(『天然生活』2024年11月号掲載)
山下さんのあるものを生かす暮らし 01
修繕が必要な部分は手を動かして愛着のある空間に
傷んでいたキッチンとダイニングの床をはがすと、現れたのは土間。
土間は子どものころに祖父母の家で見て以来憧れていたという山下さんは、そこにホームセンターで買った古い耐火レンガを敷き詰めました。
「1個3.5kgのレンガを630個。車で運んでもらえるのは108段ある階段の下までだったので、そこから友人と一緒に何往復もして家まで運びました」
とにかく大変な作業でしたが、おかげで筋肉もついたといいます。
「苦労した分、愛情もひとしおです」

平らにならした床にセメントを粉のまままき、レンガを敷いて目地を入れてから水をまくという方法をとった。「不完全な箇所もありますが、それも味わいのひとつとして楽しんでいます」

背負子にレンガを6〜7個ずつ入れ、108段の階段を何度も上った。「背中にだいぶ筋肉がつきました」
山下さんのあるものを生かす暮らし 02
前からあるものを生かして心地よく暮らす
しっかり修繕した部分と、あるものをそのまま生かした部分とのメリハリがあるのが山下さんのセルフリノベーションの特徴です。
「傷みが少ない箇所は、ペンキで塗り直すくらいにしています」
自分の暮らしに合わせ、元からあるものに少しだけ手を加えた部分もあります。
「キッチンにある食器棚は、もともと階段下のスペースを利用した収納庫。扉が反対側についていたのをキッチンから使えるようにするため壁の一部をはがし、新たに棚板を取り付けました」

ソファが置かれたリビング。床と壁は傷みが少なかったので生かすことに。床はそのままにし、壁はペンキだけ塗り直した。「ここでライアーの練習をしたり、手仕事をしたりしています」

庭に面した窓もそのまま活用。「窓ガラスを変えることも考えましたが、結局サッシをペンキで塗るだけに」
山下さんのあるものを生かす暮らし 03
旅や仕事からのインスピレーションをインテリアに生かす
いまの家のインテリアには、山下さんがこれまでの旅や暮らし、仕事などから得たアイデアやイメージを生かしました。
キッチンとダイニングを仕切るカーテンを下からすくい上げ、フックにかけるスタイルもそのひとつ。
「アメリカに住んでいたころ、友人と訪れたマルティニークの家で見て、いつか自分でもやってみたいと思っていたんです」
長い間抱いていたイメージを形にできるのは、自分の手でつくりあげる家ならではの醍醐味といえそうです。

麻とコットンオーガンジーをミシンで縫ったというカーテン。「カーテン使いから異国の生活を垣間見ることは、旅の醍醐味ですね。マルティニークの景色を思い出します」

「昔から気になっていたラファエロの絵にあるカーテンレールのたわみをこの家で再現してみました」
山下さんのあるものを生かす暮らし 04
ご近所や知人から譲り受けた家電製品をフル活用
キッチンで活躍しているガスオーブンは、この家に引っ越してきた後、知人から譲り受けたもの。
「ガスオーブンはとても高価なので、ずっと前からほしかったけれど買えなかったんです。これは古いけれど十分使えるので、大喜びでいただきました」
冷蔵庫も引っ越してから数年後、近所でお店を開いていた知人から安く譲り受けたそう。
「それまでの冷蔵庫は20年以上使っていたので助かりました。いろいろな縁や偶然で譲ってもらえるのがありがたいです」

日々何かと活躍しているガスオーブン。「シンプルなパウンドケーキやスコーン、パンなどを焼いたり、グラノーラをつくったり。とても重宝しています」

大きめの冷蔵庫は食材がたっぷり入って便利。「引っ越してから新しい家電は買っていません」
〈撮影/大森忠明 取材・文/嶌 陽子〉
山下りか(やました・りか)
雑誌『オリーブ』でスタイリストとして活躍した後、渡米。出産後、子育てを通じてシュタイナー教育に出合う。1997年の帰国後は、竪琴の一種であるライアーの奏者、手仕事作家として活動。著書に『季節の手づくり 夏と秋』『季節の手づくり 冬と春』(ともに精巧堂出版)がある。CD「septime stimmung」も販売中。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです