築170年の家で始まった、コッツウォルズでのふたり暮らし
去年の夏、私たちは、約22年暮らしたロンドンを離れ、コッツウォルズの端っこ、小さな街「チャールブリー」に引っ越しました。コッツウォルズは「羊の丘」という意味です。イングランド中央部に広がる特別自然景観地域で、その名の通り古くから羊毛で栄えた地域です。
ふたりの子どもたちは大学生になり、それぞれ大学のある街に住むようになり、私と夫は以前から計画していた田舎暮らしを実行すべく、家探しをスタートしました。そうして、チャールブリーの街と、ここに建つ築170年の家に出会いました。
建てられて170年、ずっと賃貸だったという変わった歴史を持つこの家の中は、かなり疲れていました。改装には費用も労力もかかりそうでしたが、私も夫も一目惚れ。覚悟を決めて購入手続きを始め、3カ月後にやっと鍵を手にし、ドアを開けると床にはダンゴムシだらけ、小さな中庭は草ぼうぼうのジャングルのよう。でも、このボロボロ感がたまらない私。もう、どんな暮らしが繰り広げられるか、妄想スタートです。引っ越しを1カ月後に決め、仕事の合間にロンドンから通いながらの改装をスタートしました。
とてもお天気のいい日が続く夏の日、ホコリまみれになりながら、床のカーペットを剥がしたり、大工さんに壁の取り壊しをしてもらったりといった工事が始まります。昼食時間、夫と街に一軒だけのデリ・カフェにサンドイッチを買いに歩きだすと、前から歩いてくる老紳士がすれ違いざまに「Good Afternoon!」。私たちも慌てて「Good Afternoon!」と返します。今度は若い女性がすれ違いざまに「Hi !」。私たちもまた慌てて「Hi !」。とにかく、みんな挨拶をしてくれます。同じイギリスですが、ロンドンから越してくる私たちには、この街の人たちの挨拶の習慣はとても新鮮に感じました。
散歩が楽しい、誰もが挨拶を交わす街
夏の間は国内だけでなく、ウォーキングを目的に、ヨーロッパじゅうからコッツウォルズに多くの人が訪れます。そうなると、すれ違う人々も多く、挨拶も忙しくなります。でも、不思議と挨拶は何回しても気持ちがいいもの。加えて、元気が出てくるから不思議です。おかげで外に出るのが楽しくなってきます。
夏はまた、バラやフジ、ラベンダーなどのお花が見ごろです。コッツウォルズの家特有の、はちみつ色のレンガに花の色が映えて、とても鮮やか。散歩しながら、それぞれの家の前庭を鑑賞するのも夏の散歩の大きな楽しみのひとつです。
初めてお向かいさんに出会ったのは、彼がはしごに登って外壁のバラの手入れをしていたところでした。お互い自己紹介をしてご挨拶。お向かいさんは、「君たちが朝、起きてカーテンを開けると素晴らしいバラが見えるように、僕は手入れをしてるんだよ」と笑いながらジョークをいってくれました。そのころまだ改装途中だった我が家は、ホコリまみれの工事現場のような様相でしたが、朝起きて、この見事なバラを見て1日をスタートができるのを想像するだけで心が躍ったものです。
庭の植物を鑑賞するのは大好ききな私ですが、ガーデニングは大の苦手。いつも夫からは、植物キラーと呼ばれる体たらくでした。そんな私でも、この街と家に暮らしていると、庭への情熱が湧いてきます。そうこうしているうちに、あっという間に1カ月が経ち、ロンドンからの通いの日々も終わり、まだまだホコリだらけの家に、家族と2匹の猫と引っ越しました。ここからは、築170年の家に住みながらの改装作業です。朝、起きてカーテンを開けてお向かいさんのバラを見て、1日がスタートします。街に出て、今日も元気にご挨拶。
その日から、私たちのコッツウォルズでの暮らしが始まりました。
この連載では、私たちのコッツウォルズでの暮らしを、お伝えしていきます。
<撮影・文/コヅエ ガーナー>
コヅエ・ガーナー
神戸市出身。イギリス・コッツウォルズ在住。ソフトファニシング・インテリア、風水インテリアデザイナー。2008年からMisty Interiorをスタートし、ロンドンを中心に活動している。
http://www.mistyinterior.com/