• 生きづらさを抱えながら、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていた咲セリさん。不治の病を抱える1匹の猫と出会い、その人生が少しずつ、変化していきます。生きづらい世界のなかで、猫が教えてくれたこと。猫と人がともに支えあって生きる、ひとつの物語が始まります。今年からベランダで育て始めたハーブ。猫と植物が心地よく暮らすための工夫を綴ります。

    ハーブと猫の、ちょうどいい距離

    今年から、ベランダでハーブを育て始めました。といっても、いきなり本格的なガーデニングに挑んだわけではありません。

    選んだのは、初心者でも育てやすいといわれているものばかり。しそ、バジル、ミント、レモングラス。料理に少し摘んで使えたらいいな、というささやかな夢もありました。

    画像: ベランダのハーブ園

    ベランダのハーブ園

    ただ、ひとつ問題があります。

    私は植物と相性が悪いのです。

    過去には、サボテンさえ枯らしたことがあります。水をあげなくてもいい、といわれているのに、心配になって水をあげる。日当たりが大事、と聞けば、日に当てすぎる。葉っぱが少ししおれると、これは大変だと鉢のまわりをうろうろする。

    つまり、愛が重い。

    猫には「かわいいねえ」といいながらしつこくして嫌がられ、植物には「大丈夫?」と世話を焼きすぎて根腐れさせる。私の愛情は、ときどき対象を窒息させるのかもしれません。

    だから今回は決めました。

    なるべく、かまいすぎない。

    水やりも、土の乾き具合を見てから。葉っぱに少し元気がなくても、すぐには騒がない。ベランダの前を通るときも、できるだけ知らんふりをする。見たい。ものすごく見たい。でも、見ない。目の端でだけ、そっと見る。

    ところが、私がせっかく植物に対して距離を学ぼうとしていたのに、そうはいかなかった存在がいます。

    猫たちです。

    なぜか、ハーブの見える廊下が、急に人気スポットになりました。

    その場所には、特別なものは何もありません。ふかふかのソファがあるわけでも、ひんやりマットが敷かれているわけでもない。ただ、ベランダに面した網戸のそばに、小さな猫ベッドがひとつ置いてあるだけです。

    なのに、そこが取り合いになりました。

    画像: いい位置を陣取ろうと必死

    いい位置を陣取ろうと必死

    1匹が丸くなっていると、別の子がやってきて、じっと見つめる。見つめられたほうは、寝たふりをする。さらに別の子がやってきて、ベッドの端に無理やりお尻をねじこむ。結果、猫ベッドはぎゅうぎゅうになり、だれも快適ではなさそうなのに、なぜかだれもどかない。

    ほかにも家の中には、居心地のよい場所がたくさんあります。

    それなのに、いまはハーブの見える廊下。

    網戸にしているから、風が通るのかもしれません。風に乗って、さわやかな気配が、ほんの少しだけ家の中に入ってくるのかもしれません。

    画像: ここから立派な緑が見えるよ

    ここから立派な緑が見えるよ

    猫たちは、それを「いいにおい」と思っているのか、「外の気配」と思っているのか、ただ涼しいからいるだけなのか、わかりません。

    画像: いい匂いの風に吹かれて、いやされ中

    いい匂いの風に吹かれて、いやされ中

    でも、その姿を見ていると、ハーブを育てているというより、猫たちのために小さな風景をつくったような気がしてきます。

    ただ、猫と暮らしていると、ハーブにも少し注意が必要だと知りました。

    人間にとってはいい香りでも、猫にとっては強すぎるものがあります。食べても大丈夫とされるものでも、たくさん口にすればおなかをこわすことがあります。とくに精油やアロマオイルのように、植物の成分をぎゅっと濃くしたものは、猫のいる家では避けたほうが安心です。

    だからわが家では、ハーブは「食べさせるもの」ではなく、「一緒に季節を感じるもの」と考えることにしました。

    画像: 自然の中でリラックスタイム

    自然の中でリラックスタイム

    猫が直接かじれないような場所に置く。強い香りを室内にこもらせない。猫が嫌そうにしたら、すぐに離れられる場所をつくる。

    ハーブも猫も、こちらが思うようには育ちません。

    でも、思うようにならないからこそ、こちらが少しずつ学んでいくのだと思います。かまいすぎない。でも、ちゃんと見ている。近づきすぎない。でも、大切に思っている。植物にも、猫にも、人にも、そんな距離があるといいのだと思います。

    ◇ ◇◇ ◇◇


    画像: 少しでも変だと思ったら、すぐ確認を

    咲セリ(さき・せり)
    1979年生まれ。大阪在住。家族療法カウンセラー。生きづらさを抱えながら生き、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていたところを、不治の病を抱える猫と出会い、「命は生きているだけで愛おしい」というメッセージを受け取る。以来、NHK福祉番組に出演したり、全国で講演活動をしたり、新聞やNHK福祉サイトでコラムを連載したり、生きづらさと猫のノンフィクションを出版する。主な著書に、『死にたいままで生きています』(ポプラ社)、『それでも人を信じた猫 黒猫みつきの180日』(KADOKAWA)、精神科医・岡田尊司との共著『絆の病──境界性パーソナリティ障害の克服』(ポプラ社)、『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました──妻と夫、この世界を生きてゆく』(ミネルヴァ書房、解説・林直樹)、『息を吸うたび、希望を吐くように──猫がつないだ命の物語』(青土社)など多数ある。

    ブログ「ちいさなチカラ」



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