具材のコンビネーションが、想像力を掻き立てる
情緒ある街並みを残しつつ、オフィスビルやタワーマンションなどが林立し、新旧が入り混じる勝どき。そんな勝どきの路地裏にひっそりと佇むのが、2016年オープンのベーグル屋さん「TANUKI APPETIZING(タヌキ・アペタイジング)」です。
築50年ほどの長屋をリノベーションしたお店は、白を基調としたシンプルな空間。ショーケースの中に色とりどりのベーグルサンドがずらりと並びます。その美しくカットされた断面には、鮮やかなイチゴや野菜が顔をのぞかせ、つい見入ってしまいます。
サンドのフィリングは、店主の木幡さんが自信を持っておすすめするもの。たとえば、生ハムとツナポテトにカボチャとリンゴのサラダを合わせたもの、生ハムとアンチョビをイカ墨入りのベーグルではさんだものなど、味を想像するのが楽しくなるものがたくさん。
美味しさの秘密は、計算され尽くしたバランスのよさ
なかでも気になったサンドは「いくらとエッグ」。イクラと玉子サラダの組み合わせは、どのように思いついたのでしょうか。
「タマゴ×タマゴなんですけど(笑)。ここは築地が近いので、海産物を使ってなにかできないかずっと考えていました。さばサンドではありきたりかなと。イクラはサンドではなかなかないし、高級感もあってよさそうと、マッチングを試行錯誤するうちにこの形にたどり着きました」
イクラは塩漬けだが、ベーグル自体にボリュームがあるので、塩気が足りなく感じてしまう。そこで、合わせるベーグルは、粗目の岩塩がのった「しおベーグル」をチョイス。岩塩で塩気をさらに足し、イクラの味が引き立つようにしているのだとか。
早速いただいてみると、まろやかな玉子サラダに濃厚なイクラがほどよいアクセントになり、絶妙のバランス! イクラと玉子の相性のよさに、取材チーム全員が衝撃を受けたのはいうまでもありません。
生産者の顔が見える野菜や果物を惜しみなく
そんな具材の見事なハーモニーだけでなく、感動するのが野菜や果物といった素材自体のおいしさ。厚いベーグル生地にも負けずに、くっきりと素材の味が浮かび上がります。
「野菜はおもに、福岡の糸島で少量多品種の野菜を無農薬で栽培する『野菜やトラキ』さんから取り寄せたもの。果物はいただいたものや食べ歩いた先で美味しいものに出合うと、直接農家さんのところに行って契約させていただいています」と木幡さん。
福岡県産の「みつのか」という希少なイチゴもそのひとつ。生産者さんの住所がわからないまま、えいやっと福岡まで出かけていったのはいいけれど、探しても場所が分からない。唯一知っていたFAX番号を頼りに運よく会うことができ、「それでご縁を感じていただきました」と話します。
“おいしい”を探求し続けるからこその味わい
こんな絶品のサンドを生み出す木幡さんは、昔からベーグルがさぞかしお好きだったのかと思いきや、「パン自体に興味がなく、ベーグルの存在も知らなかった」といいます。
「ジム通いをしていた頃、運動前に食べるのに向いていると聞いたので、食べてみた」というのが初対面。そして、味と食感、サンドイッチにしたときの具材のバリエーションの幅広さにすっかり魅了されたそう。
ベーグル店の食べ歩きや専門店で実際に働くなどして知識を深め、その後は独学で学び、サンドイッチづくりにどんどんのめり込んでいきました。
最初は存在さえも知らなったというベーグル。でも、ひとたび好きになった後は、本当においしいベーグルサンドを探求し続けた木幡さん。素材選び、具材のマッチング、味のバランスの調整など、すべてにおいて妥協がないからこそ、生まれた味わいなのだと納得させられました。
日本全国から買いに来る人も多く、行列は必至。早いと平日は午前10時代、土日は午後1時代に売り切れてしまうこともあるそうです。手に入れたい方は、ぜひお早めにお出かけくださいね。
<撮影/林 紘輝 取材・文/諸根文奈>
TANUKI APPETIZING(タヌキ・アペタイジング)
電話(非掲載)
木金8:00~売り切れまで
土日10:00〜売り切れまで
月・火・水休み
東京都中央区勝どき4-10-5 としの荘103
最寄り駅:大江戸線「勝どき駅」