(『天然生活』2014年8月号掲載)
つくり手の思いが宿るかごの尊さを感じて
「私にとって、かごは尊い存在なんです」と語る石村さん。
たとえば京都の骨董市で見つけた持ち手付きのかご。底は長方形なのに口径は楕円。持ち手の端は細い竹で補強され、その細工が美しいデザインにもなっています。
「あまりに好きすぎて使えないんです。だって、壊れたらもう手に入らないかもしれない……。だから、これは、わが家で『見るかご』なんです」と笑います。
つくり手の時間を感じながら使いたい
仕事柄、長野、福島、大分、岩手と、かごの産地を訪ねることも多いそうです。岡山県の蒜山高原では、かごを編む女性たちのグループと出会いました。
「先祖から伝えられた形を、ただ黙々と編む。その姿を見たときに、ああ、かご編みは“根気の仕事”なのだなあと思いました。おばあさんたちが、くる日もくる日も編む。その時間すべてが、編み目には詰まっています。だから、かごを“尊い”と感じるんでしょうね」
仕事をちゃんとさせてもらっているかごは、美しい
また、石垣島にある知人の別荘に招かれた際には。
「料理の前に、みんながかごを抱えて庭にミントを摘みにいくんです。ヤタラ編みのかごに山盛りのミント。その姿の豊かなこと。仕事をちゃんとさせてもらっているかごは、美しいですね。ひとかごのなかに、用と美の両方が含まれていると感じました」
そんな各地で出合ったかごを自宅へと持ち帰り、しばらく部屋に置いておき、徐々に、かごごとに役割を見つけて使いはじめます。
「しまい込んだらもったいない。編み方ひとつひとつが美しいから、まだ、使い方が決まっていないものも出しておくんです」
気に入ったかごは、10年、20年と使いつづける
そんな石村さんが初めて買ったかごは籐のごみ箱でした。結婚し、マンション暮らしを始めたときに、Yチェア2脚と、このごみ箱を手に入れたそうです。
「リビングに置いておいても目ざわりじゃないごみ箱。しかも深さがあって、ごみが目に触れないものを探していたんです」
20代の初めに、北欧の椅子と同じ目線でごみ箱を選ぶとは、さすが。その後、一軒家に引っ越した際には、観葉植物の鉢カバーとして大きなかごを購入。どちらも、いまなお現役で活躍しているそうです。一度、気に入ったかごは、10年、20年と使いつづけるそう。
そのほかにも、ソファの横の竹かごには写真集や洋書、雑誌がどっさり。クローゼット前には脱いだ服を入れるかごを。掃除機の横の市場かごには、不要になったタオルやTシャツをカットしたウエスを。部屋にあるかごをひとつずつのぞいてみると、石村さんのていねいな暮らしがみえてくるよう。
ひとかごごとに暮らしの備えを
「くるみの木」「秋篠の森」オーナーとして忙しい毎日を送る石村さん。毎日朝早くから出勤し、事務仕事をこなしたり、スタッフとの打ち合わせをしたり。月に何度かは展示会や作家さんの個展などへと、日本全国を駆けまわります。
家のことをする時間なんてないのでは……と思いがちですが、部屋のそこここには、石村さんの「暮らすための工夫」がいっぱい。
ほんの少しのすき間時間があれば、取り寄せている野菜の下ごしらえをして冷蔵庫にストックしたり、掃除機をかけ、例のかごにストックしているウエスで床や棚など気になる場所のふき掃除をしたり。読みたい本も、かごにひとまとめにしておけば、寝る前のひと時、すぐに出してページを繰ることができます。
忙しいからこそ、すぐ次にとりかかることができるように、必要なものを、かごを使って“パッケージ”しておく……。アレとコレをひとかごにセットしておけば、「忙しいから」と言い訳をすることなく、ちょっと手を動かし部屋をきれいにするなど、家仕事をすることができます。そして、かご本体も、気づいたときに、ハンディタイプのモップでほこりを払っておくのだとか。
大事なのは、先の先を読んで備えておくこと。掃除、料理、身支度と、かごが、生活を小分けにする手助けをしてくれます。
「使うことが、そのかごをつくった人に対する感謝につながると思うんですよね」と石村さん。
生活に根づいたかごの美しさは、世界共通
すでに十分な数のかごを持っているけれど、新たに出合ったら買わずにはいられない……。それは、つくり手がどんどん減ってきて、同じものが二度と手に入らないかもしれないから。そして、お客さまやスタッフにも、その美しい仕事を見せてあげたいと願うから。
「来年は、日本だけでなく、世界をまわりたいって思っているんです。タイやベトナムなどのかごも好き。野にある材料でかごを編み、それを日々の営みに生かす……。生活に根づいたかごの美しさは、きっと世界共通ですよね」
国境や時代を超えて、かごに宿る思いは同じ。つくり手の生活のなかから生まれ、使い手の暮らしへと溶け込んでいく……。そんな時間のバトンタッチこそが、かごの尊さの正体なのかもしれません。
<撮影/伊東俊介 取材・文/一田憲子>
石村由起子(いしむら・ゆきこ)
奈良在住。全国からファンが訪れるカフェと雑貨店「くるみの木」をオープンして今年35周年。現在は、そのほか奈良市内に「秋篠の森」「鹿の舟」を、東京・白金台に「ときのもりLIVRER」を展開。 なず菜」のオーナー。暮らしの道具のセレクト眼には定評がある。著書に『くるみの木の日々用品』(文藝春秋)など。
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骨董市で見つけた古い持ち手付きかご
長野県でかごをつくっていたおじいさんが亡くなって、手に入らないとあきらめていたら、骨董市で、おそらく彼の手でつくられたであろうかごを発見。もったいなくて使わずに部屋に飾って眺めている
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです