(『天然生活』2025年6月号掲載)
20年、変わらなかった問題と再び向き合う
2020年春、田園と草地が広がり、西に秩父の山の連なりを望む埼玉県上尾市の土地に開設された「領家グリーンゲイブルズ」。
視覚、身体、知的などの障がいのある人を対象とする「就労継続支援B型事業所」、および盲重複障害(視覚障害とそのほかの障がいが重複し、重度化した障がい)のある人を対象とする「生活介護事業所」として運営されています。
開設の背景には、職を転々としてきた事業所の代表、加藤木貢児さんが、40歳を過ぎて盲学校の教員となり、視覚障害、盲重複障害のある子どもや、その保護者と関わり合った数年間があります。
「保護者の方たちは口々に、『学校を出たあとの行き場がない』『親が死んだあとが心配だ』といいます。20年、何も変わってこなかったと気づきました」

領家グリーンゲイブルズ代表、加藤木貢児さん
さかのぼれば、大学在学中に養護教員課程を専攻し、サークルでは、地域の特別支援学校に通う子どもたちと遊ぶ活動をしていたという加藤木さん。この活動で交流のあった保護者から、自閉症児・者親の会の有志がつくる団体に誘われ、卒業後、世話人に着任しました。
「いまでいう『ショートステイ』の自主運営組織でした。保護者たちが、自分たちの死後も子どもが生きていけるよう、生きて元気なうちにと活動を始めたんです。一泊につき3人くらいずつ集まり、皆でごはんをつくったり、たまには外食をしたり」
この活動は2年で終了することとなり、「あのときはゆとりがなかった」という加藤木さん。自身も一度は福祉の世界を離れましたが、20年を経て、盲学校の保護者有志とともに任意団体を発足。
視覚障害、盲重複障害への理解を深める啓発活動を始め、領家グリーンゲイブルズ設立へとこぎ着けたのです。ここにはいま、教員時代の生徒5人も利用者として通い、その保護者も勤務しています。
利用者に工賃が支払われる作業は、コーヒーの焙煎、パック詰め、イベントでの販売のほか、農業生産、点字名刺の制作、点字紙をリサイクルしたギフトバッグの制作など多岐にわたり、日々分業体制で行われています。

ドリップバッグに入れる豆を計量し、挽くのも利用者たちの手作業

ドリップバッグの袋に封をする。ラベルには点字の説明も
「百姓には百の仕事がある、なんていわれますよね。仕事を分解していけば、障がいがあったとしても何かはできるだろうと」と加藤木さん。
その背景には、視覚障害のある人々が就ける職種が、今日の社会では極めて限定的だという問題が横たわります。

大盛況だった催しの一コマ。利用者と職員が連携して豆を売ったり、コーヒーを淹れたり

催しの会場では、その都度、豆を挽く。この日の豆はブラジルの「トゥピー」
特別支援学校に設置される「専攻科」において、視覚障害者が取得できる資格は、おおむねあん摩マッサージ・鍼灸に限られるうえ、それを仕事として生きていける人は、「私の体感では、全視覚障害者のうち1、2割程度ではないか」といいます。
「その1、2割の仕事は大切に守っていかなければなりません。一方で仕事に就けない8、9割の人たちの問題、40代、50代になってから視覚障害になる人たちの問題については、だれが考えるのか。うちでは、その人たちの仕事のことを考えていきたい」
<撮影/川村恵理 取材・文/保田さえ子>
領家グリーンゲイブルズ
2020年4月、埼玉県上尾市に開設された多機能型事業所(生活介護・就労継続支援B型事業)。盲学校の保護者有志の活動から始動した「認定NPO法人みのり」が運営。視覚やその他の障がいのある人たちによるコーヒー焙煎、点字打ち、農業生産などの作業や、盲重複障がいのある人たちを対象とした生活介護などを行う。
https://event.ageo-minori.or.jp/
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです




