築170年の家は、イギリスでは古くない
イギリスに長く住んでいると、家の築年数の感覚が麻痺してきます。住みはじめの頃は、この家は築100年などと聞いては感動していましたが、そのうちに、築100年はおろか築200年や300年などの家がそこら中にあるのが分かってくると、築50年なんてまだ新しいって感じるようになってきます。
イギリスの家は日本と違い、劣化しにくい石やレンガでつくられています。古い建物を大切に守る文化があり、天候、自然災害が少ないこともあって、あちこちで「古民家」を見かけます。建てられた時代の王族の名前によって家の形式、呼び名が違います。
たとえば、我が家の場合、ビクトリア女王の時代に建てられたので、「ビクトリアンの家」と呼ばれ、ほとんどのイギリス人は、だいたい築何年くらいと検討がつきます。ビクトリア女王の在位期間は長かったのですが、我が家は築約170年になります。
家の購入にあたり、家と売り主について不動産屋さんに聞くと、この家はもともと、地元の公爵が運営する牧場で働く人のために建てられ、この170年間、ずっと借家だったということを話してくれました。家の歴史を聞くと、当時の暮らしなどを想像してしまいます。私たちが、この家にとって初めての、実際にそこに暮らす持ち主ということになります。
無事に購入の手続きを終え、鍵をもらい、ドアを開けて、「家族4人と愛ねこ2匹、これから、よろしくお願いします」と、まずはご挨拶です。
大きな仕事は大工さんにお願いし、自分たちでできることは、なるべく自分たちでのリノベーションがスタートしました。ある日、床板の下から、日本でいうと昭和9年発行の新聞が出てきました。読んでみると、もうタイムスリップしたような感覚で、楽しいことといったら。次に出てきたのは、大きな大きな古いワスプスというハチの一種の巣でびっくりしたり、蹄鉄が出てきたり、まるで宝さがしのような感覚です。
義姉の家はチッピンカムデン村で一番古い家
夫のお姉さん夫婦は、約2年前にコッツウォルズの有名な村、チッピンカムデンに家を購入しました。この家は村で一番古かったので、建造物を守るナショナルトラストのリストに入りました。
グレードワン(歴史的建造物のデザイン、素材などの保護)のリストにも入るので、改装するにあたりさまざまな許可が必要となり、設計者が改装プランの図面を、何度提出してもことごとく却下され、最近やっと、少しの部分の改装の許可が下りました。かなり細かい部分まで、歴史デザインの専門家が審査し、変えてはいけない箇所、変えてもいい箇所を決めるのです。そんなこともあり、全体のデザインの許可は、まだ下りていません。
この家は、14世紀の羊毛産業で栄えた商人が建てた家で、そして、長い歴史の中で増築、改装が繰り返され、紋章のステンドグラスが入った窓、外壁のガーゴイル(怪物の形をした雨どい)、庭に崩れかけのグリーンルームなど、家の中や庭に興味深い部分がたくさんあります。しかし、この家も空き家の期間が長かったので、家の中と庭は荒れ果て、どこから手をつけたらいいのか分からない状態でした。
先日、お姉さん夫婦と家の中の様子を見せてもらい、女性陣は主にデザインで、男性陣は主にDIY道具の話しで盛り上がりました。その後、立ち寄ったティーショップでも、「ここのデザイン、とても素敵よ」と教えてもらい見学した増築部分について、どう改装するかといった話題が付きません。
私たち夫婦と、夫の姉夫婦はいま、それぞれの古民家のリフォームに夢中です。
衣食住の、「住」に意識が高いイギリス人は、古い家の歴史に敬意を払いながら、新しいアイデアを加えて、自分たちの生活スタイルに合ったデザインに変えていくことを楽しんでいます。インテリアの仕事をしている私はもちろんですが、夫、お姉さん夫婦全員で、自分たちの思い描いた家に近づけるよう、カフェに入れば照明を見て、外を歩けばドアの色を吟味している毎日です。
お天気が悪ければ、大好きなウォーキングはあきらめて、せっせと床をけずってる夫です。
<撮影・文/コヅエ ガーナー>
コヅエ・ガーナー
神戸市出身。イギリス・コッツウォルズ在住。ソフトファニシング・インテリア、風水インテリアデザイナー。2008年からMisty Interiorをスタートし、ロンドンを中心に活動している。
http://www.mistyinterior.com/