(『天然生活』2016年11月号掲載)
小さな暮らしの3カ条
一 適当なものは家に入れない
間に合わせのものを買わない。適当なものを入れると、結局は捨てられなくなって、物が増えてしまう。
二 次の世代に受け継げる物選び
シルバーのカトラリーは、将来、娘さんに譲る予定。上質なものであれば、何代にもわたって愛用できる。
三 夜、寝る前はニュートラルな状態に
新しい一日を片づけからスタートさせたくないから、散らかった状態では寝室に入らない。
厳しい審査をパスした、自分の定番と暮らす
粕谷家には、控え選手なし。居場所を与えられるものは、いつでもベストコンディション、代わりなんていないスタメンのみ。
※ スタメン=スターティングメンバー(和製英語)。スポーツの団体競技で、試合スタート時の出場選手。先発メンバーのこと。
暮らしが、不必要に大きくなるのは、「あれがあったら便利かも」で、物がどんどん増えていくから。それがベストであるか、そうでもないかはともかくとして、つい、控えを増やしてしまうから。
ちなみに、粕谷家では、スタメン登録されるまでに頭のなかでさまざまなシミュレーションが行われ、ふるいにかけられ、選び抜かれたものだけが、粕谷さんの家へとやってきます。
その条件のなかで重要視されるのは、「長く使えるものかどうか(修理が可能であるか)」「買い足しが可能なものであるか」ということ。
「たとえば、修理できないものについては……気に入ったグラスを8個セットで買ったとします。長く使ううちに、不注意でひとつ、またひとつと割ってしまうことも。そこでまったく同じものを買い足せないと、たとえよく似たものを合わせて使っても、どことなく居心地の悪さは残ってしまうはず。それが嫌なので、消耗品に関しては、長く製造されているもの、いわゆる定番のアイテムを選ぶことが多くなりますね」
ダイニングの椅子は、結婚のときにそろえたもの。購入したのは東京・銀座のデパートで、「当時は本当に、いまほど高価ではなかったのよ」といいますが、一度に6脚ですから、相当の価格です。
しかし、かれこれ25年。ふたりのお子さんが大きくなり、「もう、汚すことはないだろう」と、3年前に座面を張り替えて、いまも現役。これからもずっと、食事風景にはこの椅子の姿があるはずです。
いつでも繕いができるように
流行り物、便利物にも飛びつかない
シルバーのカトラリーは気長に集める
小さな暮らしの楽しみ
朝、自分のために淹れるコーヒー
家族がまだ寝静まっている朝、ゆっくり味わうひとりの時間。
<撮影/嶋本麻利沙 取材・文/福山雅美 構成/fika>
粕谷斗紀(かすや・とき)
スタイリスト・吉本由美さんのアシスタントを務めたあと、独立。子育てをしながら、幾つかのブランドのプレス業を行う。現在は普段使いのリネンを提案する「フォグ リネンワーク」にてプレスとして勤務。夫、長男、長女との4人家族。
http://www.foglinenwork.com
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです