• 生きづらさを抱えながら、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていた咲セリさん。不治の病を抱える1匹の猫と出会い、その人生が少しずつ、変化していきます。生きづらい世界のなかで、猫が教えてくれたこと。猫と人がともに支えあって生きる、ひとつの物語が始まります。10匹の猫の中の個性とは。

    10匹のかわいい猫の中で、「わが家のセンター」猫

    10匹の猫と暮らしていると、家の中には、いつも誰かの気配があります。静かに眠っている子。窓の外を眺めている子。お気に入りの場所を取られて、不満そうにしている子。

    そして、わが家全体を動かしている子。

    サチです。

    3年前にやってきた子猫組、ユキ、コウ、サチ。

    みんな「幸せ」にまつわる漢字を名前にもらった、にぎやかな三きょうだいです。私はこの3匹を、ひそかに「保護猫アイドルグループ」と呼んでいます。

    そのセンターが、サチ。センターなので、よく鳴きます。とにかく高音です。

    画像: こちらが「サチ」。高音の美声の持ち主

    こちらが「サチ」。高音の美声の持ち主

    画像: 保護したばかりの頃の「サチ」。すでにアイドル猫の片鱗が見えます

    保護したばかりの頃の「サチ」。すでにアイドル猫の片鱗が見えます

    センターの猫さまは、用意周到で準備も早い

    夜のお楽しみであるウェットフードの時間になると、サチはかなり早い段階から準備に入ります。

    まだ3時間前です。

    こちらとしては、「開場前です」とお伝えしたいのですが、サチの中ではもう、ライブは始まっているようです。

    「そろそろじゃないですか」

    「忘れてませんか」

    「お客さま、お時間です」

    そんなふうに、高い声で鳴きながら、私たちを見ます。

    しかも困ったことに、その声には集客力があります

    画像: サチの号令でみんな集まってきます

    サチの号令でみんな集まってきます

    集客力抜群のひと鳴き。わらわらと行列が

    サチがひと鳴きすると、ほかの猫たちが集まってきます。

    「あ、ごはん?」

    「もう並ぶ?」

    「サチが言うなら、そうかも」

    誰も時計は読めないはずなのに、全員それらしい顔をします

    こうしてわが家では、サチの勘違いによって、ウェットフード開演前の行列ができます。

    遊びたいときも同じです。

    サチが「ニャー!」と鳴くと、みんな集合します。

    猫じゃらしの前に座る子。遠くから期待する子。なぜか急に走り出す子。

    こちらは少し疲れていて、「今日はもう座っていたいな」と思っていても、その光景を見ると、結局おもちゃを取りに行ってしまいます。

    サチのすごいところは、自分が楽しいことを、あっという間に全体行事にしてしまうところです。

    ひとりのお願いだったはずが、気づけば「全員参加型イベント」になっています。

    ムードメーカーというより、もはや小さな実行委員長です。

    しかも、こんなに「自分! 自分!」という性格なのに、ときどき急に、お姉さんみたいな顔をします。

    他の子を毛繕いしているのです。さっきまで「私を見てください」と鳴いていた子が、今度は誰かの頭をていねいにぺろぺろしています。

    その姿を見ると、サチの中には、センターとお姉さんと実行委員長が同居しているのだなと思います。少し忙しい性格です。

    画像: 「でかお」の毛繕いをする「サチ」

    「でかお」の毛繕いをする「サチ」

    多頭飼いの毎日は、にぎやかです。誰かが鳴けば、誰かが反応します。走ればつられて走り、袋があれば入ります。箱があれば、なぜか全員で確認します。

    そしてサチが鳴けば、とりあえず集まります。

    理由は、あとで考えるのです。猫が10匹いるというより、「10匹分の予定」が、家の中に同時に存在しているようなものです。

    大変なこともあります。抜け毛は舞います。ごはんの好みは割れます。

    トイレ掃除は、気づけばまた次のトイレ掃除です。

    それでも、サチが高い声で鳴いて、みんながぞろぞろ集まってくると、私は思います。

    ああ、今日もわが家は通常営業だな、と。そしてたぶん、通常営業であることは、とてもありがたいことなのです。

    多頭飼いがもっと楽しくなる、小さなコツ

    ・センター猫を観察する
    家の空気を動かす子がいると、多頭飼いはぐっとにぎやかになります。少し騒がしくても、その子が家族のリズムをつくっていることがあります。

    ・集合した理由は、あとで考える
    誰かが鳴いて、みんなが集まる。理由がよくわからないこともありますが、それも多頭飼いの楽しさです。まずは「集まったね」と笑って、みんなのそのときの希望を一緒に考えてあげるといいでしょう。

    ・全員を同じにしなくていい
    食べる速さも、遊び方も、甘え方も違って当然です。「同じリズムにしたい」と思うと、人間も疲れてしまいます。それぞれの違いを見つけるほど、家族の物語が増えていきます。

    ・騒がしさを“家族の音”にする
    鳴き声、走る音、ごはんを待つ気配。静かではないけれど、その音があるから、家の中が生きているように感じられます。独りを感じて少し心が落ちるとき、猫たちの生きている温度をもらいましょう。

    ・元気な子には、少し巻き込まれてみる
    疲れている日も、元気な子に誘われて少しだけ遊ぶと、こちらの気持ちまでほぐれることがあります。猫のイベント開催力は、なかなか侮れません。無理やり誘われたライブで、推しが見つかったような喜びと出合えるかもしれません。

    夜、ウェットフードを食べ終えた猫たちが、それぞれ好きな場所へ散っていきます。

    満足そうに毛繕いをする子。もう眠そうな子。まだ遊び足りない顔をしている子。

    その真ん中で、サチがまた、高い声で鳴きました。

    「次の演目にまいります」

    たぶん、そう言っています。私は思わず笑ってしまいます。

    こんなふうに毎日を少しだけかき回してくれる子がいるかぎり、わが家はきっと、これからもしばらく、にぎやかで、あたたかくて、幸せです。

    画像: 小さな頃からアイドル気質

    小さな頃からアイドル気質

    ◇ ◇◇ ◇◇


    画像: 多頭飼いがもっと楽しくなる、小さなコツ

    咲セリ(さき・せり)
    1979年生まれ。大阪在住。家族療法カウンセラー。生きづらさを抱えながら生き、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていたところを、不治の病を抱える猫と出会い、「命は生きているだけで愛おしい」というメッセージを受け取る。以来、NHK福祉番組に出演したり、全国で講演活動をしたり、新聞やNHK福祉サイトでコラムを連載したり、生きづらさと猫のノンフィクションを出版する。主な著書に、『死にたいままで生きています』(ポプラ社)、『それでも人を信じた猫 黒猫みつきの180日」(KADOKAWA)、精神科医・岡田尊司との共著『絆の病──境界性パーソナリティ障害の克服』(ポプラ社)、『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました──妻と夫、この世界を生きてゆく』(ミネルヴァ書房、解説・林直樹)、『息を吸うたび、希望を吐くように──猫がつないだ命の物語』(青土社)など多数ある。

    ブログ「ちいさなチカラ」



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