働く場所と暮らす場所。あえて、分ける必要はないと考えたふたり。だって、少し前までは、そうやって暮らす人ばかりだったはずですから。今回は、弘隆さんが担当する家具や照明のお話を。
(『天然生活』2016年11月号掲載)
小さな暮らしの3カ条
一 欲しいものはとりあえずつくる
何か必要となったときには、まず、つくれるかを考える。自分の手でつくった経験を大切にしたい。
二 仕事とプライベートを分けない
ふたつの間をゆらゆらと漂うように暮らす。仕事も好きなことなので、あえて意識しての気分転換は必要ない。
三 忙しい期間を分ける
子育て真っ最中のふたり。展示会の予定は重ならないように入れ、どちらかが時間に余裕をもつ。
弘隆さんの担当は、家具と照明
照明はもちろん、弘隆さんの作品を。ふたりの好みが似ているから、「いいな」と感じる雰囲気は同じです。
あ・うんの呼吸を過信しないこと

弘隆さんが好きな、1920~1930年代の上海家具。「ヨーロッパのアールデコ様式とアジア文化の融合が面白くて」。東京・早稲田の「on the shore」で購入
対して、弘隆さんの担当は、家具と照明。これは、夫婦の嗜好が似ているからこそ、分担が可能になったことです。
「ただ、常にまったく同じ意見になることはさすがにありませんから、小さくても違和感を覚えたら、きちんと伝えるようにしています。物を選ぶときには、『これがいい』ではなく、どうしてこれを選びたいかを、細かく伝える。たとえば、『この照明はラインがまっすぐ伸びるので、光がすっきり広がる。だから、この部屋には似合うと思う』というふうに。すると、相手も納得できるし、ときには、『いや、この部屋には丸い光もありだと思うけれど』と、こちらが納得できる意見を出しやすくなる。そこで、もやもやしたものを残さないのが大切なところで」
あ・うんの呼吸は理想だけれど、それを急いでしまってはときに齟齬が生まれることも、ふたりは知っています。
生活と仕事、それをひとつの小さな空間でうまくまわしていくために重要なのは、同じ方向をぶれることなく向いていること。
ときに立ち止まって、お互いの視線の先を細かく確認しながら、飛松家の暮らしは、ゆるやかにまわり、流れていくのです。
壁付けの照明は、角度が自由自在

壁面のアクセントに。水場横のシンクで作業をする際は、下に下ろしてシンクまわりを明るく照らすことができる。位置を変えると部屋の明るさが変化する面白さがある
お気に入りの椅子は、張り替えて

以前、使っていたアトリエにあった椅子。スタッキングできて便利だったけれど、座面のビニールが気になっていた。そこで、みずからレザーに張り替えて再利用。好みの質感になった
鳥かごは、驚きの手づくり

ジュウシマツのムギも飛松家の一員。「仕事が全然なくて、ひまでしかたなかったころにつくった」という中央の鳥かごは、ひごの一本一本まで弘隆さんが削ってつくったという渾身の作
照明の複数使いが、空間を豊かにする

「ペンダントライトは、ひとつだけだと不思議とわびしくなってしまうんですよね」と弘隆さん。明るさと高さを変えて複数使いにすると空間に奥行きが生まれ、雰囲気がよくなる
なぜだか、ひかれる古びたはしご

知人からもらった二段ベッドのはしご部分と、骨董市で見つけた古い脚立。ディスプレイというわけではなく、天袋に入れてあるものを取るときに使う、れっきとした実用品
間取り図

飛 松 家 流 、グ リ ー ン と の つ き あ い 方
丹精込めてというよりは、植物それぞれの生命力に驚きながら、一緒に暮らす感覚です。
放っておけるほど、たくましいものを

「花は、散ってしまうとさびしいから、結局、増えていくのはグリーンばかり」と眞弓さん。日当たりがいい家なので多肉植物は放っておいても元気に育つ。それぞれが、伸びるにまかせて育てている
植物は、適材適所に

日の当たらない場所には、日陰でも育つ植物を配置する。湿った状態を好む場合が多いので、洗面所まわりに。「顔を洗うときに、水やりができるので楽ですよ。歯みがきしながら読書できるようにブックホルダーも付けました」
愛鳥・ムギの安らぎの場としても

まるで林のように、グリーンがあちこちにあしらわれている飛松家。そのなかを、ジュウシマツのムギが自由に飛びまわる。「緑のなかをムギが飛んでいるのを見ると、こちらがホッとした気分になって癒されます」
玄関前には多肉植物がいっぱい

玄関前は、小さなジャングル。この界隈は、玄関先に植木を置いている人も多いので、近所の人とのちょっとした会話のきっかけにも。「多肉植物は、まめな水やりは必要ないのですが、長く出かけるときはご近所さんにお願いすることも」
東京の下町に、静岡の里山

静岡・熱海市をはじめとする、放置里山に眠る種(シードバンク)から育てた在来種を寄せ植えした “里山ユニット” を設置。主宰する「アーバン・シード・バンク」の考えに賛同しての参加。間伐が進むことで、里山が息を吹き返す
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職住一体の小さな暮らし。飛松弘隆さん、小駒眞弓さんの住まいとアトリエへ ⇒
「料理と台所」・職住一体の小さな暮らし。飛松弘隆さん、小駒眞弓さんの住まいとアトリエへ ⇒
<撮影・柳原久子(https://water-fish.co.jp) 取材・文/福山雅美 イラスト/須山奈津希>
飛松弘隆(とびまつ・ひろたか)
陶磁器作家「飛松陶器」として2005年から活動。「飛松灯器 tobimatsu TOKI」の屋号で磁器の鋳込みを中心とした作品を発表。
http://tobimatsu-toki.blogspot.jp
小駒眞弓(こごま・まゆみ)
陶磁器の豊かな質感を生かしたジュエリーブランド「U’U’(ウウ)」として活動
http://uu-unununium.blogspot.jp
※トップの写真について
2階の和室には仕事関係の道具類はなく、プライベートなくつろぎスペース。朝ごはんは、のんびりと、ここで食べることにしている。食事が終わったら下のアトリエに移動して、仕事がスタート
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです