• 絵本作家、ヨシタケシンスケさんの絵本の世界に、随筆家、山本ふみこさんが対談で迫ります。
    (『天然生活』2017年12月号掲載)

    最近、絵本を読んでいますか? 「NO」だったら、おすすめの絵本があります。かつては子どもだった大人のあなたへ。

    「本当にバカだな~」「子どもってこういうこというよね~」。ページをめくりながら、ひとりニヤニヤ。絵本の舞台は、主人公の部屋。繰り出されるのは、彼(ほとんどが男児)の妄想と、思いつきと、言い訳と……。

    作者いわく「身も蓋もない」非優等生的な主人公の言動にあきれつつも、ふだんは隠すようにしている自分のゆるい部分がくすぐられてしまうのです。そんな脱力効果こそが「ヨシタケシンスケ絵本」の醍醐味。

    大冒険も、素敵な出会いも、ためになるお説教もないけれど、机の前にいたって、頭のスイッチひとつで、毎日を面白おかしく転がすことができると教えてくれます。いまみえている平凡な世界も、実はいろいろなおかしみをはらんでいるということに気づくはずです。

    そして「面白がりアンテナ」を働かせれば、どんな状況のなかでだって、ちょっとは(けっして大それたことはいいません)楽しくなれると思えるはずです。

    「大事なことって何をしなくても覚えていられる。でも世の中って、わざわざ覚えておかなくてもいいようなことが大部分を占めています。そういう記憶にとどめる価値のないようなものをたくさん集めたときに、その人らしさが表れるのでは?」とヨシタケさん。

    そんなヨシタケさんの創作の背景を解き明かす、随筆家、山本ふみこさんとの対談をご覧ください。

    ヨシタケシンスケさん × 山本ふみこさん、愛すべき「井の中の蛙」対談

    画像: ヨシタケシンスケさん × 山本ふみこさん、愛すべき「井の中の蛙」対談

    —ヨシタケシンスケさんが描く絵本も、山本ふみこさんが綴る随筆も、ほとんどが家のなかでのこと。行動半径たった数メートル、主人公(当人)の頭のなかで繰り広げられる思いつきや妄想で、読者を深い世界へと連れ出してくれます。

    ヨシタケ(以下、ヨ): ぼくの本って主人公がほとんど部屋から出ないんですよ。大冒険も何もない。行ったとしても、公園。ぼく自身が外に出ないので、舞台は、どうしてもインドアになっちゃう。

    山本(以下、山): まるで同じ! 私は、とにかくひきこもりたい人だから。

    ヨ: 世界中をめぐっていろいろな人と出会い、人間の素晴らしさを謳い上げる! みたいな絵本もありますが、ぼくは、その逆。何もしないし、どこにも行かないけど、椅子に座って見えるもので全部をまかなえるんじゃないかって。出来事や感情の起伏は、移動距離に比例するものもあるし、そうでないものもあるのでは?という提案です。ぼくができるとしたら、そこだけ。人って、いいよね、友情って素晴らしいよね、っていう経験があまりないので、そこはいえないんですよ。

    山: うふふ。でも、「惑星感」があるのよね。とっても広い感じがするの。

    ヨ: いわば負け惜しみなんですよ。友達がいなかったり、行動力がなかったりという、キラキラしていない自分の状況をどうしたら肯定できるのか?って考えて。本当に井の中の蛙でしかないんだけど、その井戸の中のことならだれよりも詳しく話せるんだよ、と。人にその井戸の話をしたときに、「きみの話を聞いていると井戸もいいなあって思える」といってもらえれば、それでいいんじゃないかな? 広い海を知らず、井戸の中で一生を過ごしました、という人に自分は感情移入しちゃうし、それで楽しければいいんじゃないかな?って思えてしまう。

    山: 私も本当に日常の小さなことばかり書いているけれど……。でもね、井戸の中の世界は大事だよ、永遠だよって、とても強く思います。

    画像: 日常のスケッチ。「忘れてしまうような、どうでもいいようなことを記録しておきたくて」。絵本の原画はA4サイズに見開きで描き、拡大して使用

    日常のスケッチ。「忘れてしまうような、どうでもいいようなことを記録しておきたくて」。絵本の原画はA4サイズに見開きで描き、拡大して使用

    画像: スケッチブックは、腰から下げて常に携帯。20代のころから始めて69冊目。日々の生活のなかに小さな面白さを見つけて描くことが日課に

    スケッチブックは、腰から下げて常に携帯。20代のころから始めて69冊目。日々の生活のなかに小さな面白さを見つけて描くことが日課に

    ズルしたり、怠けたり、人の弱い部分に共感します

    ヨ: 最初の絵本を出したのが5年前。その前にも依頼があって、トライしたんですけれどできませんでした。絵本が好きで、たくさん読んで育ってきて、いざ自分がつくる側になると緊張しちゃって。

    山: 難しく考えてしまった?

    ヨ: そうです。絵本の果たす役割は?とか、子どもに与えるべきものは何だろう?とか……。もちろん、やりたいことがあれば、それをやればいいけれど、そうでもないし。それで、担当編集者の方が、『幾つか企画を用意したので、そこで気になるものがあったらやってみては?』と。そのなかに「りんごをいろんな目線でみてみよう」というお題があったんです。ぼくはイラストレーターをずっとやってきて、イラストの依頼には必ず、お題がある。クライアントの要求を全部満たしたうえで、自分なりの要素をプラスして打ち返すのが、ぼくの仕事。

    山: お題があれば、いかにちゃんと答えるかっていうことに集中できますね。

    ヨ: はい。いままでのイラストレーターとしての仕事と同じアプローチで絵本を描けたのが一番大きな発見です。

    あせるから見える景色があるから、ジタバタせずにあせる

    山: 必要な道筋を通ってここまで来たんですね。それにしても、お話ししていると、すごく落ち着いているように感じます。あまり、あせったりしないでしょ?

    ヨ: めちゃくちゃあせりますよ。でも、いまは安心してあせれるようになりました。「こういうときってそうなるよねー」って客観的でいられます。あせるからみえてくることもいっぱいある、っていうのが、いまはわかってきましたし。だから、あせることをやめないように。

    山: ジタバタせずにあせる。

    ヨ: あせるからこそみえる景色がある。ズルしたり、あせったり、嘘をついたり、そういう弱い人がもつ特性にひかれるし共感します。自分がそういう人間なので、同じような弱さをもっている人に絵本を届けたいし、喜んでもらいたいですね。

    山: みんなが盛り上がっているときに輪の外にいるような子に読んでほしい?

    ヨ: そうですね。たまに、イベントで読み聞かせをするんですね。そういうときに、前にグイグイ来る子と、一番後ろでお母さんの後ろに隠れるような子がいて。ぼくは後者だったんですよ。だから、一番後ろにいるその子に『きみの気持ち、わかる! 前に来なくていいよ。やだよね~、こんなところでグイグイ前に来るの』って心で語りかけてしまうんです。

    画像: あせるから見える景色があるから、ジタバタせずにあせる

    日常のささいなことに面白味を見つけて光を当てる

    山: ヨシタケさんがグイグイタイプだったら、絵本は生まれなかったかもね。人がマイナスだと思っていること、うまくいかないと思っていること、そここそが面白いし、光を当てたいと私も思います。成功話より失敗話に興味があるし、持つより持たないほうが好きとか。そんな自分なので、ヨシタケさんの絵本を見たときに、すごく励まされました。このひねくれ具合を調整しながら、それを生かした作品をつくり出せたのは、何か自分のなかで訓練をした結果なのでしょうか?

    ヨ: いえいえ、全然。基本的には、ただの変なおじさんです(笑)。本当に友達もいなかったし、『俺が俺が』っていうところは一切なかったですね~。

    山: 控えめなタイプだったんですね。

    ヨ: ぼくね、反抗期がなかったんですよ。反抗する理由がどこにも見当たらなかった。「ああいう大人になりたくない」という反発心で自分をつくり上げていくような思春期に、何にも怒りがなかった。それにはめちゃくちゃあせりました。

    山: なんで友達は、何かに怒り、あんなに自分の意見や思想をもっているんだろう、って?

    ヨ: はい、自分の意見をもっていないことに対することにものすごいコンプレックスがありました。これがやりたいとか決められないし、自分は何が好きなんだろう?って。嫌いなことはいっぱいあるけれど、好きなことっていわれても、とくにないなー、困ったなー。

    山: 若いときは、そういう問題を突きつけられがちですもんね。

    ヨ: いまだったら、「人生から嫌いなものを引いていって、残ったものをやるのでもいいんだよ」っていうことがわかるんですけれど、当時は、それもわからなかった。問題意識を見つけなきゃいけないような状況で、とくに思い当たらないときのあせりといったら……。

    山: ああ、わかります。私も夢なんてなかったですよ。本当になりゆき。

    教えてくれるのはへんてこなおじさん、大切なのは言い方

    —でも、10代の終わりには、夢とか未来とかというフレーズが世間から投げかけられることが多いですよね。

    ヨ: 親とか学校の先生って、立場上いえないことって絶対にあるんですよね。学校の先生が子どもたちに「夢って必ずしも叶わないからね」とはいえないんですよ。だから、「夢に向かってがんばろう」という方向性になる。でも、育っていくにつれて、「どうやら先生や親がいっていることと現実は違うぞ、叶わない夢だってあるっぽいぞ」と、経験しながら学んでいくんですけれど。

    山: どこで学ぶかって、漫画や映画、絵本とかですかね。

    ヨ: 物語と自分の経験を合わせて、薄々、気づいていくんですよね。叶う夢と、叶わない夢があるって。

    山: (教えてくれるのは)変てこな大人という存在もありますね。ヨシタケさんの絵本は、まさにそういう存在。親も先生もけっしていわないことが、ここにある。

    ヨ: 身も蓋もないことをいっちゃう変なおじさん。でも、けっして不快な感じはしない。大事なのは言い方だと思う。

    山: そう! 言い方だと思うの。嘘をついちゃいけない、って大人はいうじゃない? でも私は自分の子どもたちの嘘をとっても大事にしてきました。嘘は、その子のことを知る手がかりになるし。私も嘘つきだし、子どもたちの嘘が好きだった。だから、それがダメだとはいえなかったな。

    ヨ: 「クセと嘘」をテーマにした『りゆうがあります』と『ふまんがあります』で伝えたかったのは、いい嘘と悪い嘘があるということ。子どもも嘘をつくなら、大人だって嘘をついているんだよって。大事なのは、どう伝えるかです。こういう言い方も、ああいう伝え方もあるよねって、伝える選択肢を増やすのが大人のひとつの役目だと思う。

    山: ヨシタケさんは、さぞかし面白いお父さんなんでしょうね。

    ヨ: それが、全然。理想のようにできていないからこそ、こういうふうにしたいという願望が投影されている。自分もきちんとできていないからこそ、できない側の気持ちも大事にしたい。

    山: 子どもたちの気持ちにも、大人のダメな気持ちにも寄り添えて、すごい。

    ヨ: 子育てにおいて、僕のよくないところは、子どもたちの気持ちがわかりすぎるところなんですよ。

    <撮影/柳原久子(http://water-fish.co.jp/) 構成・文/鈴木麻子>

    ヨシタケシンスケ
    1973年、神奈川県生まれ。日常のさりげないひとコマをゆかいに切り取ったイラストなどで活躍。『りんごかもしれない』で絵本作家に。数々の賞を受賞。

    山本ふみこ(やまもと・ふみこ)
    随筆家。東京都武蔵野市教育委員。特技は、何気ない毎日に面白みを見つけること。ブログでは日々の徒然をゆかいに更新中。
    http://fumimushi.cocolog-nifty.com/

    ※トップの写真について
    著者が「だれにも怒られなくてすむように」と、男の子の思いつきだけで完結させる物語は、自由で柔らかい。左から)『りんごかもしれない』(ブロンズ新社)、『つまんない つまんない』(白泉社)、『りゆうがあります』(ブロンズ新社)、『あるかしら書店』(ポプラ社)。手前に広げた本)『もうぬげない』(ブロンズ新社)

    ※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです

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