(『天然生活』2014年8月号掲載)
自然のなかで暮らす静寂を身に着ける服に求めたい
「物を持ちすぎると、重たくなる」と鈴木さんはいいます。スタイリングという、日々たくさんの洋服に触れる職業に徹しながら、物をなるべく持たずに生きる。それは、心から服が好きだからこそたどり着いた選択でした。
「30代のころは、たくさんの服を持っていて、毎日、カメレオンみたいに着替えていました」
得意としていたのは、最先端のハイファッションを取り入れたスタイリング。パリコレクションを見にいき、ブティックで気になる服があれば手に入れる。そうして自分で着てみることがまた、スタイリング力とセンスを養います。
けれども、めまぐるしく流行が移ろうファッションの世界で仕事に没頭するうち、鈴木さんは体調を崩してしまいます。
気づいたら、天然素材に手が伸びていました
「結局、自分の好きなものって何だったんだろう」
そう思った鈴木さんは、持っていた洋服のほとんどを手放してしまいます。ブランド物のバッグや、細いヒールの靴もなくなり、洋服であふれていたクローゼットは、がらんとしました。
ふと思い出したのが、子どものころに見た稲田の光景でした。
「8歳まで、田舎の山のなかで暮らしていたんです。そこのお年寄りの暮らし方が、鮮烈な印象で。家の中はがらーんとして、すごく気持ちがいい。外を歩けば、田んぼや竹藪にきちんと手が入れられている。自然と人の生活が一体となっているんですね」
あのとき自分は、彼らの暮らしを気持ちいいと感じた。自然のなかの静寂にひかれていた……。そのことに思い当たった鈴木さんは、あらためて服と向き合いました。子どものころに好きだった気持ちよさを服に求めて、袖を通して心地よいかどうか、肌になじむか。気づいたら、天然素材に手が伸びていました。
手元に残した服も、もう一度、見つめてみました。どうしても手放せなかった服は、やっぱり本当に好きなもの。着心地がよく、自然な姿で、新しく買い足した服とも、しっくりと合ったのです。
3シーズンのコーディネート例
服はラックにかけ、いつも見える場所に置いています。引き出しにしまうと、どんな服があるか忘れがち。毎日、目にすることで、コーディネートの幅が広がり、自分が大事にしているものもみえてきます。
ワンピーススタイル —その1
衿ぐりが身に添うようなヘンリーネックのロングコットンシャツに黒のサルエルがお気に入り。プラスアイテムで、季節ごとに黒+白のバランスを変えます。
春 アースカラーを加えてやさしい印象を
気持ちいい季節には、ランニングシューズでどこまでも歩きたくなります。アースカラーのストールをざっくりと巻いて、やさしい印象に。カーディガンの黒のアクセントで全体を軽く引き締めます。
夏 白のボリュームをたっぷり生かして
ロングシャツの裾から、シルクのサルエルをちらりと見せて。シャツは衿元のボタンを外し、たっぷりと風を取り込みながら歩きます。足元はスニーカーで、白のボリュームをさわやかにアップ。
秋 夜空の色に包まれて深まる秋を楽しむ
ゆるやかな服を着るときは、ボリュームのある上着のほうが収まりがよいものです。牧師の服のようなウールコート。裾広がりのシルエットと、繊細なブルーグレーの裏地が印象的です。
ワンピーススタイル —その2
インド綿ならではのきめ細かな感触が心地よい、ネイビーブルーのコットンドレス。季節ごとにさし色を利かせてコーディネートを楽しみます。
春 さわやかな季節にはブルー&ホワイト
ネイビーブルーに合う色といえば、白。なかでもナチュラルなオフホワイトは、春の柔らかな空気にぴったり。ストールでブルーの分量を増やすと、バッグのオフホワイトがいっそう効果的に。
夏 サーモンピンクでちょっと冒険してみる
ナチュラルな色を合わせるのもいいけれど、夏は、いつもと違う色を思いきって加えてみても楽しいものです。とろりとしたサーモンピンクの大判ストールは、日よけに、冷房対策にと、大活躍。
秋 イタリアンレッドは気品のあるアクセント
ユリパークのカシミヤニットを合わせた、ベージュとネイビーの落ち着いた組み合わせ。靴とバッグのイタリアンレッドが上品な華やかさを添えて、着る人の表情まで明るく見せてくれます。
<スタイリング/鈴木えりこ 撮影/尾嶝 太>
鈴木えりこ(すずき・えりこ)
1988年、独立。広告、女優、ナチュラル系雑誌などのスタイリングを手がける。エシカルファッション(オーガニックコットンやフェアトレードなど、環境や社会に配慮した衣服)にも造詣が深い。MMBOOKSから発売される『冷えとりスタイルブック』(2019年10月30日発売)の中でスタイリングを1テーマ担当。2019円10月末には、企画構成スタイリングをした秋冬ファッションの本も発売予定。
https://erikosuzuki.com
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです