、愛知県阿久比町で作陶する、田鶴濱守人(たつるはま・もりと)さんの器です。

    画像: 田鶴濱さんの器は、土の風合いがありつつも洗練された印象。こちらは「リバーシブルプレート」

    田鶴濱さんの器は、土の風合いがありつつも洗練された印象。こちらは「リバーシブルプレート」

    「田鶴濱さんの作品は、石のようなイメージがあって。こちらの『リバーシブルプレート』は粉引きですが、見た目の印象はやはり“石”ですね。焼締めとよく間違われますが、釉薬がかかっていて、シミはできません。お肉やサラダはもちろん、何をのせても映えますよ。

    裏側も使え、汁気のないものなら、なんでものせられます。また、裏側には、デカルコマニーというシュルレアリスムの絵画技法が使われていて。アートでは一般的な技法ですが、陶芸の世界で使われているのは、ほかで見たことないですね。

    画像: うねうねした模様が、デカルコマニー技法によるもの

    うねうねした模様が、デカルコマニー技法によるもの

    田鶴濱さんは、お父さまが現代美術家なんです。その影響かと思うのですが、大学院の油画科に進まれて。でもそのうち、視覚的なものより触感や質感に惹かれるようになったそうで、大学院を出た後に、独学で陶芸を学ばれました。

    師匠につかなかったのもあると思いますが、造形が特殊で。奇をてらったという意味でなく、どこかしらほかにない形をしています。それでいて使い勝手もいい、不思議な器ですね」

    最後は、神奈川県相模原市で作陶する、長谷川奈津(はせがわ・なつ)さんの器です。

    画像: 薄いグレーに、桃色が浮かび上がり、多彩な表情を見せてくれる「鉢」

    薄いグレーに、桃色が浮かび上がり、多彩な表情を見せてくれる「鉢」

    「長谷川さんは、粉引きなどいろいろつくられますが、代表的なのは、林檎灰釉(林檎の木の灰からできた釉薬)の作品です。この『鉢』がそうで、桃色がふわーっと浮き出た様が美しいですね。ただ、林檎灰釉ならすべて同じではなく、焼き方によって発色が違います。

    さきほどのおふた方と違い、長谷川さんは、大学院で陶芸を学ばれています。ただ、その後、作家の故・青木亮氏に弟子入りされ、厳しく指導されたようで。それもあって、学校で習っただけじゃない、型にはまらない自由なつくり方をされます。

    画像: 「大御所の域に入っておられるのに、毎回新しいことに挑戦される、そんな姿勢も魅力的です」と須田さん

    「大御所の域に入っておられるのに、毎回新しいことに挑戦される、そんな姿勢も魅力的です」と須田さん

    長谷川さんは、一見ほんわかした印象ですが、実は東京の下町生まれで、ちゃきちゃきの江戸っ子。ご自身も『短気なんです』と仰っていて。そんな性格からか、器全体の印象は柔らかいものの、細かいところはむしろ豪胆。手をかけすぎずパッと仕上げる、その潔さに惹かれます」

    画像: こちらは、「観慶丸本店」。代々続く陶器店で、蔵にはデッドストックの古陶器が数多く眠っているそう。そんな古陶器が店に並ぶことも

    こちらは、「観慶丸本店」。代々続く陶器店で、蔵にはデッドストックの古陶器が数多く眠っているそう。そんな古陶器が店に並ぶことも

    画像: 「観慶丸本店」では、生活雑貨も扱います。こちらは、日野明子さんがセレクトした「宮島工芸製作所」の木べら

    「観慶丸本店」では、生活雑貨も扱います。こちらは、日野明子さんがセレクトした「宮島工芸製作所」の木べら

    須田さんは、作家さんを選ぶとき、どんなことを大切にされているのでしょうか。

    「素材の魅力をいかに引き出しているかを見て、選ばせていただいていますね。というのは、アートはいってみれば表象の世界だと思うのですが、工芸は伝えたいことと素材が不可分と考えていて。

    工芸の素材は、石やガラスなど、身近にあるけど普段は見過ごしているもの。地面や窓ガラスを見て、特段きれいとは思わないけれど、器になってその素材の魅力に気づくことがあります。素材の魅力をどれだけ高めているかを、見極めるようにしていますね」

    画像: ガラスの鉢は、ヤマノネ硝子のもの。手前の漆器は、鎌田克慈さん作

    ガラスの鉢は、ヤマノネ硝子のもの。手前の漆器は、鎌田克慈さん作

    「カンケイマルラボ」では、器だけでなく、洋服や生活道具など多彩な展示会を開催。たとえば、モンサカタ、ユーモレスク、F/style、クロマニヨンなどがそうで、感性に刺さるラインアップに驚かされます。

    「石巻は被災地だから、復興支援で他県からいろんな人が入ってきて、交流する機会が多いんです。そうして知り合った方に、面白いことをしているブランドや人を紹介いただくことがよくあって。出会いから関係をつくり上げるのが僕の仕事です」

    人とのつながりを大切に、物と人、ブランドと人、場所と人を結び付けて、ワクワクを届けてくれる「観慶丸本店・カンケイマルラボ」。そこから生まれる一期一会の出合いを、ぜひ楽しんでみてください。

    ※紹介した商品は、お店に在庫がなくなっている場合もございますので、ご了承ください。

    画像: 素材の魅力に気づかせてくれる器を

    <撮影/須田正樹 取材・文/諸根文奈>

    観慶丸本店・KANKEIMARULAB.
    0225-22-0151

    10:00〜18:00
    火休 ※KANKEIMARULAB.は、イベント会期中のみ営業 ※臨時休業はSNSにてお知らせしています
    宮城県石巻市中央2-8-1 ※KANKEIMARULAB.は、観慶丸本店向かいのビル1階
    最寄り駅:JR「石巻駅」より徒歩10分
    https://kankeimaru.com/
    https://www.instagram.com/kankeimaru_honten/
    ◆小野哲平さんの個展を開催予定(6月13日~6月22日)
    ◆市岡泰さんの個展を開催予定(7月18日~7月27日)
    ◆亀山英児さんの個展を開催予定(8月22日~8月31日)



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