• 生きづらさを抱えながら、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていた咲セリさん。不治の病を抱える1匹の猫と出会い、その人生が少しずつ、変化していきます。生きづらい世界のなかで、猫が教えてくれたこと。猫と人がともに支えあって生きる、ひとつの物語が始まります。今回は、入院後に甘えん坊になった猫のこころを通して、家族の不在と、安心を取り戻すまでの時間について考えます。

    家族のだれかが長期間家を空けるときにやっていたこと

    「いつも通り」を、できるだけ残してあげる

    ごはんの時間や寝床、トイレの場所など、その子にとっての日常は、私たちが思っている以上に大切なのだと思います。だれかがいなくなるだけでも大きな変化です。だから、それ以外のものはなるべく「いつも通り」にしてあげていました。

    その子だけの「当たり前」を、残る人に伝えておく

    ごはんはこの器で、水はここから飲む。寝る前にはここに座る。なでられるなら頭が好きで、おなかはちょっと苦手。人間から見ると小さなことでも、動物にとっては大事な習慣があります。お世話をお願いする人には、そんな「その子だけの当たり前」も伝えるようにしています。

    帰ってきたあとの変化を、急いで直そうとしない

    甘えん坊になったり、鳴くことが増えたり、いままでしなかった粗相をしたり。そんな変化があると、こちらも困ってしまいます。でも、それは「困らせてやろう」ということではなく、「まだ不安です」のサインかもしれません。すぐに元に戻そうとせず、少し長い目で見てあげるようにしています。

    「もう大丈夫」になるまで、その子の時間を待つ

    人間なら、帰ってきた瞬間に「ただいま」「おかえり」で終わることもあります。でも動物には、安心を取り戻すまで時間が必要なことがあります。一週間かもしれません。ひと月かもしれません。こころのように、一年かかる子もいるのかもしれません。それでも、少しずつ「また一緒に暮らしていける」と覚えてくれたら、それでいいのだと思います。

       

    人間は事情を説明できます。

    「ちょっと入院してくるね」「ちゃんと帰ってくるからね」

    でも、それが伝わらない家族もいます。

    こころはたぶん、ずっと不安だったのです。

    そう思うと、一年間の「ニャー!」も、シンクでのあれこれも、少し違って見えます。

    ごめんね。さびしかったんやね。そして、ありがとう。

    私はもう、できるだけ突然いなくならなくてすむようにしたいと思います。

    もちろん、生きていれば、自分ではどうにもならないこともあります。病気になることもあります。

    休まなければならないこともあります。だれかに助けてもらわなければならないこともあります。

    だからこそ思います。

    大切な存在のそばにいたいなら、まず、自分のことも大切にしなくてはいけないのだと。

    自分を大切にすることは、ときどき、自分だけのためのように感じます。

    けれど、そうではないのかもしれません。

    私が元気でいること。ごはんを食べて、眠って、つらいときにはだれかを頼ること。

    それはめぐりめぐって、こころの日常を守ることにもなります。

    こころのために。
    夫のために。
    家にいる、たくさんの命のために。
    私は私を、大切にします。

    それもたぶん、家族を愛することのひとつなのだと感じるのです。

    ◇ ◇◇ ◇◇


    画像: 「もう大丈夫」になるまで、その子の時間を待つ

    咲セリ(さき・せり)
    1979年生まれ、大阪在住。作家、家族療法カウンセラー。夫と10匹の元保護猫と暮らす。心の病や生きづらさを抱えるなか、不治の病をもつ一匹の猫との出会いをきっかけに、「命は、生きているだけで愛おしい」ということを知る。以来、生きづらさのなかにある小さな希望を、ノンフィクションや小説、エッセイに綴りつつ、NHKの福祉番組への出演、全国での講演などでも活動。主な著書に、『死にたいままで生きています』(ポプラ社)、『それでも人を信じた猫 黒猫みつきの180日』(KADOKAWA)など。

    ◆note:https://note.com/sakiseri

    ◆ブログ「ちいさなチカラ」

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    「ひとりきりでも、揚げたてコロッケはおいしいけれど、絶滅の前夜、恐竜たちは、誰かと何かを食べたのだろうか」
    大阪の片隅。この世界からこぼれそうな人たちが、ふっと息をつけるうらぶれた居酒屋「飛鳥」。

    ・本日のフランス料理「ちくわぶとねぎのグラタン」
    ・自動販売機の50円のカフェオレチューハイ
    ・猫も喜ぶどて焼きオムレツ
    ・裏メニュー「ぐちゃまぜ豆腐丼」

    雑であたたかなごはんと、傷を負った人々の泥臭いぬくもりを描いた、絶望のなかにあるちいさな灯りの物語(全4編)。



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