• 食通の手土産リストに欠かせないゴンドラのパウンドケーキ。オーソドックスなつくりなのに、人をひきつける魅力が。味の秘密を聞きに、創業82年の老舗洋菓子店を訪ねました。
    (『天然生活』2015年7月号掲載)

    わざわざ買いにいきたくなるどこにもないケーキ

    一見、不愛想。でも、ひとたび口にすると……

    ファッション、インテリア、雑貨、何においてもとびきりの目利き。食も然りで、日本中のおいしいものを知っているのでは?というKさんのお茶に呼ばれ、ゴンドラのパウンドケーキを食べたときの弾む気持ちは、いまでも忘れられません。

    三角にカットされた茶色い焼き菓子は、一見、不愛想。クリームのお化粧も、ナッツの飾りもありません。

    表面にぶつぶつと穴があいていて、底にはびっしりとラムレーズンが。特徴といえば、これがそう?

    そんなことを考えながら、ひと口。―あれ? あれれ? ずいぶんしっとりとしているぞ。

    そして、上品。バター、卵、砂糖、粉の風味がしっくりまとまっていて、生地がするりと喉を通ります。そして、あとからふわーっとラム酒の香りが追いかけてきて……。

    「ああっ、Kさん、すごいおいしいです」「ふふふ。そうでしょう。一見、普通なんだけど、こういうのが一番難しいのよね」

    画像: 靖国神社の南門前に店を構える。シェフの目の届く範囲内での菓子づくりを守るため、支店は出さず、こちらが唯一の店舗(銀座・松屋で数量限定販売はあり)

    靖国神社の南門前に店を構える。シェフの目の届く範囲内での菓子づくりを守るため、支店は出さず、こちらが唯一の店舗(銀座・松屋で数量限定販売はあり)

    当たり前の味が、本当においしくあるために

    洋菓子のゴンドラは、東京・九段の坂の上にあります。目の前は靖国神社。取材に訪れたころは、ちょうど桜が満開。いつもは静かな店前の通りも、このときばかりは、花見客でごった返しています。

    「お客さまは“わざわざ”当店を目指して来てくださるので、そういう方に満足して買ってもらえるよう努力しないと、と思っています」

    そう話すのは、二代目オーナーシェフの細内進さん。昭和36年に、アジア人で初めてスイス国立リッチモンド製菓学校で学び、その後、パリの名店・ルノートルで修業したという、日本スイーツ界の先駆者です。70歳を過ぎたいまでも、早朝から工房に立ち、洋菓子づくりの指揮を執っています。

    画像: 看板商品のパウンドケーキは、初代・二代目が「現代の名工」受賞のきっかけとなったお菓子。カットしたケーキも販売している

    看板商品のパウンドケーキは、初代・二代目が「現代の名工」受賞のきっかけとなったお菓子。カットしたケーキも販売している

    「パウンドケーキのおいしさの秘密が知りたいって? それは教えられないですよ~」

    そういいながらも、工房の中をくまなく案内し、ケーキづくりの工程を、にこにこと解説してくれます。

    ときどき、できたてのお菓子をパクッとつまんでは満足そうにうなずくシェフ。その横顔からは、お菓子が好きでたまらない、といった感じがにじみ出ています。

    「朝から晩まで、お菓子を食べてますよ。菓子屋が菓子を食べないなら、やめたほうがいいですよ」

    ゴンドラの創業は昭和8年。洋菓子店がまだ数店しかない時代、初代・細内善次郎さんが店を構えました。

    創業から82年、「知られているケーキをよりおいしくつくること」をモットーに、お菓子づくりを実直に続けています。

    画像: 開店当初の面影を残す、店の前での記念写真。中央が初代で、手前が二代目

    開店当初の面影を残す、店の前での記念写真。中央が初代で、手前が二代目

    ショーウインドーに並ぶのは、看板商品のパウンドケーキをはじめ、マドレーヌ、フィナンシェなどの焼き菓子や、ショートケーキにモンブラン、アップルパイ、シュークリームなどの生ケーキ。

    どれも、奇をてらわず、オーソドックスなお菓子です。でも、オーソドックスであるゆえ、ごまかしは利きません。当たり前の味が、本当においしくあるために、使う素材はすべて選び抜かれたものです。

    画像: ケーキの販売は専任を置かず、お菓子職人のスタッフがこなしている

    ケーキの販売は専任を置かず、お菓子職人のスタッフがこなしている

    温度や湿度など、日々の変化に対応してつくり方を変えるなど、お菓子づくり歴50余年の進さんも、気を抜くことは、いまだにありません。

    「教科書どおりにはいかないんです。大事なのは経験と勘。毎日、天気は違うし、材料の出来不出来も、どうしたってある。そういうのは常に考えています。たとえば、気候の変化を肌で感じるため、毎朝、腕まくりをして数分間、外気に当たるようにしています」

    肌で感じた気温や湿度などで、その日のクリームの泡立て方や粉の混ぜ方、焼き具合などを調整するのだといいます。

    画像: 二代目・細内進さん。生粋の江戸っ子気質で、気前がよく、人情に厚い人柄

    二代目・細内進さん。生粋の江戸っ子気質で、気前がよく、人情に厚い人柄

    素材はシンプル。洋菓子の基本のバターと卵と砂糖と粉

    さて、「教えてあげないよ」という、パウンドケーキのおいしさの秘密。取材に来たからには、なんとか、ひも解かなくてはいけません。

    まず、特筆すべきは、丸い形。通常、パウンドケーキは長方形のパウンド型でつくりますが、ゴンドラのそれは丸。なんでも、丸いパウンドケーキをつくったのは、こちらが初めてなのだとか。

    「当初は、うちも長方形のパウンド型で焼いていました。そんな折に、戦後、クリスマスケーキが普及して、丸い型が大量に店で必要になった。でも、クリスマス以外は使わないから、じゃあ、これでパウンドケーキをつくってみようか、というのが始まりです」

    丸いパウンドケーキは、案外、初代のちょっとした思いつきから誕生したのでした。

    画像: シェル型ではない、丸いマドレーヌを始めたのも、ゴンドラが最初

    シェル型ではない、丸いマドレーヌを始めたのも、ゴンドラが最初

    続いては、素材について伺いましょう。パウンドケーキは、お菓子の基本「キャトル・カール」が由来だそうです。バター、卵、砂糖、粉の4つ(キャトルはフランス語で「4」)の素材を同割合にしてつくるのが、キャトル・カールです。

    「洋菓子の本場・ヨーロッパだとこの比率でもいいかもしれないけれど、日本は四季があって、冬は乾燥して夏は湿気が多いでしょ。そんなふうに、気候が違うから、それなりに工夫して、素材を組み合わせないといけないんですよ」

    4つの素材が絶妙に調和したあのおいしさは、シェフが長年培ってきた加減にあるようでした。

    画像: ゴンドラのもうひとつの名品「サブレー」。ゴンドラ形の印を押していく

    ゴンドラのもうひとつの名品「サブレー」。ゴンドラ形の印を押していく

    ゴンドラのパウンドケーキ おいしいお菓子は満腹でも(後編)へ ⇒

    <撮影/有賀 傑 取材・文/鈴木麻子(fika)>

    ゴンドラ
    東京都千代田区九段南3-7-8
    ☎03-3265-2761
    9:30~19:30(土曜は~18:00)
    ㊡日曜、祝日(12月は無休)

    ※トップの写真について
    パウンドケーキは、バターとラム酒の風味がとばぬよう、特注の缶入り。常温(18℃以下)で夏は2週間、冬は3週間、日持ちする。一台直径15cmで2,500円

    ※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです

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